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1.電車に轢かれました

12月6日、15時32分、晴天。

僕は、びしょ濡れで電車を待っていた。

12月とはいえ、幸いにも14℃と気温は高いのだが、快適であるはずもない。

怒りと口惜しさと情け無さで、気が狂いそうだった。


僕は、小中学校、そして地元から離れた高校に入学したにもかかわらず、常にイジメをうけていた。

僕の容姿が、『気持ち悪い』というのが主な理由らしい。

財布から金を奪われ、持ち物は切り刻まれ、無理矢理脱がされたあげくに画像をSNSにアップされ、挙げ句にトイレ掃除用のバケツに貯めた水を頭から被せられた。

それを笑う彼らから、僕は逃げてきたところだった。


これまで、何度か大人にも相談してきた。

しかし、大抵は『お前にも原因があるんじゃないか?』と言われ、取り合ってもらえなかった。

稀に真剣に話を聞いてくれ、イジメ加害者に注意をしてくれる大人もいたが、『イジってただけですよ』と加害者側から言われると、その場での口頭注意だけで終わってしまうのだ。

今回の仕打ちは、その注意が終わった後に、告げ口をした僕への彼等からの報復だった。


両親は、僕を愛してくれた。

両親は、常に僕の味方だった。

家では無理にでも笑顔を作って過ごしていた。

心配かけたくはない。

でも…もう疲れてしまった……。


『まもなく特急電車が通ります。危ないので…』

駅のホームにアナウンスが流れ、なんとなしに電車が来る方向に顔を向けた。

その時、見てしまった。

ホームから線路へ落ちた子供を。

怪我をしてしまったのか、その場から動くことなく、うずくまったままで迫る電車を呆然と見つめていた。

僕は線路に飛び降りて、子供を突き飛ばした。

何も考えてなんていなかった。

身体が勝手に動いてしまった。

そして、突き飛ばした子供の安全を確認することすらできずに、僕は電車に吹き飛ばされた。


痛みとか、後悔とか、走馬灯なんてなかった。

やっと解放される。

そう思いながら、僕の意識は切れた。



気が付くと、ショートカットの可愛らしい女の子が僕を見つめていた。

理由はわからないが、何故か僕は、彼女が神様だと知っていた。

そして、自分が死んだのだと理解した。

「……申し訳ありませんでした。」

神様が、小さな、本当に小さな声で謝った。


その後、僕は神様から事態の説明を受けた。

神様はレティシア様という名で、こことは違う世界の神様だそうだ。

こちらの世界の神様のところに遊びにきていたのだが、珍しいものばかりだったので、つい探索してしまったのだという。

レティシア様は、本来なら電車に轢かれてもなんともないらしい。

が、突然の電車に驚いて神力を使ってしまった。

その影響で僕の身体が自分の意思とは関係なく動き、彼女を助けた結果、僕は死んでしまったとのことだった。

「事情はわかりました。責めるつもりもありません。あのまま生きていても、辛いだけでしたから……。」

「そうだったとしても、私があなたの人生を奪ってしまったことには違いありません……。そのお詫びとして、あなたの3つの願い事を叶えます。ただし、元の世界で起きた出来事は変えることができません。なので、私の世界の住人となって願いを叶えることとなります。それでご了承頂けませんか?」

「ありがとうございます。充分です。ただ、どんな世界なのか教えて頂いてからでもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。よく考えてから決めてくださいね。」

レティシア様が微笑んだ。

美少女に微笑みかけられるなどという、これまでにない事態に、僕は俯いて「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。


レティシア様から受けた説明によると、これから行くのは、多種多様な種族が暮らす世界であるらしい。

言語は当然違うものの、レティシア様の力で生活に不自由ないようにしてもらえるそうだ。

科学は発達していないが、代わりに魔法が発達し、人々の生活に欠かせないという。

生物も多種多様で、人を襲う生物も珍しくないそうだ。

そんな生物いらないと思うのだが、神様視点では必要なことらしい。


それらを踏まえ、僕は願い事を決めた。

「誰もが羨むような美しい容姿を下さい。それと、危険を察知する能力、そして、どんな相手からも逃げられるほどの俊敏さが欲しいです。」

まず絶対に欲しいのが、優れた容姿だ。

人は容姿で差別する。

僕は誰よりそれを知っている。

次に望んだのが危険察知能力、そして俊敏性だ。

危険が感知でき、しかも間違いなく逃げきれる俊敏さがあれば、少しは生きやすくなるだろう。

「…本当にそれでいいのですか?」

レティシア様が不思議そうな顔で僕を見た。

「前の世界で、あなたを虐げた者を害することもできるのですよ?」

……もちろん、それも考えなかったわけじゃない。

「……あいつらを許すつもりはないです。けど、それより僕は普通の幸せが欲しいんです。」

「……わかりました。ただ、あなたの言う『誰もが羨む美しい容姿』ですが、私の世界では美の概念がこちらとは違います。あなたは今のままで充分に美しいですし、その願いは無駄になってしまうかもしれませんよ?その願いを復讐に変更することも可能ですよ?」

美の概念が違う…?

『おかめ』は昔の美人顔だと聞いたことがある。

だが、現在『おかめ』の顔を持つ人間がいたとするならば、美人とは言い難い。

大嫌いな自分の容姿は、これから行く世界では美しく見えるということなのだろうか?

「そうなのですか?……それでしたら、両親に僕のことを心配しないように伝えて欲しいです。どのようにお伝えするかは、お任せしてもよろしいでしょうか?」

「復讐でなくてよいのですか?」

「はい。両親の方が大切ですから。」

「そうですか…。実は、あなたを虐げた者達は、既に制裁を受けています。」

「えっ、どういうことでしょう?」

「あなたは、電車に投身自殺したと思われたのです。虐げた者達は、あなたの姿をインターネットで晒したために、すぐに加害者として周知されました。彼等もインターネットで顔や実名を晒されたため、これから生活するのは大変困難となるでしょう。見て見ぬ振りをした大人達も、更に上の者から責任を追求され、罰を受けました。」

「………そんなことになっていたんですね。」

「ええ。試すようなことをして、申し訳ありませんでした。そのお詫びに、願い事とは別に私からの加護を与えましょう。」

レティシア様が言った後、僕は一瞬輝き、すぐに元の状態へと戻った。

「願い事の途中でしたね。あなたのスマートフォンから連絡できるようにしておきましょう。あなたから伝えたほうが、ご両親も嬉しいでしょうから。」

「ありがとうございます!マメに連絡します!」

僕はレティシア様に頭を下げた。


「それでは、あちらに行く準備はよろしいですか?」

「はい、ありがとうございました!次にお会いするときには、素晴らしい人生を送れたと報告できるよう頑張ってきます!」

「フフ、次にここへ来るのは、あなたが死んだときです。しばらく来なくていいですからね?」

「はい!」

これからは、今までとは全く違う毎日が待っている。

不安はあるが、なんとかなるだろう。

何かトラブルがあっても、逃げてしまえばいいんだから。

「それでは、心の準備はできましたか?」

「はい!いってきます!」

「いってらっしゃい。あなたが幸福でありますように…。」

僕は光に包まれ、そして光と共に消えた。


「れまでの人族の強者と比べても、彼は歴代最強になりますね…。」

レティシアは光の消えた場所を見ながら呟いた。

「『どんな相手からも逃げられるほどの俊敏さ』が、どれほど異常か、彼は理解していないでしょうね…。マスタードラゴンは音の速度の倍くらいの速さで飛びますから、彼はそれ以上…。そのスピードに到達するためには、人としては絶対に不可能な怪力が必須。更に普段の生活が不便にならないよう力加減ができる尋常でない器用さも不可欠。他にも高速移動中でも状況に応じた判断ができないといけないから、高い演算能力…つまり、並外れた知性も必要ね。それに音の倍の速度だと、身体が受ける風圧も人には大変なはず。耐久力も、人として異常なものとなるでしょうね………。」

いったい、彼はどんな新しい人生を送るのだろう?

望むならば、勇者、魔王、何にでもなれるはずだ。

そんな彼を思い、レティシアは祈りを捧げる。

彼が何になろうとも、幸福でありますように…。


以前書いていた方を読んでくださった方々、ありがとうございました。

こちらに新しいお話をアップしていくつもりです。

紛らわしいので、前の小説は後ほど削除します。

申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


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