まあいわゆる転生ものなんです
私が事故にあって、あちゃー死んだわと思ったら何故か乙女ゲーの世界に転生していた。まあ、巷ではよくあるよねそういう事。
この世界では貧乏出身のヒロインが特別な才能を認められ金持ち学校に入学するのだが、この国を牛耳ると言っていい五大貴族の一家のお嬢様も通っている。
「エリステル様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
歩けば皆が挨拶をする。いやお前誰だよって言いたくなる知らない奴も挨拶してくる。というか、挨拶しないと何で私の横を無言で通り過ぎているのかしら、貴方名前は? ってそのあと大変なことになるからだ。「エリステル」が歩くとモーゼが歩いている時の海みたいにさっと人の波が割れる。
「エリステル」はいわゆる悪役令嬢の立ち位置である。五大貴族という特徴を生かし、我儘言い放題のハーレム作り放題の学園を私物化して教師も口答えできず、いろいろとやりたい放題だったりする。この学園の資金半分を出しているから当然なんだけど。
「エリステル」の伝説はいろいろと凄い。気に入った男を自分の騎士という名の奴隷として扱いどこに行くにも連れて行く。なんとなく目が合った奴は睨まれたと言って騎士に断罪を命じる。まあ、本当に命を取るわけじゃないけどそうなった生徒はだいたい二、三日後には学園からいなくなっている。
目をつけられても地獄だけど、気に入られても地獄という、八方ふさがりな運命が男には待っている。女はさらに過酷な四面楚歌な運命が待ってるんだけどね。
そんなデスマーチパークみたいな学園にうっかり入学しちゃうのがゲームのヒロイン、「エリシア」。
もうこの時点で予想がつくかもしれないが、名前の「エリ」がかぶっている為入学後速攻目を付けられ嫌がらせの毎日が始まるのだ。イケメンが五人関わり仲良くなったりエリステルの嫌がらせをかわしたり、なんやかんやいろいろあっていろいろ解決する。
どこにでもある、よくある乙女ゲー。
今日はエリシアが入学してくる。学園長室に向かうところと鉢合わせ、自己紹介をしたら名前かぶってるやん小娘頭が高いわ、とターゲットロックオンのイベントが始まるのだ。
私はこのゲームを当然やっていて、全キャラ攻略済みだ。隠しキャラを出すためにやりこみにやりこみを重ねたし、どのタイミングでどんなキャラが何を言うか一字一句言えるくらいにはやった。覚えちゃうよね。
そのため当然このゲームの結末、各キャラがどんな人生を歩むのかも知っている。「エリシア」はお好きなイケメン一人と結ばれる。
「エリステル」は主人公への嫌がらせが度を過ぎ、暗殺を企て、どんどん立場が悪くなる。トドメとして家が他国と通じ国の機密を売ることで富を得ていたということが分かり国家反逆罪、その罪さえヒロインにかぶせようとする。
なんやかんやでそれが暴かれ、ルートは三つ。国家反逆罪として幽閉される、他国から見捨てられ口封じに暗殺される、ヒロインを逆恨みしまくって直接殺そうとしてイケメンにブチ殺される。これはどのキャラで攻略するかで分かれるんだけど、ろくなのないよね。
お気に入りの男子を引き連れて……ちなみにこのお気に入り男子が攻略キャラの一人なんだが、廊下を歩いていると来ました鉢合わせイベント。学園の偉い人がにこやかに対応をしている女子がいたらそりゃあ目立ちますわ。
「オリン、あれは何?」
「本日より入学したエリシアという女性です。優秀な人材とのことで時季外れの入学が認められました」
「苗字がないじゃない、貴族じゃないってこと?」
「貧困層の出らしいです。しかし、あの偉大なる魔法使いオーヴァン・クロウス様の推薦だとか」
「なんですって? 我が学園に小汚い鼠が入学するばかりか、魔法使いの重鎮からの推薦? 聞き間違いかしら」
「事実です。彼女はオーヴァン師父に認められた魔力を持っているとのこと。学園長も承認済みです」
よし、一字一句間違えずに言えた。当然だ、ものすごくやりこんだのだから。この会話何回聞いたっけな。この後「エリステル」は「エリシア」にいかにもコイツ関わるとめんどくさそうだなって思わせるきっつい自己紹介をして、彼女を突き飛ばして手が汚れたわとオリンにハンカチで手を拭いてもらってハンカチは地面に捨てて。
「汚らわしい」
はい、イベント終了です。「エリシア」のポカーンっぷりと、先生のアチャーっぷりと、他の生徒の「あの新入りには近づかんとこ、いらんとばっちり受けたくない」という雰囲気に晒されるのでした、めでたしめでたし。めでたくはないか。これが原因で「エリシア」はしばらく友達ができない。