手日記
「取り乱してすまなかった…如何せん俺は涙脆くてな。昔はそこまでじゃなかったのにやっぱり歳は嫌なもんだ」
ようやく永遠と続くのかと思っていたがやっと終わったようでホッとしている。密閉された空間で拘束されている中一人の男がずっと堪えるような声を聞き続ける身になって欲しい所だ。やっとの事で落ち着いた男は深呼吸をしているのだがこれから何を聞き出せばいいのか…
「そういや俺の名前言ってなかったな、俺の名前はイリューフ。時々ヘマをして失敗をするけど選択を間違えたことはないから気にすんなよ?」
「年甲斐もなく泣いて地獄な時間を味わいさせられた選択も間違えてないのならどうしようもない奴だな…ルウェーだ」
右側で座っていたイリューフはゆっくりと立ち上がり自分の目の前に立つと物色するかのような目付きでジロジロと見てきやがった…どうにかして払い除けたいのだが枷がここぞとばかりに両腕の自由を奪っているせいでそんなことも許されなかった。ただ、嫌そうな顔をして訴えかけるしか手段がないのが少し悔やむが段々どうでも良くなってきた。
「それにしても良い魔眼を二つ持ってるな、見た目は何ら変わらないようにしているようだがどちらとも効力は違うみたいだな。魔眼なんて普通だったら取っ替えるだけで一週間から一ヶ月弱吐き気や幻覚などの所為で目を開ける以前の話で頭が狂ってしまうのにそれを二つもとはね…」
「そういう口振りは…お前も魔眼持ちなのか?いや、魔眼を持っているのであるのなら魔力が眼にまで容易に行き届くことが条件に近いはずなのにそれが全く魔力がお前の眼には流れてないからただの純眼か」
「そうだな…図書庫に書かれているみたいな回答をするもんだな。そこに寄って読んだのか?と聞きたくなりたい位よく知っている」
イリューフがじっくりと両眼の魔眼を見ながらこちらもイリューフの眼を見て判断に至ったのだが先生は二つ以上の魔眼を多用しているのを見ているから別に珍しい物でもない。不思議に思うのなら魔力を可視化出来る魔力眼をジェバルが持っていない事だが…あれはあれで感覚でやっているような所もあるから必要はないか
イリューフは俺の眼を覗き込んだ後強引に枷を取り外してくれた。すぐに体が動くか確認をして真っ直ぐ檻に向かい両手を掛けると一瞬で体内にあった魔力の半数が奪い取られて立ち眩みになってしまった。
「ルウェー…枷を取り外してやったのに一心不乱に檻に向かって魔力を搾り取られるなんて話を聞かないにも程ってもんがあるだろ…考え込んでて聞こえてなかったのならもう一度言うがここから出ようとするのは不可能が近い…何故なら」
「ハハハ!!寄ることも無い図書庫にはそんなによく知っているなんて流石情報屋なんてやっているもんだな、イリューフ!」
静かな空間でポツリポツリと言葉を出していた中、一瞬で斬り裂き堂々と檻の外で仁王立ちをしている片腕が綺麗さっぱり消えている男が豪快に笑いながらもここにやって来るのを反応できずに接近してきた。
「おい脳筋野郎!!何ノコノコと顔を出しに来た!」
視界に映ったこいつこそが戦法や技術なんて全てを丸投げをして単なる力だけで捻じ伏せた後に自分の体に何かを入れてきた脳筋野郎だった。脳筋だと分かった途端檻から届くのであれば拳を伸ばして殴りたかったのだが後ろからイリューフが腕を止めて殴るのを辞めさせた。
「こちらもこちらで流石は『お星様』だ。耐久面で言ったらお前が一番かもしれないが一発一発の重みが軽いからそこまでだな」
「守護者か…じゃあその一発の重みが重い筈の片腕は何処に?」
「さっきお前さん達がいたキードゥでオヤ…『海の王』から伝言を預かってそれを伝えにクソ野郎と一緒に行って戦った後がこれだ。あの星は荒削りだが俺の体にこんなにも大きな痕残していきやがった……もっと戦いたかったなぁ」
上機嫌に会話…ただ目の前にいる奴がこちらのことさえもいない体で一直線上に会話するほどそれとは遠い気がするが会った時には何振り構わず殺しに来ていた時とは違ってこんなにも友好的にいられるのは少しの安全材料だと捉えておこう。
それにしても俺の刃ですら傷が付かなかったあの皮膚を通り越して肉を削った…というよりも抉り取られた様な傷は簡易的に止血こそはしてあるが無闇に動かせば出血しそうになっているがここまでの代物を作る奴といえばジェバルしかいないだろうな。
「それはそうと話があってここに来た。そうでもないとこんなシケた牢屋の前になんか上に立つ俺が来ることは無いに等しいのだが……予想だがお前等『お星様』は遥か昔の勇者が使っていた英雄武器の欠片でも探しに来たんだろ?」
「残念だが俺はそんなものは初耳で色々動いているジェバルが知っているも分からない」
俺が掛けた言葉に守護者は唖然とした様子で固まっていて隣にいたイリューフもそれって本当なんだよな?と言いたそうな顔をしているが本当にそんなことも知らないで海上調査という名目でやって来た部分もある。なんたってここまで来るのに色々と振り回されたりすることがあったからそんな話を聞くなんて事はなかったとしか言い訳できない。
「『お星様』……それ結構マジな方?」
ただ言葉に頷いただけなのにさっきまでウキウキになって喋っていた守護者が急に静かになってこっちの気分が悪くなりそうな気がしたので嫌な顔をしたら守護者は溜息を吐いた。
「それじゃあお兄ちゃん楽しみにしているね!」
「楽しみにとっておいてくれ」
魚人族の子供がウキウキしながら図書庫を去ろうとするのを見ていて段々心が痛ましい。子供からの願いで無理難題を押し付けられてもそれを却下しようものなら誰もいないだろうけどここで大号泣なんてことをされたら居ても立っても居られない状態になってしまうのが目に見える。そう考えると今のはグッドチョイスだと考えた方がいい。うん、良いはずだ。
もう少しで『星海祭』が始まるというのに他のことで頭を悩ませるなんてことをしていたらどうしようも無くなってしまう。椅子に座って深呼吸してゆっくりと頭を抱える。
「こんな所に子供なんて珍しいものだな。仲良く話していたようだがどんな話をしていたんだ?」
「……今度はちゃんと本物のアウェルか」
「本物とは?」
聞かなかったことにしておいてくれ、と軽く言ったが一瞬また振り返るとさっきの子供が他の子供を連れて来てまた同じような話なんてしたくはない。ただ面識があって話す時もずっと考えるような事をしなくて済むと思うと結構楽になるもんだな。
「見慣れない姿に格好だから『お星様』じゃ無いかって検討を建てて話しかけた感じで『星海祭』とかについて聞き込みとかを諸々していた」
「成る程…大体は理解できた。ならば、調べ物にもう少し時間は必要か?先に外に出て時間を潰す事は可能だが」
「そこの所は大丈夫。これから何するかも分かった事だしすぐ片付けたら一緒に行動をしようか」
アウェルは机に大量に積まれた本を見てすぐに察して外で時間を潰すなんていう選択をしてくれたがさっきまでじっくりと読んでいた本をもう一度読み返すのには骨が折れる。本を纏めて元の場所に戻す作業をしていたのだがとある一冊の本を戻すところで体が固まってしまった。
視線を落とすと厳重に保管されていた手日記の様な古びれた本、パッと戻しに行くのもいいが手放すとなるとここに来る事はなさそうに思える。少し躊躇ったが丁度目の前に隙間のあった本棚に戻す際に【宝物庫】の中に入れておいた。
半日も居た図書庫を出てすぐ近くにいたアウェルと合流してキードゥに聳え立つ塔と呼ばれる柱に向かって進む。
「とりあえずここまで海底都市に滞在しておきながら仲間に会う為に動かないでのんべんたらりと本を読み漁っていたことは後で謝りたいところだな」
「……?そこまで考えるか?ジェバルとシグマリ殿はハッキリ言って普通だったらすぐに“悪食”のせいでお陀仏になる状況だったというのにそこから何なく生き延びてやっとのことでキードゥにやって来れた。そこでただ用事を済ませているだけだというのに謝る事はないだろう、なんせジェバル殿の仲間なら尚更心配はいらないだろう」
「そんなもんなんだろうか……」
いやまさか初めからでっかい魚に遭遇して終わらない鬼ごっこが始まるとは思わないよね、ビックリしたわ。
“悪食”…名前はふんわりと定義づけられているがあれだけ本に目を通したというのにそんなことなんて記されてもいなかった。魚人族とは全く違う存在だというのに守護者かどうかも区分けできていない。
『星海祭』ではそっちに行く事は無いしこっちには飛び込んでくるのなら境界線を跨ぐ際に見たあの見えない壁を越えない限り、話にはならないだろうな。
「それよりも後は他の仲間に伝えることができればいいんだけど都市からもう一個の都市まで距離が半端じゃないからどうしようもないのが頭にチラついて仕方がない」
「確かに用があるからと言ってから去った故分からないからな」
「そこのお兄さんお仲間さんに何か伝えたいことがあってお困りなかな?」
歩きながら話をしていたが後ろから肩を叩かれて振り向くとマディーさんと一緒にいたグリエさんだった。グリエさんの周りには膨大な魔力が溢れていたが多分だろうが転移魔法とか言う魔法で使う魔力が余った感じなんだろうが結構急いでいる様だった。
文字数が少ないのは申し訳ないです…頻度上げてくように頑張ります。




