15 召喚拒否
「どうしてあの時、ミタマを召喚しなかったんだ!」
騒々しい声が馬車の中に木霊する。
中にいるのが僕たちだけなのが幸いだ。
煩わしいったらありゃしない。
「ミタマの狐火ならあんな魔物一撃だったろ。なんで他の幻獣なんか!」
「前にも言ったはずだよ。僕はいろんな幻獣を使ってみたいんだ。知るには実戦で使うのが最適解。実際、魔物は斃せたじゃないか」
「そのせいでフィンが怪我したんだぞ!」
ケインは大げさに言っているが、フィンの怪我はそれほど酷くない。
命に別状はないし、体のどこかが欠けた訳でもないんだし、それほど騒ぐことじゃないだろう。
まぁ、思ったことをすべて口に出していたらまたケインが五月蠅くするだろうから言わないけど。
あぁ、煩わしいな。
「おい、聞いてんのか!」
「聞いてるよ、うるさいな。僕には僕の考えがあるんだ。気に入らないならパーティーを抜けるかい?」
「それは……」
「なら、僕のすることに口を挟まないでくれ」
拳を握り締め、歯を食い縛り、ケインは押し黙った。
それでいい。僕に刃向かうなんて言語道断だ。
召喚魔法と幻獣を一番近くで見続けて来たという実績がなければ、こんな取るに足らない奴とパーティーなんて組めたものじゃないんだから。
ジンの奴、よくこんなのとパーティーを組み続けられていたな。
「しかし……」
神狐ミタマが召喚に応じなくなった。
神狼マガミを皮切りに、次々に僕の召喚に応じなくなっている。
それも何故か喚んだことのない幻獣からも召喚を拒否されるようになってきた。
そのせいでフィンが怪我をしたと言っても過言じゃない。
いったい何故だ?
ジンは次々に幻獣を召喚しては幾度となく使っていたのに。
どうして僕が召喚するとこうなるんだ。
ジンがよく使っていた幻獣に拒絶されるのはまだわかる。
だが、それほど召喚されていなかった幻獣さえ召喚に応じない。
「忌々しいな」
僕とジンでいったいなにが違う。
幻獣はなにを考えている? そもそも幻獣に心などあるのか?
わからない。もっと知る必要がある。
何をしてでも幻獣を使役しなければならない。
「う、うう」
「フィア。目が覚めたか」
「私……いたっ」
「無理するな。街に戻ったら病院に連れてってやるから」
「ありがとう。ケイン」
やっぱり大したことないじゃないか。
ことを大げさに話すのは勘弁してもらいたいものだ。
ずっとジンのワンマンチームだったからか、ただでさえ二人は他のゴールドランク冒険者より実力が劣っている。
その自覚をもっと強く持って謙虚にしているべきだろうに。
この僕に意見するとは身の程知らずにもほどがある。
「まぁ、いい」
直にこの二人は捨ててしまうんだ。
この煩わしさもあとすこしの我慢。
二人を斬ったら優秀な冒険者を仲間にして更なる高みを目指す。
そしていつか頂点に立ち、僕の存在を世間に認めさせてやる。
名も無き冒険者から僕は英雄になるんだ。
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