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12 炎魔氷犀


 一見してそれは真っ白な世界に煌めく赤い流星のようだった。


 火炎をジェット噴射のように放ち、空中を駆けている。


 星が落ち、雪が溶け、蒸気の最中から現れる魔族。


 赤い髪に赤黒い角を有したその姿はかつて魔物だった頃の名残だ。


「これはいったいどういうことかな。なぜ魔物と人が並び立っている」


 魔族からしてみれば異様な光景だろう。


 決して人に懐かない魔物がなぜ、と。


「いや、待て。そうか、魔物ではないのか」

「あぁ、幻獣だよ」

「それは興味深い。是非、捕らえて調教したいものだ」


 数的不利と見てか、魔族も仲間を呼ぶ。


 ぴんと伸びた指先から滴る魔力の雫。


 それが雪に染みて凍て付き、結晶が折り重なるように魔物の姿を成す。


「クウラリアノスか」


 削り出された氷像のような体を持つサイに似た魔物。


 装甲のように折り重なった氷は鉄よりも固いと言われている。


 危険度の位置づけとしてはリョクノカプスよりも上だ。


「こちらも時間がないのでね手早く済まさせてもらおう」


 その言葉を合図にクウラリアノスが飛び出す。


 踏み締めた雪を氷に変え、機動力を落とすことなく迫る。


「あれは私が!」

「任せた」


 突進するクウラリアノスの相手をロゼに任せ、こちらは魔族に集中する。


 大きく弧を描くように駆け、魔族の側面から襲う。


 握り締めた拳を振りかぶると視界が炎で真っ赤に染まる。


 そのまま殴り抜いてもいいが無駄なダメージは割けるべき。


 力強く踏み込んで魔族を跳び越え、距離を取る。


 マガミじゃ相性が悪い。斃せはするだろうけど、骨が折れるな。


「ん、ミタマ。いつの間に」


 手の平に柔らかな感触を得て、それに腕を持ち上げられる。


 いつの間にか後ろにいたミタマの仕業だ。


 撫でて欲しいのか手の平に顔を押しつけてくる。


「そうだな。力を貸してくれ」


 応えるようにミタマは一鳴きして俺の体へと飛び込んだ。


 染み渡り、融合する。


 憑依状態の獣化は狼のそれから狐へと置き換わり、尻尾が九つに増えた。


 憑依状態、モードミタマ。


 それが完了した直後、視界が再び赤に染まる。


 魔族から放たれた火球がすでに目と鼻の先。


 けれど、ミタマを憑依させた今の俺にそんな攻撃は通用しない。


 九つある尻尾のうちの一つで簡単に払い、火の粉が雪に交じる。


「興味深いな。なぜ幻獣とそのようなことが?」

「召喚士だからだよ」


 狐火を灯し、魔族もそれに相対するように火炎を灯す。


 狐火と火炎。


 それぞれが雪を蒸発させながら突き進み、衝突して弾け散る。


 火力勝負と行こう。


§


 寒冷地に咲く逞しい花、ブルーホワイト。


 その花弁からなる青と白の花剣が舞い散る雪を斬って馳せる。


 剣撃の最終地点はクウラリアノスの分厚い装甲。


 金属のような甲高い音が鳴って花剣は簡単に跳ね返されてしまった。


「かったッ!」


 全力の一撃を見舞っても装甲につくのは浅い傷だけ。


 欠けてしまうのはこちらのほう。刃毀れして花弁が零れてしまう。


 それに加えて問題なのは、降る雪でなけなしの傷さえ修復されてしまうこと。


「冗談じゃないわ、まったく!」


 叫んで跳んで、クウラリアノスの突進を紙一重で躱す。


 水溜まりを馬車が通ったときみたく、雪の飛沫が飛ばないことだけが救い。


 近づいて来た時の威圧感が凄くて怯みそうになる。


 気合いでどうにか持ち堪えているけど、一瞬でも判断が遅れたら轢き殺されてしまう。


 ミンチになる。


 それは嫌な死に方のトップクラスに違いない。


「隙間はどう!」


 転がるように突進を回避して即座にクウラリアノスを再捕捉。


 花剣を作って放ち、重ねられた装甲の隙間を狙う。


「刺さった! けど」


 それだけ。


 人に例えれば薄皮に棘が刺さったようなもの。


 痛みもなければ動きを制限するほどでもない。


 ただ鬱陶しいだけ。


「どうやったら斃せるのよ、この魔物は!」


 花剣が突き刺さったままドリフトしたクウラリアノスの正面がこちらに向く。


 何度も突進を躱されているからか一度足を止め、その氷の口が大きく開いた。


 なにかと思えば真っ白な息が吐き出され、舞い散る雪がパキパキと音を鳴らして氷の結晶になっていく。


「冷気!」


 すぐにブルーホワイトの花弁で壁を作り、押し寄せる冷気を沮む。


「うー、寒いっ」


 ジンの尻尾で得ていた暖かさの貯金はすでに切れていて身が震える。


 攻撃を躱し続けてもいずれはこの寒さに殺されてしまう。


 それでもどうにかして勝たなくちゃ。


 ジンの相手はクウラリアノスよりずっと強い魔族なんだから。


「ここで負けるわけにはいかないのよ」


 弱音を吐いてる暇なんてない。


 勝つためにはあの氷の装甲をどうにかして砕かないと。


「――そうだ」

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