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8.御伽話みたいに

朝の日差しに起こされ、ボンヤリした頭で周りを見ると、隣にいるククルはまだ眠っていた。

昨日、ククルがしたように、僕も寝顔にキスしてみる。

それでも起きる様子はなく、イタズラは段々エスカレートしてしまった。

現在、僕は布団を捲り上げてククルの身体を観賞している。

「……レイ様?」

目を覚ましたククルは、自分の状況を理解すると、真っ赤になって布団を被った。

「おはよう、ククル。」

何食わぬ顔で挨拶してみる。

「………おはようございます。レイ様、そういったことをするのは、あの、お願いですから、おやめください!」

「目の保養になるから、約束できないかな?」

「なッ!?………そうですか、わかりました。では、明日からは私のほうが早く起きて、布団を捲り露わになったレイ様のあられもない姿を観賞することにします!」

なにそれ!?

凄く嫌なんだけど!?

僕の顔を見て勝ち誇った顔をするククル。

「嫌でしょう?だからやめてくださいね?って、キャーーーッ!?」

ドヤ顔のククルも可愛くて、更に悪戯してしまいたくなった僕は、ククルの言葉の途中で布団を奪ってみた。

裸で丸まり騒ぐククルを見て、更に悪戯したくなるなのをぐっと堪え、頭を撫でる。

「紳士的なレイ様は、どこに行っちゃったんですか!?」

「……ごめん、嫌ならすぐにやめるよ。」

「……ズルいです。やめたら嫌です。」

「ククルが愛しくて堪らないんだ。ククルが欲しい。」

「私は既にレイ様のものです。この身体も心も全て。どうぞお好きなだけ求めてください。」

「ククル、愛してる。」

「……んっ……。」

その後、お互いに言葉は必要なく、たっぷりと甘い時間を楽しんだ。

互いに容姿にコンプレックスを持つ者同士、そして互いを強く求め合う僕達に、もう止まることなんてできなかった。


スマートフォンを取り出し、『指輪 販売 ラリオスの街』で検索してみた。

検索結果にはロックさんのお店が含まれていたので、まずはそこに向かってみよう。

「それ、なんです?」

「ん?あぁ、これは…そだ、ククル、こっち来て!」

スマートフォンのカメラを起動し、自撮りモードに変える。

ククルの肩を抱きシャッターを切ると、カシャッと音が鳴るとともに、二人の姿が記録された。

「こうやって、僕らの姿を絵のように一瞬で残せるんだ。」

「ものすごい魔道具じゃないですか!?」

「うん、いつでもこの絵を見ることができるんだよ。」

「……私の裸、それで記録してませんよね?」

「これから毎晩、ククルの身体を満喫するだろうからね。記録なんてしなくても大丈夫だよ。」

真っ赤になったけど満更でもなさそうなククルの頭を撫で、スマートフォンをポケットに突っ込む。

「じゃ、指輪から買いに行こうか!」

僕はククルの手をとり、ロックさんの店に向かうことにした。


途中の露店で朝食を済ませ、ククルと二人でスマートフォンの機能を確認しながら歩く。

マップやナビ機能が優秀で、両親にメールも送れる。

これからのことを考えると、これだけは絶対に手放せないな。

それと、ククルの驚き方をみると、あまり他人に見せないほうがいいのかもしれない。

とはいえ、指紋認証があるから、僕以外は使えないんだけど。


ロックさんの店に着き扉を開けると、奥からメリダさんが飛び出してきた。

「いらっしゃいませ!…あ、昨日の?ロックなら、まだ帰っておりませんが…?」

「昨日はお世話になりました。彼女に指輪を贈りたいと思い、こちらを訪ねさせていただいたのですが、オススメとかありませんか?」

「あ、今日はお買い物めですね?では、店内へどうぞ!」

店に入ると奥の個室へと案内され、メリダさんは商品を準備すると言って部屋を出た。

二人きりになったので、今朝の続きをしようかと思った矢先、すぐにメリダさんがお茶と平たい箱を持って戻った。


箱の中には指輪が並び、どれも美しい輝きを放っている。

ククルの目もキラキラになるかと思いきや、オドオドして僕に小声で話しかけてきた。

「………こんな高そうなの、無理です。もっと地味なものでいいんです…。」

似合うと思うんだけど、ククルは自己評価が低いからなぁ…。

「せっかくお持ち頂いたのに申し訳ないのですが、普段から着けられるようなものってありますか?」

僕がオススメといったから、良いものを見繕ってくれたんだろう。

説明不足に反省する。

「わかりました!すぐお持ちしますね!」

メリダさんは嫌な顔ひとつせず、再び部屋を出ていった。

「レイ様、あんな高そうな物を私に贈ろうとしたんですか!?」

「嫌だった?」

「嬉しいですけど、あんなの着けてたらすぐに路地裏に連れていかれて身包み剥がれますよ…。」

そうか、ククル1人のときは危ないか…。

「お待たせしました!こちらなどいかがでしょう?」

再びメリダさんが持ってきてくれたのは、金属のみで造られているものの、よく見ると緻密な彫物のされた数点の指輪だった。

派手ではないものの、高級品なのは間違いないだろう。

その中で、僕の目に留まるものがあった。

「これ、おいくらですか?」

僕が指さしたのは、銀色で美しい光沢を持ち、綺麗な花の模様が彫られた指輪。

「そちらですと、金貨50枚ですね。」

隣でククルが息を飲んだのがわかったが、そのまま話を進めさせてもらおう。

「では、こちらをください。」

「レイ様!?」

「はい、お買い上げありがとうございます!そちらはミスリル銀でできておりますので、お手入れしなくても輝きが失われることはありませんよ!」

なるほど、高いだけのことはあるんだな。

僕は金貨を出して指輪を受け取り、ククルの前に跪いた。

ククルの左手をとり薬指に指輪を通すと、まるでククルに合わせて造られたかのように収まった。

「サイズ調整も必要ないようですね。よくお似合いですよ。」

「うん、よく似合ってる。ククルと花模様、ピッタリだね。」

「……ありがとうございます。」

左手を大事そうに右手で包んだククルは、今までで最高の笑顔を見せてくれた。


メリダさんにお礼を言って店を出ると、ククルが僕の前に回り込んで頭を下げた。

「高価な指輪を、ありがとうございます。…笑われるかもしれませんが、ずっと御伽話のお姫様と騎士に憧れていたんです。レイ様のように美しい騎士様から、いつか見初められたらと夢見ていました。ですが、私はお姫様のように美しくはなく、現実では売れ残り。だから、とっくに諦めていたんです。それを、レイ様が叶えてくださいました。」

頭を下げたままのククルの手を握り、僕は笑った。

「じゃあ、お姫様に相応しい衣装も揃えないとだね。」

ククルは僕の体操着を着たままだ。

袖や裾を捲っているが、やはりサイズが合っていないのは気になる。

「いいえ、お姫様のような衣装はいりません。レイ様の隣を歩くのに相応しく、なるべく動きやすいもののほうがいいです。」

「んー、着飾って綺麗になったククルも見てみたかったけど…。」

「私を綺麗なんて言うのはレイ様だけです。それに、レイ様は着飾った私より裸の私がいいんでしょう?」

睨まれた。

でも、そんなククルも可愛らしい。

「どっちのククルも可愛らしいと思うよ?」

「もう、またそんなこと言うんですから…。」

気の所為じゃなく、ククルは明るくなったと思う。

打ち解けるまで時間がかかると思っていたが、コロコロと表情が変わるようになってきたククルに嬉しくなった。

「最初はすっごい優しくて紳士的だったのに、今は意地悪な野獣です!」

ククルの言うとおり、僕も最初の頃と比べると、確かに変わってきたと思う。

ククルと話すのが楽しくて、触れるのが愛おしくて、僕は変わったと思う。

僕達二人、お互いに寄り添いあって、傷を癒やしていければ、きっと素晴らしい人生になるだろう。

「そもそも、野獣のククルに僕が食べられちゃったんじゃなかったっけ?」

「もう!レイ様、意地悪です!」

怒った言葉と裏腹に、ククルの笑顔は眩しかった。


「おぉ、結構品揃えいいんだね。」

服はオーダーメイド、もしくは中古が一般的らしく、僕達は中古の洋服屋を巡っていた。

「あ!これがいい!絶対にこれ!」

ククルにと見繕っていた僕は、運命の出会いをした。

赤いチェックのプリーツスカート!

上は僕の少し大きいワイシャツを合わせて、萌袖女子高生風ククル!

なにそれ、最高に決まってるじゃん!

「ククル、これ!これがいい!」

「えっ、でも動いたら中が見えちゃいませんか?」

「そこがいい!」

「嫌ですよ!?レイ様以外に見られたくありません!」

僕が見るのはいいんだね。

後で堪能させてもらおう。

「大丈夫、見た奴は目を潰すから!」

「もっとダメです!」

「でも買う!決定!」

「もう…。じゃあ、条件があります!」

ククルからの条件!?

お触り禁止とか、チュッチュ禁止とか!?

そんなの耐えられない!!

「じょっ、条件って…なに?」

唾を呑み込み、ククルの言葉を待つ。

「……帰ったら、いっぱい甘えてもいいですか?」

顔を赤らめるククル。

ヤバい、可愛すぎる…。

照れまくった天使がいる……。

もちろん、甘えまくってもらうことを約束したのは、言うまでもないだろう。


「あとは、下着も必要だよね?」

「私の着ていた布で作りますから、大丈夫ですよ。」

「ダメ、可愛いの買おう!」

「フフ、ありがとうございます。では、レイ様が選んでもらえますか?」

「僕が選ぶの?」

「………あの、どうせ見せるのなら、レイ様の好みの物がいいです。レイ様に可愛いって思って欲しいので…。」

照れながら話すククルに、思わず抱きついてしまった。

よし帰ろう、すぐ帰ろう、早く下着を選ばねば。

僕の好みの白い下着をすぐさま買って、ククルをお姫様抱っこした僕は風となって宿屋へと帰ったのだった。


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