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11 炎ノ魔物


「ん? この下、氷か?」

「あ、ホントだ」


 靴底に硬い感触を得て立ち止まり、足で雪を払う。


 予想は当たっていたようで硬い氷面が顔を見せた。


「池か湖かしら?」

「いや、周りがただの雪だし違うな」


 雪を払っていくとその大きさが見えてくる。


 大きさはちょうど俺とロゼが両手をうんと伸ばしたくらい。


「雪が溶けて凍ったってところか?」

「なら、炎の魔物の痕跡ってことね」

「確かめてみよう」


 氷面に爪を立てて貫き、ボーリングよろしく掴む。


 そのまま憑依状態の怪力で氷を持ち上げ、遠くへと投げた。


 雪に音を吸われたのか、あの質量にしては控え目な音が響く。


「やっぱりだ、底の雑草が焦げてる」

「炎の魔物はここでなにしてたのかしら?」

「風呂とか?」

「体の汚れとか全部燃やせそうなもんだけど。水浴びの可能性もなくはないか」

「とにかく、活動域に入った」


 ここから先はより周囲への警戒を強めながら進んでいく。


 一面の銀世界に炎が灯れば一目でわかる。


 舞い散る雪をすこし鬱陶しく感じながらも炎の魔物を探した。


「あら? 雪が止んだわね」

「ありがたい。これで見逃しの危険が減る。また降ってくる前に見付けたいけど」


 雪が止み、雲も晴れたのか雪原に日の光が当たる。


 白い地面から照り返す日差しがすこし眩しいくらいだ。


「でも、珍しいわね。寒冷地って日が出てる時のほうが珍しいくらいなのに」

「天が味方してくれてるのかもな」


 けれど、天から一筋の雫が降り、俺の頬を伝って凍る。


「雨、みぞれか?」


 ふと見上げた空に日はなく、天は雪雲に覆い尽くされていた。


 雲の切れ間などなく、隙間なく埋められている。


 なら、この日差しはなんだ?


「――構えろッ! ロゼ!」


 それを見付けた瞬間、叫んでいた。


 腰の刀に手を掛け、空を睨む。


 炎の魔物は地上ではなく頭上にいた。


 空中に座し、自らの炎で身を包み、夏の日差しのような炎光を放っている。


 太陽と見紛う炎の化身を前に息を呑む。


 こいつは強い。


「気を抜くな」

「わかってる」


 睨み合いの最中、沈黙を破ったのは炎の魔物だった。


 天に座した状態から立ち上がり、空を駆けるようにこちらへ迫る。


 手を掛けた柄を握り締め、肉薄する炎光に目を細めた、その直後。


 炎の魔物が身に纏っていた火が掻き消え、その真なる姿が視界に移る。


「――」


 瞬間、俺は刀を抜くことも出来ず、炎の魔物の突進を喰らう。


 押し倒され、覆い被さられた。


「ジン!? このッ!」


 ブルーホワイトの花弁が舞い、渦巻きとなって炎の魔物へと向かう。


「待った! ストップストップ!」

「え――ッ」


 俺の声が届き、ロゼの花魔法はその効力を失ってただの花弁となる。


 再び降り始めた雪に紛れてブルーホワイトが散る中、俺は雪の中で顔を舐められていた。


「わかったわかった。俺も会えて嬉しいよ、ミタマ」


 神狐ミタマ。


 それが炎の魔物の正体だ。


 こっちに留まるための魔力は魔族や魔物から摂取していたんだろう。


「俺を探してくれてたんだな。ありがとう、こんなところまで」


 肯定するようにミタマは一鳴きした。


「よっこいしょっと」


 甘えてくるミタマからようやく解放されて雪の上に立つ。


 ロゼの表情は俺に説明を求めていた。


「あー、話せば長くなるんだけど。掻い摘まんで言うとこいつは幻獣なんだ」

「げんじゅう? 幻獣って、あの幻獣? じゃあ、なんで、あんたが……」

「召喚士だからだよ。色々あって弱体化してるけどな」


 本当に色々とあって。


「しょう……かん……だめ、頭がパンクしそう。えぇ? あんた召喚士なの? あの激レアの?」

「そう。まだ一応は」

「それであのカノンがあんなにあんたを慕ってたのね……にしても、じゃあ、道理で……」


 現状の把握がロゼの中で終わり、一つ一つ納得という形に落ち着いていく。


 俺の正体もまた明かすことになってしまったが、まぁこれはいずれわかることだ。


 まだ俺の過去を明かした訳でもない。それも時間の問題かも知れないけど。


「え、じゃああたしたちの仕事ってこれで終わりってこと?」

「まぁ……そうなるな」


 俺たちの仕事は作戦における不安要素の排除。


 それはたった今達成されたので後は帰るだけだ。


「はぁ……なんか、どっと突かれて来ちゃったわ」

「悪いな」

「べつに、あんたが謝ることじゃないけど」


 携帯端末から音が鳴る。


「カノンから? もしもし」

「あ、ジンさん。そっちはどう?」

「ちょうど終わったところ」

「流石はジンさん、頼りになる。凄い、天才!」

「……なんかあったろ」

「バレちゃった?」


 雑な持ち上げ方だ、嫌でもわかる。


 通話をスピーカーへ。


「あのね、街の奪還自体は上手く行ったんだけど、魔族が一人逃げちゃって。ジンさんがいる方に向かってるんだ」

「俺たちのところに? 狙いはミタ……炎の魔物か」

「たぶんね。仲間を失ったから強い魔物が欲しいんだと思う。そこでなんだけど――」

「おい! シルバー共! そっちに魔族が向かってっから足止めしとけ! いいか! 足止めだぞ! 勝とうなんて思うなよ!」


 言葉が後になるほど声が遠ざかっていく。


 この声はジハルドだな。


「そういうこと。お願いできる? ジンさん」

「やらなきゃ行けないことならやるよ。こっちにはロゼもいるしな」


 ロゼを一瞥すると、もう戦いの準備は出来ていた。


「じゃあ、お願いね。報酬も上乗せさせるから安心して。あと別に斃しちゃっても構わないからねー」

「あぁ」


 通話が切れ、携帯端末を懐へしまう。


「という訳だ。行けるよな」

「当然でしょ。肩すかしだった分、暴れてやるわ」


 二人で彼方を見つめ、その時を待つ。


 銀世界に魔族が現れたのはその直ぐあとだった。

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