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13 赤青白色


 白いキャンパスに赤い流星を幾重にも書き殴ったように狐火と火炎が交差する。


 舞い散る雪は蒸発し、銀世界は焦土となり、なおも炎の応酬は続く。


 火炎弾の弾幕を狐火の弾幕で撃ち落とし、取りこぼしを九つの尾で払う。


 互いに一歩も譲らない火力勝負の中、魔族は薄く笑みを浮かべていた。


「素晴らしい炎だ。この私と張り合うほどとはな。ゆえに殺すのは惜しい」


 飛来する狐火を払うその手は火炎を纏っている。


「どうだ? 私のしもべとなるのは。地位も名誉も、金も女も、望むだけ用意してあげよう」

「お前が人間なら考える余地があったかもな」

「そうか。残念だ」


 よりいっそ濃い弾幕が押し寄せ、それを狐火で削ぎつつ九尾で身を守る。


 弾幕が過ぎ、尾の隙間から差し込むのは目も眩むような炎光。


 曇天に手を伸ばした魔族は地上に太陽を作り出していた。


「手に入らないのであれば消してしまおう。そろそろ追っ手もくる頃だ」

「逃げられやしない」

「追っ手からか? キミからか?」

「試してみればわかる」

「では、そうしてみよう」


 炎が煮えたぎる太陽が放たれ、それは如何なる障害をも灰に帰す絶大な威力を秘めていた。


 狐火を放っても焼け石に水。


 多少、威力が削れたとしてもそれに大した意味はない。


 だから俺はそれを相殺することを止めにした。


 魔族が作り出した太陽を九つの尾で捕らえ、絡め取り、服従させる。


「な……に?」


 神狐ミタマの能力は狐火ではない。


 あくまで副次的なもので本来の能力は別にある。


 神通力。神に通じる力。


 それがいま魔族の太陽を包み、従えさせているものの正体だ。


 これで労せず高火力が手に入った。


「借りた物を帰すよ、熨斗のしつけてな」


 魔族の太陽に狐火を加え、更に火力を底上げする。


 網膜すら焼き切れそうな眩い光を放ち、太陽は光の化身となった。


 九つの尾を砲台とし、狐火を火薬にして放つ一撃は閃光となって魔族を貫く。


 空いた風穴から火炎が噴き出し、自らの炎で焼き尽くされる。


「よもや……自らの炎で、焼かれるとは……」


 魔族は灰燼に帰し、雪原に吹く身を裂くような風に乗って霧散した。


「カノンに貸し一つだな」


 これで街の奪還作戦は魔族の掃討という形で完了したことになる。


 こちらに向かっているであろうカノンやジハルドはまだこのことを知らない。


 ここまで駆けつけてくるまでに、ロゼのほうも決着がつくはずだ。


§


 青と白の花剣が描く剣閃の乱舞。


 嵐のように過ぎた乱れ斬りは、やっぱり氷の装甲を切り裂けない。


 無数の浅い傷跡が舞い散る雪に埋められていく。


 装甲の隙間を執拗に狙ってみたけれど、表層の一枚も剥がせない。


「やれることは……全部やった」


 これでダメならもう打つ手がない。


「頼んだわよ、ブルーホワイト」


 雄叫びを上げてクウラリアノスが雪原を揺らす。


 曇天まで届きそうなほど舞い上がった雪が凍結して氷の刃が降り注ぐ。


 青と白の花剣を屋根にして防ぐけれど、その瞬間を狙われてまた突進がくる。


 ただの回避じゃ間に合わない。


 氷刃の雨に打たれるのを覚悟で屋根にしていた花剣を盾に。


「――ッ」


 冷たい痛みが走る最中に飛び込むようにクウラリアノスの突進を回避。


 同時に花剣の屋根を張って氷刃による致命傷をどうにか避けられた。


「危なかった……」


 氷刃の雨に身を晒す覚悟がなかったらと思うとぞっとする。


 あたしは回避し切れずに轢き殺されていたに違いない。


「もうすぐ、もうすぐのはず」


 今はまだ時が満ちるのを待つ。


 これで上手くいくかもわからない。


 けれどあたしはこれに懸けるしかないのよ。


「それまであたしは斃れない」


 クウラリアノスは再び雪原を揺らし、氷刃の雨を降らせて突進を繰り出す。


 同じ手だけど、あたしはそれで手傷を負った。


 現状、クウラリアノスの最善手で、あたしがやられて困る一手でもある。


 でも、あたしもやられっぱなしじゃない。


「これで!」


 氷の装甲は切り裂けない。


 それでも目つぶしならできる。


 花剣を雪原に突き刺し、面で雪を掬うように撒き散らす。


 ホワイトアウトする視界にクウラリアノスは突進の制御を失い、私のすぐ側を駆けていく。


 こんな子供だましは一度しか通用しないけれど、それで十分だった。


「来た!」


 クウラリアノスの氷の装甲に咲く一輪の花。


 ブルーホワイト。


 寒さに強いこの花はそれが例え氷の中であっても芽吹く。


 あたしは種を巻いていた。


 青と白の花剣に仕込み、付けた傷跡に残す。


 装甲は降る雪で修復され、種は氷の中に留まり続ける。


 そして芽吹きの時が訪れ、氷の装甲の奥底へと根を伸ばし、花を咲かせた。


 乱舞で傷つけた無数の傷跡から一斉に。


 無数の根から生じた亀裂が氷の装甲を引き剥がす。


 バラバラに砕けて丸裸となったクウラリアノスに、以前のような圧倒的な防御力はない。


「どんなところにでも花は咲くのよ」


 花吹雪が舞って特別大きな花剣が天を突く。


 氷の装甲が健在なら、これでも仕留め切れなかった。


 でも、いまは柔軟性のある氷で構築された本体だけ。


 視界を割るように落ちた花剣がクウラリアノスを両断する。


 敵を、雪を、地面を割った。


「あたしの勝ち!」


 誰にも文句は言わせない。

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