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5.プロポーズ?

さて、とても困った。

僕は体操着を着ているが、ククルはダッフルコートだけだ。

ちょっと裾を捲れば、見えてしまう。

いや、もう既に見てしまったのだけど…。

……制服が乾くまで、ここで時間を潰すしかないな。

「ククル、あとで服を買いにいこうね。ククルなら、何を着ても似合うと思うよ。」

「………あの、レイ様。私は自分が醜いのをわかっております。気遣っていただけるのは嬉しいのですが、気遣いとわかるからこそ、あまり言われると……。」

そうか、嘘っぽく聞こえてしまうのか……。

そして彼女を更に傷つけてしまうのだろう。

「ククルは可愛らしいよ。」

「あの、ですから…」

「僕はククルに嘘を吐きたくないんだ。ククルは魅力的だよ。」

「あの……」

「ククルの髪、とても綺麗だ。色白の肌も大きな瞳も、通った鼻筋も薄い唇も。ククルは綺麗だね。気遣いなんかじゃない、僕の本心だよ。」

真っ赤なククルを見ながら、きっと自分も同じくらい真っ赤になっているのだろうと思い、笑ってしまった。

「ごめん、こんなこと言い慣れてないから、僕も照れちゃって。」

「………レイ様だって、」

真っ赤な顔をしたまま、ククルは僕を見る。

「その……とても、凛々しくて素敵です。物語に出てくる騎士様みたいです。私などが声をかけるのは恐れ多いです。」

……なるほど。

僕もククルの言ってることが、とても本気とは思えない。

お世辞とわかっていても、やたらと照れてしまうのも一緒なんだろう。

確かに、レティシア様から僕の容姿については問題ないと言われた。

だからといって、自分が美青年と言われてもピンとこない。

ククルだって、僕から言われただけでは信じられないということなんだろう。

互いに容姿のせいで辛い時間を過ごしてきたからこそ、それは理解できる。

……時間が必要なのかもしれないな。

ククルが僕を無条件で信用できるようになるまで。

それがいつになるのか、本当にそんな時がくるのか、それはわからない。

それでも、それまで僕はククルの信頼を損ねてはいけないんだ。

「ククル、さっきは裸を見てしまって、本当にごめん。意地悪するつもりじゃなかったんだ。もちろん、エッチな目的でもないよ?」

「はい、存じております。お風呂を頂けたので、これから伽をするのだと私が勘違いして裸で出てきてしまったのですから。」

よかった、そこは疑われていないみたいだ。

あとは、なにか喜んでもらえそうなことを…そうだ!

「ちょっと待っててね。外に買い物に行ってくるよ。」

「えっ、はい、いってらっしゃいませ。」

本当は一緒に行きたいけど、さすがにダッフルコート一枚の女の子を外には出せない。

急いで買い物を済ませよう。


「ただいま!」

「おかえりなさいませ。」

「ククル、ソファーに座って!ご飯食べよ!」

露店で買ってきたばかりの、まだ熱い串焼きや、スープ、炒め物、サンドイッチをテーブルに並べる。

「一緒に行ければ、ククルの好きな物買えたんだけどね。さすがに今の格好で外には出れないからね。」

「ありがとうございます。どうぞ、お食べになってください。」

「えっ?どういうこと?」

「レイ様が食べきれなかったら、そちらを頂けるのですよね?」

「違うよ!?二人で一緒に食べるんだよ!?」

ククルの考え方が、完全に奴隷のそれだ。

ただの女の子が、なんでこんな考え方になってしまったのか…。

腹立たしくて、切なくて、やるせなくて…こんなの、絶対に間違ってる。

「はい、これがククルの分ね!残すの禁止!」

「あの、こんなに食べたことないので食べきれないかと…」

「禁止!」

ククルは可愛いけど痩せすぎだ。

命令はしたくないけど、無理にでも食べてもらおう。

「……ッ!美味しいです!」

「そっか、良かった!もっと食べて!」

「ありがとうございます!」

ククルは時間をかけて、ゆっくりと食べた。

食べるのが遅い訳ではなく、ゆっくり味わいたかったのだろう。

露店の商品とはいえ、普段ククルが食べていた食事より良い物だろうことは、ククルの嬉しそうな顔を見れば一目瞭然だった。

食べきれないなどということもなく、無事に完食したククルの頭を撫でる。

「頑張ったね。ご飯も食べたし、のんびり休憩しよう。」

「あの、レイ様?ご飯を頂いただけで、頑張ってはいませんし、休憩って何をすればいいのか…」

「ククルは頑張ったよ。食べきれないって言ってたのに、無理に食べさせたからね。それと、休憩は…昼寝でもしようか?どうせ服はしばらく乾かないしね。」

洗った制服は、手で絞って干しただけだ。

生地も厚手だし、明日まで乾かないかもしれない。

なら、もう今日は何もしないでダラダラしよう。

僕もククルも、急がなくてはならない用事なんてないのだから。

「では、あの、私でよければ膝枕を…」

「ククルも寝ようよ?言ったでしょ、ククルを奴隷としては扱わないよ?」

ダッフルコートしか着ていない美少女に膝枕してもらうとか、絶対に無理だ。

健全な男子高校生なら、間違いなく悶々として休めない。

「……あの、私を醜いと思っておられないなら、膝枕をさせてください。」

「どうしてしたいの?」

「私は容姿に自信がありません。それでも、レイ様に喜んでいただけるなら、少しでも役に立ちたいです。……ご迷惑ですか?」

潤んだ瞳で上目遣いのククルは破壊力抜群で、僕の理性をゴリゴリ削ってくる。

この機会を逃したら、もうこんなシチュエーションないかもしれない。

でも、僕はククルからの信用を得たい。

肉欲に流される男とは思われたくないんだ。

なら、どう行動するのが正解なんだ…?

ククルは僕の答えを待ってる。

どうする!?

混乱して焦った僕の口から出た答えは

「僕がククルを膝枕するよ。」

だった。

………自分でも、意味がわからない。

でも、言ってしまったからには引けなくなってしまい、ベッドに腰掛けた僕は膝を叩いてククルを招く。

「えっと…私がしてもらうのですか?」

「そう!」

ククルも混乱しているのがわかる。

それでも大人しくベッドに横たわり、僕の膝に頭を乗せた。

「……温かくて気持ちいいです。」

………全く同意見です。

膝枕って、するのも気持ちいいかもしれない。

少し躊躇ったけど、ククルの頭を撫でてみる。

ククルは真っ赤になりながらも、されるがままに受け入れてくれた。

「レイ様、私のような器量の悪い売れ残りを買ってくださって、ありがとうございます。でも私、何もお返しできません…。」

「お返しなんてしなくていいんだよ。僕はね、ククルとお互いに信用しあえる仲になって、ククルを幸せにしたいんだ。奴隷じゃなく、僕の家族になってほしい。ダメかな?」

僕の言葉を聞いた途端、真っ赤だったククルは更に赤くなった。

「あああああの、お気持ちは伝わりましたので…ありがとうございます!」

ククルは僕の膝枕から飛び起きると、真剣な顔をしてから、俯いた。

「……求婚して頂いたのはとても嬉しいんですけど、私は奴隷です。容姿も優れていませんし、レイ様とは釣り合いません…。」

求婚?

先程の自分の言葉を思い出す。

うん、そう聞こえてもおかしくないね。

しかも、気を使ってお断りされてる…。

一気に顔が熱くなり、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。

「ごっごめん、言い方が悪かったね!結婚してほしいってわけじゃないんだ。でも、さっきの言葉は本気だよ。」

「……そうなのですか?すみません、早とちりしてしまって。」

「ククルには理解してもらえないかもしれないけど、僕にとってククルはとても魅力的なんだ。こうして話すのだって、すごく緊張しているんだよ?たしかにククルみたいな綺麗な人と結婚できたら僕は幸せだけど、ククルの嫌がることはしたくないからね。ククルは大切な人ができたら、その人と幸せになればいいんだよ。」

ククルには幸せになってもらいたい。

僕と似た境遇だからこそ、尚更に。

「レイ様は、とても美しくて、奴隷の私にも優しくしてくださいます。財力もありますし、私の意思も尊重してくださいます。……レイ様に貰っていただけるなら、こんなに幸せなことはありません。醜い売れ残りを買って、優しくしてくださった美しい騎士様に惚れない奴隷など、おそらく何処にもいないでしょう。」

惚れたって言った!?

でも結婚拒否されたよね!?

「ただ、私は醜い奴隷です。レイ様の妻となれば、そのことで不快な思いをすることも多々あると思います。私にはそれが耐えられません……。」

その言葉で、僕は理解した。

そうか、愛することにも愛されることにも、彼女は臆病で、けれど飢えていたんだ。

何か役に立ちたいと言っていたが、他人との繋がりが欲しくて身体を捧げようとしたのかもしれない。

だからといって、捧げる相手が僕でいいのだろうか?

ククルのことを大切にし、本気で幸せを願える人がいれば、その人と…と考えて、気付いた。

その条件に当てはまるのは、僕じゃないか。

ククルの容姿は、この世界では蔑まれるレベルらしいし、相手を探すのは難しいだろう。

それなら、他力本願じゃなく、僕が幸せにすればいいだけの話だ。

あとは僕の覚悟と、ククルの返事次第。

よし、覚悟を決めろ。

振られたら泣けばいいさ!

「ククル、それなら婚約ってどうかな?僕と結婚したいと思ったら、周りの反応なんて気にせず遠慮しないで言って欲しい。僕はいつまでも待つ。もちろん、ククルに他の好きな人ができたら、婚約は破棄して構わないよ。」

言った!

自分で自分を誉めたい!

「……それ、レイ様には利点ありませんよね?」

「あるよ。可愛い婚約者ができる。」

言い終えた瞬間、ククルは僕に抱きついた。

「ちょっ、ククル!?」

「こっ、婚約者なら、これくらい普通です!」

そうなのか!?

「あっ、あの…私みたいな醜い女に抱きつかれるのが嫌でしたら、おっしゃって…キャッ!?」

ククルの言葉を遮って、僕からも腕を回して力を込める。

「全然嫌じゃないし、むしろ嬉しい。でも、恥ずかしくて頭が爆発しそう…。」

「……えっと、じゃあ……」

ククルは僕の頭に手を伸ばし、そのまま自分の胸まで引き寄せた。

「こっ、こうやって爆発しないように抑え込みます!」

ダッフルコート、ククルが強く抑えつけたこと、ククルの痩せた身体、いろんな要素のせいで期待してしまった感触はなかったけど、それはとても心地よかった。

「ククル、明日は服を買いに行こうか?どんな服がいい?」

「……レイ様が可愛いって思う服がいいです。」

「困ったなぁ。ククルは可愛いから、どの服も可愛く見えちゃうかもしれないよ?」

「私も困りました。初めてのご主人様は、すっごく格好良くて、売れ残りの私を可愛いって言ってくれて、美味しい物を食べさせてくれて、すごく優しくて、婚約までしてくれて。どうやって恩返ししたらいいのか…。」

ククルが全然困ってなさそうに、僕に笑顔を向ける。

「そうだなぁ、とりあえず…」

ククルに笑顔を返し、ベッドをポンポンと叩く。

「僕の隣で昼寝でもどうですか?婚約者様。」

「はい、喜んで!」

良かった、泣く覚悟は無駄になったみたいだ


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