21 林業業者
これは今朝、体の節々にコリを感じながら目覚めた時のこと。
体を解しながら椅子から立ち上がるとテーブルの上に見覚えのない空の食器があった。
昨日の夕食時に運ばれてきた料理を載せていた食器はすでに回収されているはず。
数も合わない。
その隣りにメニュー表が雑に置かれているのを見てはっとした時にはもう遅かった。
ベッドの上はもぬけの殻。
ホロの姿はどこにもなく、ただ彼が食べたであろう朝食の食器だけが残されていた。
「抜け目ない子供ね。宝石に取り憑かれてた様子からは想像できないわ」
「それがあの子なりの処世術なんだろ。貴重品をロゼに渡しておいて正解だったな」
「当然の備えだけど、功を奏したわね」
「こっちにすこしでも敵意なりなんなり持ってくれていれば跳ね起きられたんだけどな」
仕事の都合上、野宿することもある。
その際、寝ている間にあの世に行くようなことにならないよう、冒険者はみんな訓練を受けている。
俺も当然ながら会得していて、人だろうと魔物だろうと魔族だろうと、敵意の矛先を向けられた途端、それを敏感に察知して目を覚ますことができる。
が、それは相手の意識に依存していることなので、今回のように朝食の盗み食いが目的の場合は効果を発揮しずらい。
あるいは盗み食いに罪悪感でも憶えていてくれれば目を覚ますことができたかも知れないけれど、あの子の性根はそれほどヤワじゃなかったらしい。
何度も言うようだけど、逞しい子供だ。
「ついた、ここだな」
木のありのままの姿を生かして作られたログハウス。
広い敷地内には大量の丸太が積まれ、木片や木くずがそこら中に転がっている。
片隅には古くなって錆び付いたチェーンソーが横たわっていた。
ホロの証言が正しければここに大量の宝石が保管されている。
「ん? なんだ、あんたら」
職員と思しき人に見付かった。
「俺たちは冒険者で」
「あぁ、なんだ。あんたらも噂を聞きつけてきた口か。なら、中に入りな。もうすぐ森に入る」
「じゃあ、遠慮なく」
職員の前を通ってログハウスの中へ。
ガチャリと扉を開けると、数名の冒険者の視線を浴びた。
一見して三十代から四十代のベテラン世代が多いように見える。
「これはまた若いのが来たな。随分と鼻が利くらしい」
「そりゃ森に入って宝石を拾うだけの簡単な仕事だからな。知りゃあ飛びつくさ」
「なんでもいいが、やたら滅多に喋らないでくれよ。分け前が減っちまう」
しかし、宝石の危険性についてはよく理解していないらしい。
歴戦の冒険者とだけあって魅了も聞きづらいのか、宝石より金といった様子だ。
それはそれで面倒がなくていいんだけれど、将来を見ているようで複雑な気持ちだ。
俺もいつか冒険よりも金になるんだろうか。
「おや、今日は若い子がいるんですね」
がちゃりと扉が開くと成金が入って来た。
いや、正確には上等な衣服に袖を通し、煌びやかなアクセサリーを見に纏った初老の男性だ。
恐らく彼がこの林業の経営者なのだろう。
かなり儲かっているらしく、身形が派手だ。
眩しすぎて目も当てられないくらい。
「いいですね、体力があればより多くの宝石を拾えますから」
「あの、質問いいですか? 俺たち初めてなもんで」
「えぇ、もちろん」
「じゃあ、これからする仕事について。基本的には森に入って宝石を拾うだけでいいんですよね?」
「その通りですよ。リゼスノロリアの森には魔物も出ますから冒険者にしか頼めません。持ち帰った宝石の個数によって支払う報酬も増えていきますよ、頑張ってください」
「わかりました、ありがとうございます。でも、大丈夫なんですかね。結晶化を放置してて」
「まぁ、そうですね。日に日に結晶化の範囲も広がっていますし、直にこの街も飲み込まれるでしょう。とてもいいことです」
「いいこと?」
「結晶化の範囲が広がればそれだけ多くの宝石を拾うことができます。それに結晶化した街なんて観光には打って付けではありませんか。きっとみんな喜ぶでしょうね」
「なるほど……そうですか」
自然と見事に調和したこの街の姿よりも、彼らは宝石を――金を取るらしい。
たしかに結晶化した街は綺麗だろう。
自然が死に絶えた街に客が押し寄せるのかも知れない。
でも、きっとそうなった街は今ほど魅力的には見えないはずだ。
エンジギルドに依頼を出した人も、そう思っているに違いない。
彼らは宝石の魅了が利かないくらい、金に目が眩んでいた。
「もう質問はありませんか? では、本日もよろしくお願いしますね」
経営者の許可が下りて、これで合法的にリゼスノロリアの森に入ることが出来る。
一刻も早くカーバンクルを迎えに行こう。
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