先取りはイカン
今日は魔法実力テストの日でございます。まあ展開通り、「エリシア」とテオの対戦だ。「エリシア」は相手がかなりの実力者だと魔力を感じ取り、どう戦うかを選択しなければならない。
「ここは一番強い魔法を使う」
「相手の出方を見る」
「相手に戦意が見られない、話しあいできないだろうか」
テオのルートに入るには三番目だ。一番目と二番目のような戦闘行為をすると後に話しかけてもらえるが、テオからの好感度は低い。何故なら彼は自分の強すぎる魔力に全く興味がなく、魔法使いになる事にも関心がない。実力を示し学園にも国の重鎮にも自分を売り込む最大のチャンスを、話し合いを持ちかけるというとんでもない事をしてくるヒロインに興味を抱くのがルートへ行くためのポイントだ。
「エリシア」は動かない。どうした、何故始まらない、とざわつく中「エリシア」はテオに声をかけた。
「何故戦おうとしないのですか」
「え~、別に。ってか、いいよ、攻撃して。ちゃっちゃと終わらせよう、つまんねえし」
「ではそうしましょう。私の負けです」
ざわ、と周囲がざわついた。テオもわずかに目を見開く。なんだ、どういうことだ、と誰も現状を理解できない。
この会話はテオを味方につけるには最短の返事ではある。この試合ではもう少し問答があって、最終的にテオがまったく戦う気がないと悟った「エリシア」は自分から負けを宣言。魔法を一撃も使うことなく試合が終わるという前代未聞の出来事になるのだ。
この後テオは「エリシア」を訪ねる。何故自分から負けを認めたのかという会話が始まり、テオと少し会話を交わすようになりテオルートへと近づいていく。
それを三段跳びくらいでやりやがった、こやつ。ちょっと考えればわかるだろうに、そんな事したらダメだって。
「あっそう」
テオはそう言うと「エリシア」に話しかけることなくさっさと移動してしまう。「エリシア」はえ、あれ? というリアクションだ。話しかけてもらえず立ち去るのがゲーム通りじゃないことに困惑しているらしい。
負けを認める前にやり取りするいくつかの問答がテオにとって新鮮であり、興味を持ってもらえる重要なファクターだというのにあっさりそれやったらそりゃそうなるだろう。ああなんか俺勝ったわ、はい終わり~ってな感じで。
忘れてないか? テオの趣味は昼寝。寝る時間確保できればそれでいいわけよ。興味を持ってもらう工程すっ飛ばして試合終わらせたらそりゃそうなるだろ。
「なあにこの茶番は。まったく面白くないわ。ふん、いいけどね。あの子が成績減点されることには違いないから。オリン」
「はい」
「魔法戦闘学科の教師に、あの子の減点を最大数値にしておくように言いなさい」
「承知いたしました。学園の顔に泥を塗りくだらないものを皆さんにお見せしてしまった罰だと、見学されている方々にはお伝えしておきましょう」
「そうして頂戴。ふふ、これであの子は学園一の愚か者という認識になるわ」
一応、三番目の選択肢を選ばれた時のセリフでなんとかなった。まあそりゃそうか。テオと会話してるかどうかは「エリステル」には関係ない事だから。
翌日から「エリシア」は針のむしろといった雰囲気だった。誰もがひそひそ噂話をして近寄ろうともしない。成績は最悪の減点、追加試験を受けなければ落第だ。途中入学が許された注目の人がいきなり落第寸前の減点されればそりゃあ別の意味でざわつくだろうよ。
本来ならテオが「エリシア」に話かける姿が学園内で数回目撃され、あのひねくれものと仲良くなったのかあの試合で、と周囲が困惑しながらも少しずつエリシアを受け入れ始める展開なんだけど。現時点で入学してきたときとまったく変わらない状態となっている。
次のイベント、この国に一度目の地震が起きる。この地震、学園の地下に封印されている魔獣が封印を解こうともがいている振動だ。この魔獣がこのゲームの核心にもなる重要なものなのだが、何故封印を解こうともがけるかと言うと人間の魔法を少しずつ吸って自分の力にしている。つまり、桁外れの魔力を持った「エリシア」が入学してきたことで封印解除のお手伝いをしてしまっているわけだ。
それを知っている国王と一部の国の重鎮たちは「エリシア」を暗殺するしようとしたり、国の奴隷とすることで利用しようとしたりトラブルが増えてくるのだが。
学園内ではそんな事知るはずもなく、とりあえず地震の原因は何なのかを調べ始める「エリシア」は図書館通いを始め、攻略キャラのビンダーとの好感度を上げるイベントが発生する。
何気なく窓の外を見れば、テオが昼寝場所に歩いて行くのと、それを追いかける「エリシア」の姿。本当ならもっと仲良くなっているはずなのに、びっくりするくらい何もないから焦り始めたらしい、あの「エリシア」は。
あーあ、いいのかなそれ。テオって昼寝を邪魔されるの一番嫌うって説明書にかいてあったでしょ。
”ブツン”
カタカタ、とわずかに食器や物が揺れ始め、やがてガタガタと比較的大きな揺れとなる。日本じゃないのでこの国は地震がほぼない。それだけで異常事態だ。大地の神がお怒りだ、と騒ぐものも出る。大地の神が屁こいただけじゃない? と初回プレイの時は思ったっけ、マジごめん魔獣。
ところがどっこいしょ。「エリステル」は地震なんかにビビったりはしない。
「もう! 飾っていたアンティークが落ちちゃったじゃない! オリン、生徒会の人間も使ってこの部屋を片付けて頂戴!」
「承知いたしました」
生徒会を顎で使えるって凄いよね。まあここ生徒会室だし、生徒会が片づけするのはおかしくない。99%「エリステル」の私物置いてるけども。
「壊れたものがないか確認して! 特にガラスは丁寧に扱ってよね! あなたのお小遣い程度じゃどうにもできない額のものばかりなのよ!」
「ここは対応しますので、エリステル様は寮へ。避難指示が出ているかもしれません。早めに行動しておくと皆への手本にもなります」
「そうね。まあ当然ね、私が学園を指揮するのは。むしろこんな状態でおろおろしているだけの奴なんて愚かとしか言いようがないわ」
自分で言っといて何だけど、地震が起きてすぐにナニコレ地面が揺れてる! と動揺せずに部屋の片づけだ避難指示だという会話ができちゃうのがなんかすごいな。私はゲームの展開知ってるけど、こいつは知らんわけだし。ザ・我が道を行くって感じ。このキャラはこんな奴だからいいけどさ。
翌日は夕べの地震凄かった、と怯える生徒がたくさんいた。四六時中地震が起きていた日本出身の私には「この程度で地震と呼ぶには片腹痛いわ!」と言いたいけど。だって絶対震度二だよ。あれ? 地震かな? くらいのもんですよ。
地震について調べることを始めた「エリシア」。何故なら地震が起きる前、魔獣と精神が繋がり魔獣の夢を見ていたからだ。自分に何か関りがあるのか? と疑問を抱き、図書館で調べ物を始める。ここで図書館管理を任されているビンダーと出会い交流を深めればビンダールートに行ける。が、ここでも「エリステル」が関わる。
この段階では「エリステル」はまだ魔獣の存在を知らない。というか、誰ルートになるかによってストーリーが何エンドになるかが変わる。
国の陰謀に関わるルート、魔獣と戦うルート、「エリシア」が聖女となり他国と戦争になるルート、なんか学園のドタバタで終わるノーマルルート。
現時点では各キャラルートが確定していない、好感度を上げる段階なので物語の出口が見えていない状態だ。
そのため「エリステル」はガリ勉をし始めた「エリシア」にある事ない事ふきこみ、ついでに知っちゃいけない系の情報をさらりと渡して中盤にこいつ何でそんな事知ってるんだ! みたいな罠をはめようとしている。
ビンダーと仲良くなっておけば彼の知識でさらっとフォローをしてもらえる。ビンダーはゲーム内一の博識キャラだ。物語を進めるうえで、彼ルートになると結構調べ物が減って楽ではある。
「あらあ? この図書館掃除してないのかしら。ゴミが転がってるわ」
「エリシア」を見てそんな事を言えば、「エリシア」は……返事がない。ありゃあ、無関心か。ここでは選択肢はない。心情として「またこの人か」とこの後の対応を考えているところだが、今回はひたすら無視という態度にきた。その態度に「エリステル」は面白くないのは当然だ。えーっと次のセリフなんて言おうかな。無視は展開にないからなあ。
「エリステル様」
「何よ」
「調べ物はこの図書館管理を任されているビンダーに任せるのが一番です。彼はこの図書館の本、内容すべて頭に入っている優秀な男です」
「へえ? 便利ね。それじゃあ連れてきて……いえ、いいわ。野暮用を済ませたら私が行きましょう」
アッブネ。そうだよ、ここに連れてきたらこれから「エリシア」に悪い事吹き込めなくなっちゃうじゃん。セーフセーフ。
その後「エリシア」は「エリステル」の嫌味やヤバイ内容のネタを延々聞かされるも、一度も相槌を打つことなく最終的に「図書館ではお静かに」と言い、一触即発になりそうなタイミングでビンダーが来てなんとかなった。
「エリシア」は当然この図書館のどこに魔獣に関する著書があるか知っている。それを今のうちに確認しておこうとしたのだろう。ついでに、その本を持ち去ってしまえば「エリステル」が魔獣の本を読むことができない。ちなみに本を持ち去るのは中盤辺りで「エリステル」が「エリシア」に対してやる嫌がらせであり、この本がないせいで魔獣の詳細がわからなくなる。ビンダールートでは彼が内容をすべて覚えているのでなんとかなる。他のキャラルートではわからないので、魔獣ルートになるのはビンダールートだけなのだ。
でもなあ。その本がやばいって、この学園とビンダーは知ってるわけで。それを持ち出すって何でやねん? って疑念を抱かれると思うんですわ。そりゃそうじゃん、学園長は魔獣の存在知ってるんだから。図書館に置くことで他人の目を欺いてるだけだし。ビンダーが本をすべて知ってるって学園長は知らんわけよ。
ビンダーに会いに歩き始める。ちらりと後ろを見れば「エリシア」はこちらに全く興味を持った様子もなく、魔獣の本をぱらぱらと見ている。視線を前に戻しそのままビンダーのもとへと歩いた。あの本、今ネコババするんだろうなあ。
お馬鹿さん。
”ブツン”




