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7.お風呂での攻防

宿に戻り、お風呂の湯加減を確認したあと、ククルに先にお風呂に入るよう伝えた。

「あの、お風呂なら私は先程入りましたが…?」

「少し肌寒くなってきたからね。もう一度温まっておいで。」

「ありがとうございます。でも、レイ様より先に入るわけにはいきませんので、お先にお入りください。」

「女の子は身体が冷えやすいらしいから、気にしないで入っておいで?」

「ご主人様より先にお風呂を頂く奴隷などおりません…。どうしてもと仰るなら、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「よろしくないよ!?」

「あぁ、急に寒くなってきました!レイ様、早く入りましょう!」

「あ、ちょ…待っ…」

ククルが強引に僕を脱衣場に追い立てる。

少し気安くなった感じが嬉しくて、そのままククルに従って脱衣場へ二人で向かった。

ククルの変化が嬉しかったから流されたのであり、混浴が目当てとかでは断じてない。

…たぶん。


「では、脱がさせて頂きますね。」

「いや、自分で脱げるから大丈夫だよ。」

「いえ、私の仕事ですので!」

随分グイグイくるな?

「いや、恥ずかしいから自分で…」

「慣れてください!」

やっぱり、ククルがおかしい。

気安くなったとかのレベルじゃない、これじゃ暴走だ。

「ちょ、ククル!?ストップ!」

ククルの腕を掴んで僕を脱がすのを止め、ククルと向き合った。

「急にどうしたのさ?」

「………あの、なにか役に立ちたくて。私、なにもレイ様にしてあげられていません。役に立たないからと、捨てられたくないです。レイ様のお側にいたいです………。」

不幸な生い立ちの人が急に幸せを手に入れてしまうと不安になるっていうヤツだろうか?

今の僕にも言えることのはずだけど、僕はそこまでの感情の変化はない。

安心させてあげれば、落ち着いてくれるかな?

「ククルを捨てたりなんかしないよ?ずっと側にいてくれていいんだ。ククルは充分役に立っているからね。」

「………具体的に、どんなことが役に立ちました?」

……………………………………………あれ?

特にないかもしれない……。

それなら、何か嬉しかったことないか!?

「あ!はだ………か……………」

よりによってそれか!?

しかも言葉にしちゃった!?

「脱ぎます。」

「待って!そうじゃなくて、いや裸は嬉しかったけど、待ってー!!!そう、キス!キスも嬉しかったってばー!!!」


結局、その後に話し合いがあり。

現在、布で目隠しをした僕はククルに身体を洗ってもらっていた。

落ち着けと言い聞かせても、時折身体にあたる柔らかい感触に理性を失いそうになる。

「背中は洗い終わりましたので、次は前を洗いますね。」

それは無理!!

「前は自分で洗えるから大丈夫だよ!」

「でも、目隠しされてますから、私が洗わせて頂きます。」

「大丈夫!洗えるから!」

ククルからタオルを奪おうとして、手に柔らかい感触が触れた。

「あッ…」

「ーーーーーーーーッ!!!」

「………やはり私が洗いますね。」

僕が動揺しているすきに、ククルが前に回り込んだ気配がした。

咄嗟に手で隠そうとしたが、あっさりとククルに退かされてしまう。

僕の意思に従わず臨戦態勢になってしまっていて、恥ずかしくて申し訳なくて死にたくなる。

「レイ様、覚悟をお決めくださいね!」

「……………………………あの、恥ずかしいのですぐに終わらせて下さい。お願いします…………。」


「もう、お婿に行けない…。」

「私をお嫁に貰って頂けるんじゃないんですか?」

「うーん、さっきのククルは意地悪だったから、どうしよっかなぁ…。」

「……嫌でした?」

「嫌じゃないよ。恥ずかしかっただけ。」

「なら良かった……のでしょうか?」

僕達は湯船に浸かり、冗談を交えながらくつろいでいた。

ククルも、少しずつだけど打ち解けてきてくれたように思う。

「レイ様、やっぱり目隠し外しましょう?レイ様の目を見てお話したいです。」

「でも、見えちゃうよ?」

「どうせ、もう見られてるんですから。今更ですよ。」

僕の返事を待たずに、ククルは目隠しを取ってしまう。

再びククルの身体を見れた感動と申し訳無さに、どこに視線を向ければいいのかわからない。

そんな僕に構うことなく、ククルは話を続ける。

「そもそも、私に欲情する人なんて、レイ様くらいなんです。だからレイ様に見て、使って頂きたいんです……。」

ククルは僕に抱きついて、潤んだ瞳を向けた。

「覚悟をお決めくださいって、私言いましたよね?私はもう、覚悟できてますよ。」

そこまで言われると、もう僕に我慢なんてできる訳なかった。


ベッドで荒い息を吐きながら僕に抱きつくククルの髪を撫で、僕達はキスを交わした。

自分は一生縁がないだろうと思っていた行為で、お互いを求めあった。

こんなに充実した瞬間は、生まれて初めてだった。

「レイ様、ご満足頂けました?」

僕に微笑むククルが愛おしくて、抱きしめる腕に力が入る。

「ごめんね。こんなつもりじゃなかったんだ。」

「謝らないでください。私がこうなるよう、仕向けたんです。」

「………ククル、明日、指輪を買いに行こう。」

「指輪、ですか?」

「うん。僕の生まれた国では、結婚の約束を交わした相手に指輪を送るんだ。」

「………私は、一緒に過ごせるだけで構いません。私などと結婚したら、レイ様にご迷惑が…」

「もちろん、ククルの気持ちを優先するよ。結婚したくなくなれば、指輪は捨てても売ってもいい。貰って欲しいんだ。」

「………捨てることも売ることもしません。ずっと大切に身につけておきます。」

ククルは涙を流しながら、最高の笑顔を見せて僕に抱きついた。


僕の隣で眠るククルを見ながら、僕はボンヤリと考え事をしていた。

間違いなく、これまでの人生で一番濃い1日だった。

自分で願ったとはいえ、過剰な程の脚力。

それだけでなく、何故か腕力も異常なほど強化されている。

『それは仕方なかったです。深く考えなくていいから、受け取っておきなさい?』

!?

『この世界、楽しめていますか?』

レティシア様ですか!?

楽しいだけじゃないけど、僕はこの世界にきて良かったと思ってます。

『それは仕方ないですね。楽しいだけの世界なんて、すぐに色褪せてしまうもの。』

なるほど。なんとなく、わかる気がします。

『フフフ、私の加護も、悪くないでしょう?』

レティシア様の加護?

そういえば頂きましたが、どんな効果があるんでしょう?

『私は、幸せを司る神なのです。あなたは他の人より幸せを手に入れる機会が多いはずですよ?』

そうだったんですね。

ククルは、僕と一緒で幸せなんでしょうか?

『あら、あの娘は私じゃなく、あなたが幸せにするべきなんじゃないかしら?』

おっしゃる通りです。

『そうそう、せっかくご両親にメールできるのだから、ちゃんと使ってくださいね?スマートフォンも、いろいろ使いやすくしてありますから、後で確認しておいてくださいね。』

はい、ありがとうございます!

『それでは、またいつか。あなたに幸多からんことを。』

レティシア様からの声が聞こえなくなり、僕は再び考えていた。


明日、両親にメールを送ろう。

おそらく飛び込み自殺したと思っているだろう両親に、『大切な人ができました』って件名で、ククルとの写メを添付して。

そして、謝罪と真相と心からの感謝を伝えたい。

死んだ息子からのメール、驚くだろうな。

そして、ククルと約束した指輪を買いに行こう。

幸い、まだお金には困っていない。

ククルに似合うものが見つかるといいな。

ククルに洋服も買ってあげたいし、ククルが楽しめる場所にも連れていきたい。

あぁ、本当に惚れちゃってるなぁ。

考えるのは、隣で眠る少女のことばかりだ。

僕は苦笑いしつつ、ククルの寝顔にキスをしてから眠りについた。


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