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23 属性魔法


 宝石のようにキラキラとした瞳と視線が合い、カーバンクルはきゅーと鳴く。


 同時に宝石を足蹴にして俺の手から腕を駆け上り、肩まで来て頬杖をしてくれた。


「ははは、よしよし」

「きゅー!」


 小さな綿毛の塊を撫でているような心地の良い感触がする。


 そんなに昔のことではないはずなのに、懐かしく思えてしまう。


 迎えに来られて本当によかった。


「かわいい……ほら、こっちおいで」

「きゅー?」


 小首を傾げた後、カーバンクルは恐る恐ると言った風に差し出されて手の平に載る。


 小さな前脚で手の平をぺたぺたと触り、そこが安全だと確認するとロゼを見上げて尻餅をつく。その可愛らしい姿と仕草は宝石よりも人を魅了する。


「こんなにかわいいのに、この子が作る宝石のせいで大変なことになろうとしてるのよね。こんなにかわいいのに」

「二回言ったな」

「こんなにかわいいのに」


 三回目。


「小柄で力も弱いからこそ強い能力が身につくんだ。ほら、毒持ちの魔物って大抵小さいだろ? 例外もいるけど」

「言われて見れば、そうね。この子なりの生存戦略なのかも」

「きゅー?」


 カーバンクルが生み出す宝石には様々な能力が宿っている。


 だが、魅了はあくまでも副次的なものでしかなく、それが利くのは人間だけだ。


 宝石が人間にとって価値あるものだから魅了されてしまう。


 犬や猫などにはただの石と大差なく魅了もされない。


 事を大きくしているのは人間のほうだ。


「とにかく、これで目的は達成ね。早くこの森を元に戻してもらいましょ。もちろん、宝石も」

「あぁ、じゃあ一度こっちにカーバンクルを――」


 結晶化した植物が砕ける音がして、目は直ぐさま音源を追う。


 視界に飛び込んできたのは燃え盛る炎。赤い魔法。


 俺もロゼも反射的に身に迫るそれから身を守ろうとした刹那。


 その誰よりも速く、カーバンクルの宝石が盾となって火炎を遮断した。


「おいおいおい……なんだ、その魔物は」


 驚嘆と僥倖が入り交じったような声。


 宝石越しに耳にし、直接姿を見たわけではないけれど、炎を、魔法を、放った人物に見当が付く。


 聞き間違えるはずはない。つい先ほどまで聞いていた声だった。


「生み出したのか? 宝石を」


 盾になっていた宝石が掻き消えると、予想通りの顔が目に映る。


 ログハウスであったベテラン冒険者の一人。


 俺たちに宝石拾いのルールを話した張本人だった。


「たしか人の縄張りには立ち入らないんじゃなかったのか?」

「あぁ、そうさ。でも、しようがないだろう? 俺の縄張りじゃ宝石が取れなくなっちまったんだ。そうなりゃ他のところから取ってくるしかない。ほかの二人は俺と大して変わらないくらいのベテランだ。敵に回すと不味い。その点、お前たちなら御しやすい」

「随分と舐められたものね」

「と、思っていたんだけどな」


 視線はロゼの手元にいるカーバンクルに移る。


「まさかこの森をこんなにしちまった犯人に会えるとは思ってなかったぜ。そいつが居ればこの先の人生、思いのままだ。馬鹿な上司に頭を下げることも、阿呆な部下に手を焼かされることもない。真の自由が手に入る」

「渡すと思うか?」

「なら、力尽くだ。おっちゃんは強いぞ」


 そう自負するだけのことはあり、彼の周囲にあらゆる属性の魔法が浮かぶ。


 火、水、風、土、雷。


 ベテラン冒険者とだけあって実力は折り紙付き。


 それだけの実力がありながら金に目が眩んで道を踏み外すなんてな。


「正気? 二対一よ」

「俺は魔族二体を相手に戦ったこともある。楽勝だ」

「はったりもそこまで行くと清々しいわね」

「どうかな? 直にわかる」


 彼の言うことは事実かも知れないし、はったりかも知れない。


 どちらにせよ。


「ロゼ。ここは俺がやるから下がっててくれるか?」

「……あたしは邪魔ってこと?」

「いや、そうじゃない。ここにロゼまで参加すると三対一になるからな」


 手の平を上にして伸ばし、カーバンクルをこちら側へ。


「俺とカーバンクルで二対一だ。これ以上は可愛そうだろ?」

「言ってくれるな。手名付けた魔物と即興で連携か? そんなに上手く行くかね」

「行くさ。直にわかる」


 肩まで登ってきたカーバンクルと共に臨戦態勢に入った。

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