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24 神石憑依


「若い奴はこれだからダメだ。自分の力量ってのをわかってねぇ。人間、身の丈ってのがあるんだ。背伸びしてそれを越えようとすりゃ、すっころんじまうもんさ」

「そうやっていつも自分に言い訳して生きてるからこんな所にいるんだろ」

「言うねぇ。おっちゃんブチ切れちまいそうだよ」


 口調からはそんな感情は見て取れないが、攻撃号令としては十分だった。


 空中に浮遊していた全属性の魔法が一斉に放たれ、結晶化した植物に色を映しながら駆ける。それはシルバーランク冒険者相当の実力しかなければ、勝負が決まっていたような一撃だった。


 けれど、魔法は俺には届かなかった。


 空中に浮遊する幾つもの宝石たちが許さなかったからだ。


 憑依状態、モードカーバンクル。


 額に真っ赤な宝石が宿り、一時的に宝石を操る術を手に入れた。


 カーバンクルを身に宿した今の俺に宝石の魅了は利かない。


「へぇ、それがお前さんの魔法か。魔物と一体化するなんて気持ち悪いな」

「意見の相違があるみたいだ。俺はこうなれることを誇りに思ってる」


 それだけ幻獣たちと心を通わせられているということだ。


 繋がりを一度断たれたからこそ、再び繋ぎ治せたことが嬉しい。


「たしかにその宝石は硬いみたいだな。魔法じゃビクともしない。けど、嬢ちゃんのほうはどうかな?」


 再び他属性の魔法が展開され、今度はロゼを狙って放たれる。


 その瞬間、俺は地面を蹴って跳び出した。


 彼へと向かって。


「うおっ、助けねぇのかよ!」

「あれくらい自分で何とか出来るだろ! ロゼ!」

「当然!」


 視界の端で結晶化した花弁が舞うのが見えた。


 ロゼの魔法は花魔法。当然このリゼスノロリアの森にも咲いている。


 結晶化した花が。


「チッ!」


 慌てて魔法が放たれるも、苦し紛れの一手に過ぎない。


 宝石でガードして突き破り、彼の懐へと踏み込んだ。


 握り締めた拳、放つ一撃。


 それが彼の胴を捉えて穿つ。


「ぐッ――」


 吹き飛んだ彼は背中から結晶化した木の幹に叩き付けられた。


「やっぱり身体能力はそれほど上がってないな」


 カーバンクルの特性上、仕方なのないことだ。


 これがマガミやミタマなら胴を貫いていた。


「ロゼ。無事だろ?」

「えぇ」


 彼の魔法は決して手加減された威力ではない。


 けれど、ロゼはそれを全て捌ききっていた。


 ロゼの実力もまたもはやシルバーランクの範疇には収まっていない。


 ゴールドランクに戻る日も近いな。


「あぁ、くそ……いてぇな。俺もヤキが回ったもんだ」


 腹部を押さえながらも、彼は立ちあがる。


 まだ交戦の意思があるのかと宝石を構えるも。


「待て待て、降参だ。俺にはもう戦う気はねぇよ。いてて」

「本当か?」

「本当だよ。これ以上は割に合わねぇ。退散させてくれ」

「……わかった」


 浮かべていた宝石を掻き消す。


「行ってくれ」

「ありがたいこった。そんでもって爪が甘いな」


 手の平に握り締められていた魔法。


 密閉され、濃縮され、光すら漏れずに隠し通された、輝く火球。


 隠し持っていた銃の引き金を引くように、彼はその魔法を撃つ。


「知ってたよ」


 ほぼ時を同じくして、一つの宝石を火球の進路上に置く。


 鏡面のように周囲を映すそれに火球が触れた瞬間、宝石はそれを飲み込んだ。


 その刹那、元の軌道をなぞるように火球は跳ね返され、術者である彼を襲う。


「冗談だろ――」


 爆ぜ、光の奔流が周囲の結晶に飛び散った。


 彼は再び背中から木の幹に叩き付けられ、今度こそ意識を失う。


「欲を掻かなければ余計な傷を負わずに済んだのにな」

「土台無理な話でしょ。金に目が眩んでここに来たんだから」

「そう、だな」


 憑依を解き、肩にカーバンクルを乗せる。


 何はともあれ、これで目的は達成できた。


 神石カーバンクル。


 たしかに取り戻せた。

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