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【完結】王妃様の置き土産  作者: ナベ セイショウ
19/21

答え合わせと、愛の告白

読んでいただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

 言葉にならない声を喚き散らす王弟が兵士達に連れられて出ていくと、執務室の緊張感が一気に緩んだ。

 全員がさっきまで表情を強張らせていたが、今は疲れ切った顔でため息をついている。

 黒幕を叩き潰したはずなのに、達成感はない。

 それどころか、古傷を抉られた者が多く、悲壮感さえ漂っている。残された過去の過ちが大きすぎて、誰も受け止めきれないのだ。

 

 そんな中でトリスタンだけが、ユリアーネとフォルカーを連れてさっさと帰ろうとする。

 慌てた王太子が、「待て待て、ユリアーネに確認したいことがある」と言って引き留めた。

「気安く『ユリアーネ』と呼ぶな。大体、今日ユリアーネがどんな目に遭ったと思っているんだ! もうこれ以上、王家のいざこざに関わらせたくない。十分協力はしてやったんだから、答え合わせはお前達でやってくれ。今後一切、コーイング家は無関係だ! 声もかけるな!」

 トリスタンの物言いは、王家や宰相家を相手にしているとは思えない。ユリアーネは目を見張った。

 怒りの形相のトリスタンと困り顔の王太子の間に、アヒムが割って入る。

「トリスタンの気持ちは分かるが、そう怒鳴り散らすな。お前の態度にユリアーネが驚いているぞ」

「トリスタンと宰相と私は学園の同級生で、腐れ縁だ。トリスタンの不敬にも慣れたものだから、気にしなくて良い」

 王太子から発せられた初めて知る事実に、ユリアーネが驚きの顔をトリスタンに向ける。このことを知られたくなかったトリスタンは、困って頭をガシガシと掻いた。


 結局九人は、執務室のソファに座っている。

 国王や王太子がユリアーネに聞きたいことがあるのと同じで、ユリアーネも何がどうなっているのかを知りたいとトリスタンに訴えたからだ。

 一番の功労者であるユリアーネの望みを聞かない訳にはいかず、トリスタンは一番最後に渋々ソファに座った。

 座ったものの、誰が何を話すのか顔を見合わせている面々。一番疲れ切った様子の国王が、ユリアーネに微笑みかける。

「まず、ユリアーネに礼を言う。本当にありがとう。ユリアーネの勇気と知性が、この国を、そして私達を救ってくれた」

 国王に頭を下げられたユリアーネは、身体中から汗が噴き出した。

「えっ? やめて下さい! 頭を上げて下さい! 困ります! 全部、王妃様のおかげです。私は何もしていません!」

「きっと、ユリアーネに一番感謝しているのは、王妃だと思う。王妃の想いを受け継いでくれて、ありがとう」

 そう言ってまたお礼を言う国王の笑顔は、ヴィルヘルミーナの記憶の中にある幸せな思い出と同じものだった。だからなのか、ユリアーネもヴィルヘルミーナに国王の笑顔をプレゼントできた気がしてホッとした。


「ユリアーネが気になっていることを何でも聞いてくれ」

 国王が真剣な顔でそう言ってくれたので、ユリアーネは遠慮なく訊ねることにした。これだけの目に遭ったのだ、疑問は残したくない。

「今回の王弟殿下に罠にかける計画が、どんなものだったのか教えて下さい」

「私達は黒幕はフェルナンだと確信していた。だが、告発するには圧倒的に証拠が足りないし、王妃の事件以後表立って動いていない。それがここにきて保守系の貴族を使って、アリスティドを王位に就けようと画策し始めた。そこで思いついたのがユリアーネとローランの婚約だ。コーイング家がローランの後ろ盾になれば、アリスティドが王太子になる未来が消える。焦ったフェルナンが仕掛けてくるのは間違いない。フェルナンが手をまわしてくる前に、証拠固めをして捕らえるのが私達の計画だった。しかし、フェルナンの動きに気づけなかった……。私達の読みが甘かったせいで、ユリアーネには本当に怖い思いをさせた。申し訳ない」

 国王に今度は謝られてしまい、ユリアーネの汗は止まらない。


「次の質問は、この計画のメンバーのことをお聞きしたいです。私の協力者は、シルヴェストル様とローラン様です。あと私が囮になる承諾を得るためにお父様も引き込みました。他の皆様は、どう関わっているのでしょうか?」

「そうだな、私を含め説明が必要なものが多すぎるな。まず私は、シルヴェストルと協力関係だ」

 この執務室で会ってから、そうなんだろうなとは思っていた。でも、正直に言うと、意外だ。ユリアーネは国王こそが黒幕なのではないかと疑っていたのだ。

 ユリアーネの気持ちが伝わってしまったのか、国王が詳細な説明を始める。

「シルヴェストルと王妃の仲を疑って、私はシルヴェストルに見切りをつけられた。愚かな私は、王妃の死によって、やっと目が覚めたのだ。『ミーナが私を裏切るはずがない』と気づけた」

 ヴィルヘルミーナの記憶を持つ者としては、『遅い!』としか言えない。

「目が覚めると、今まで私が見てきた世界が歪み切っていたのが分かった。一番疑わしいのが、一番信じて頼り切っていたフェルナンであることも分かった」

 『どうして王妃様が死なないと気づけなかった?』と詰め寄りたい気分だ。

「私は、ずっとフェルナンに負い目があった。愛し合うフェルナン達を引き裂いて、ライサとクライトン家という面倒を押し付けたからだ。私はヴィルヘルミーナと出会い、本来手にできなかったはずの愛と幸せを手にした。フェルナンの犠牲の上に、自分の幸せがあるのかと思うと苦しかった。クライトン家の嫌がらせには気づいていたが、私が得た幸せを考えれば耐えるしかないと……。私の負い目など王妃には関係ないのに、傲慢な私は王妃にも同じ気持ちになるよう強いたのだ」

 国王の告白に、誰もが顔を歪めている。『国王も辛かったんだね』と寛大になれるはずがない。むしろ誰もが『どうして死を選ぶまで追い詰めた?』と言いたいはずだ。

「自分の過ちに気が付いた私は、シルヴェストルに手を貸してくれるよう頼みこんだ。シルヴェストルは私を怪しんでいたから、簡単ではなかったがな。フェルナンに怪しまれず探るため、表向き私とシルヴェストルは仲違いしたままフェルナンが尻尾を出すのを待った。宰相になってもらったのも、フェルナンを見張るためだ」

 国王の言葉にシルヴェストルがうなずいた。

「マルスランも王妃を追い詰めたことを悔いているのは分かっていた。そして目が覚めたなら、きっとフェルナンに辿り着く。それが分かっているから、私とシルヴェストルは何としても先にフェルナンを追い詰める必要があった。マルスランとアヒムとトリスタンに負の遺産を押し付けたくなかった。それに何よりフェルナンのことに関しては、私の手で決着させる必要があった。」


「えっと、親チームと子供チームに分かれ、別々に王弟殿下を探っていたってことですよね? でも、今は協力関係なのですか?」

 親チームと子供チームが、トリスタンを見る。答えを教えてくれたのはシルヴェストルだ。

「ユリアーネが王妃様の記憶があると告白してくれたことで、膠着状態が動き出したんだ。私とユリアーネが交換条件を結んだその日の夜に、怒り狂ったトリスタンが私の屋敷に乗り込んできた」

「お父様が……」

「あぁ、トリスタンが、『こんな家、この国共々ぶっ潰してやる』と怒鳴り散らしてやって来た」

 あまりの発言に驚いて隣りに座るトリスタンを見るが、本人はどこ吹く風で気にも留めていない。

 国王が真面目な顔で「それくらいのこと、トリスタンなら本当にできてしまうから困ったものだ」とため息をついた。

 ユリアーネは「できるの?」と驚きの顔を向けるが、トリスタンは困った顔を見せるだけで否定も肯定もしない。

「怒りに任せて乗り込んできたが、父親だけあってユリアーネの性格は理解している。トリスタンが駄目だと言って止めたところで、王妃様の気持ちを抱えたユリアーネが聞くはずがない。だからできる限りユリアーネの安全を確保した上で……。いや、ユリアーネの安全が最優先で、ついでに問題を解決する。そのためには同じ目的の者は協力してユリアーネを守るべきだとトリスタンが主張した。そしてトリスタンの強引な手引きにより、親チームは子供チームと合流したというわけだ」


「もともと、分かれている意味はあったのでしょうか?」

 思わずこぼれたユリアーネの疑問に、親チームと子供チームが気まずそうに顔を見合わせる。

 困った顔をしたシルヴェストルが口を開く。

「結果を見れば、確かにもっと早く協力し合えば良かったのかもしれない。でも親は子を巻き込みたくなく、子は子で意地がある」

 そういうものなんだろうか? ユリアーネは首を傾げてしまう。

 王太子がユリアーネの疑問に答えてくれる。

「親は子供を巻き込みたくないと、ヴィルヘルミーナ・アデライトの死から私達を遠ざける。だがそれは子供の反発を生むだけだ。親からも王弟からも偽りの事実だけを与えられ、私達は混乱したし、親を恨み信じられなくなった。だからこそ意地になって、私達も真実を求めた」

 悲しそうにそう言った王太子は、今度は恨みがましい目をトリスタンに向けた。

「ブリュノのメイドがコーイング領の屋敷で働いていて、ユリアーネを王妃と見間違えた。その上、そのメイドは、フェルナンがブリュノを唆した証拠を持っていると。トリスタンがこれを五年前に教えてくれていれば、もっと早く協力したし、ユリアーネも危険な目にあわなかっただろうな」

 王太子の言葉を受けたトリスタンは、「王弟はユリアーネをアリスティドの嫁にと言って、危害を加えかねない状況だった。娘を守る切り札になる証拠を、そうやすやすと表に出せるか!」としれっと言い放った。


「五年前には、私の中にあった知識が王妃様のものだと、お父様は分かっていたのですか?」

 呆然とするユリアーネに、トリスタンは「ユリアーネが思い出さなければ、それに越したことはないと思っていた」と情けない声を出す。

 トリスタンの告白にユリアーネは「そんな……」と言い返そうとするが、トリスタンは頭を振ってユリアーネの発言を止めた。

「記憶を取り戻したユリアーネは暴走して、今日命を落としかけた。こうなることが目に見えているのだから、気が付かないで欲しいと私は祈ったよ。国より、他人の親子の確執より、自分の娘の命が大切なのは、当然のことだろう?」

 確かにトリスタンの言う通りだ。ユリアーネの暴走が、またもトリスタンの肝を冷やしてしまったのだ。前回の強盗にしがみ付く事件があって、そう時間も経たない内に……。

「お父様、心配ばかりかけて、本当に申し訳ございません」

「いいんだ、ユリアーネが無事でいてくれただけで、心配なんて吹っ飛んだ。怖かっただろう?」

「怖くなかったと言えば嘘になるのですが、呼び出されたのが『北の棟』だったのが幸いでした。あの部屋には陛下の執務室につながる隠し扉があるので、早々に逃走計画を立てられましたから。本当に王妃様の記憶に助けられました」


 国王は気丈に微笑むユリアーネに、優しく慈しむような視線を送る。

「王妃が亡くなった日に、ユリアーネは生まれた。それもきっと、王妃がユリアーネを選んだのだろうな。自分の知識を余すことなく使え、フェルナンに振り回される馬鹿な親子達に終止符を打てるのがユリアーネだったのだ。王妃の意思を継いでくれたユリアーネに、本当に感謝する。ありがとう」

 大人チームと子供チームの面々が、国王に続いて感謝の言葉を次々に口にする。ユリアーネは、居心地悪く恐縮するしかない。


 国王は一気に老け込んだ容貌で呟いた。

「私は王妃を信じられなかった。それをフェルナンに付け込まれ、妻と友を疑った。私の猜疑の目と貴族達からの嫌がらせに苦しむ妻を、私は見捨てたのだ。全てが終わったと言えど、私の罪が消える訳ではない」

「それでも、王妃様は陛下を愛しておられました。側妃を取らず、臣下と溝ができても自分だけを選んでくれた陛下を愛していたのです」


 しんみりしてしまった執務室の空気を変えるべく、シルヴェストルが立ち上がった。

「ユリアーネとの交換条件を実行しなくてはだな」

 と言ってユリアーネに意味ありげな笑顔を向けると、アヒムと向き合う。

 アヒムは父親が自分と対峙する意味が分からず、かといって目を逸らす訳にもいかず、シルヴェストルの真意を測るように眉間の皺を深めて目を合わせている。

「私は死んでも尚、アデライトを愛しているよ。結果としてお前も巻き込んでしまったが、アデライトが愛したお前やシュスター家に傷をつけずに幕を引きたかった。だが、その私の我が儘でお前達に辛い思いをさせて、申し訳なかった」

 二人に頭を下げるシルヴェストル。

 アヒムとエリアスも何が起きているのか理解が追い付かず、ポカンとシルヴェストルの後頭部を見ている。

 先に覚醒したのはエリアスで、「えっ? 何をいきなり? お爺様が頭を下げる? 意味が分からない。一体どうしたのですか?」と支離滅裂だ。

 全てを終えたシルヴェストルは、何か吹っ切れたのか、ニヤッとした表情を浮かべる。

「ユリアーネに囮を引き受けてもらうにあたって、交換条件を出されたのだ」

 シルヴェストルの言葉に驚いたままの二人が、かろうじてうなずきユリアーネを見る。

「ユリアーネの出した条件が、私とアヒムの和解だ。私達親子が和解すれば、エリアスが家族の絆を取り戻せるそうだ。近い将来に妻を娶るエリアスのためにシュスター家の空気を一掃し、家族の絆を手にしたエリアスに幸せな結婚生活を送って欲しい。以上が今までの感謝を込めた、ユリアーネからのエリアスへの恩返しだ。ユリアーネを避け無視するほど嫌っている最低なエリアスに対して、律儀に恩返しをしてくれたんだ。感謝しろ」


 交換条件の内容を暴露されたユリアーネは、「エリアス様には言わないで欲しい」と付け加えなかったことを後悔していた。まさかシルヴェストルの口がこんなにも軽いとは予想外だし、家族以外の前で話をするとは考えていなかった。

 シルヴェストルはニヤニヤとエリアスを見ているが、エリアスの顔からは血の気が引いている。心なしか、身体もブルブルと震えているように見える。

 そんなエリアスの様子を見たユリアーネは、自分の行動を後悔した。家族の絆は他人が介入するべきではないし、お節介だったと激しく反省した。


 事の成り行きを見守っていた王太子が「そうか、エリアスはユリアーネを嫌っているのか。なら是非ともこのまま、ユリアーネをローランの婚約者として話を進めていいな?」とトリスタンに告げる。

 ムスッとした顔で睨むトリスタンが口を開けるより先に、王太子が先手を打つ。

「五年前にローランの婚約者にと打診した時は断られた。だが、母の記憶があるなら、王家以外には嫁がせられない。それは、お前も分かるだろう? 『囮となる代わりにユリアーネは王家には嫁がせない』とトリスタンが条件を出すから受け入れたけど、婚約する予定がないならローランの妻になって支えて欲しい」

 トリスタンの瞳が、スッと細められる。


 部屋に不穏な空気が漂い始め、トリスタンが口を開こうとしたその時に、エリアスがユリアーネの前に跪きその手を取った。

 ユリアーネは目の前で跪くエリアスにただただ驚き、見つめられるままに、熱い思いが込められた菫色の瞳を呆然と見返すだけだ。

「俺が愛しているのは、昔からずっとユリアーネただ一人だ。確かに昔は家族の絆を取り戻すことを願ったが、今はユリアーネと家族の絆を作ることが俺の願いだ。幸せな結婚生活は、ユリアーネとでなければ送ることはできない」

「……え? あの、エリアス様は、無謀な行動をした私に、愛想を尽かしたのでは?」

「俺がユリアーネに愛想を尽かすなど、生涯あり得ない! あの日恐怖のあまり気絶したユリアーネを前にして、自分の不甲斐無さを悔いた。もっと強くなり完璧にユリアーネを守るために、騎士団の演習に参加させてもらって鍛え直していた。それをユリアーネに言えば、気にして自分を責めるだろう? だから言えなかった……」

 自分の愚かな行動のせいでエリアスが自己嫌悪に陥ったと知ったら、ユリアーネは間違いなく自分を責めただろう。

「でもそれは結局俺がユリアーネに甘えていただけで、俺の勝手な言い分だ。勝手に決めつけずに、ちゃんと話し合えばよかった。俺の気持ちが理解してもらえなかったとしても、ユリアーネに変な誤解をさせることにはならなかった。学園で俺がユリアーネに愛想を尽かしたと噂になっていたことも聞いた。辛い思いをさせてすまなかったと思っている。これからは絶対にユリアーネを不安にさせないから、俺を選んで欲しい」

 エリアスの菫色の瞳からは、熱い想いがどんどん溢れてくる一方だ。その想いの熱さに本日フル稼働のユリアーネの心臓が、また激しく打ち付け始める。


 真っ直ぐな想いを伝えてくれるのは嬉しいが、エリアスが離れていってからの話との落差が大きすぎて溝が埋まらない。

「……あの、エリアス様には、私ではなく、ずっと想いを寄せている方がいらっしゃると聞いたのですが……」

 エリアスがスッと冷静な顔に戻り「そんな偽りを誰に聞いた?」と、怒りを含んだ低い声で問う。同一人物とは思えない……。

「あの、いえ、誰でも知っている、公然の事実のようでした……」


「ユリアーネ!」

 エリアスが強い口調でユリアーネの話を遮った。

「誰が何と言おうと、自分のことは俺が一番知っている。今までも、今も、これからも、俺が愛するのは、ユリアーネただ一人だ」

 言葉だけでなくエリアスの熱い手からも想いが送り込まれているように感じられる。愛されているのは自分なのだと、ユリアーネはようやく信じられることができた。


 嬉しくて、身体が震えるほど嬉しくて、真っ赤に火照る頬に熱い涙が溢れてくる。自分の想いを伝えたいのに、喉が熱くて言葉が出てこない。何度も、何度も、何度も、試みて、ようやく掠れながらも声が出せた。

「……わた、しも……お慕い、しており……ます」

 安心できる温もりに包まれたと思うと、菫色の瞳を潤ませ幸せそうに微笑むエリアスに抱きしめられていた。

 娘が自分の恋心に気が付いたショックで身体から力が失われ、もう何も見たくないと両手で顔を覆ったトリスタンがソファに沈み込んだ。

 妹を溺愛するあまり意地悪をしてしまう天邪鬼のフォルカーも、父親同然放心状態で天井を見上げている。




 王家を、シュスター家を、国を、苦しめてきた王弟が、姿を消す。

 怒り、憎しみ、遠慮し合っていた家族が一つになり、各々の大切な人の名誉を守った。錆び切って固まり動かなかった歯車が、潤滑油を得て、ようやく動き出したのだ。

 大きなジグソーパズルを完成させた時のように、全てが収まるところに収まった。全員がそう感じていた。ユリアーネ以外は……。

 心に引っかかりのあるユリアーネは、どうしても最後の一ピースが見つからず、パズルを完成させられない気分だった。

読んでいただきありがとうございました。

あと二・三話で終わりますので、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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