死なる戦士、踊る愚者
「ふぅ…ここまで遊べるなんてこれを開催させて本当に本当に良かったわ」
「…………」
「ちょっとだんまりはよしてくれよ。こちとら楽しくて仕方ないんだからさ!!」
互いに灯す信念は違えど、目指す志は少なからず同じだった。
互いに手に持ち仮初であろうと幾度も定め続ける一手はとても鋭く力強かった。
互いに振るう剣劇は激しく、しかし冷徹に視線を交わす敵に最大の手を打ち続けていた。
幾度も向けられる殺気など浴びせられ続けてどうにかなりそうだった、見せられ続ける奇想天外な行動には何度も死にかけたが乗り越え続けることができた、自分が…俺がそれまでこの役目は嫌々請け負っていたがここまで戦い続けていればこれが最適解だって分かった。
「……スゥ、フゥ……スゥ…」
目の前でまるで実態なんてものは初めから存在していなかったのかもしれない、今面として向き合っているアイツがアイツなのかすらも深く考えているだけでも馬鹿馬鹿しい。あんなに軽装備で、でも万全だと証明するように全身を薄く覆う鎧自体もアイツが嵌めている指輪が齎す効果だったり、名の通りの神出鬼没の殺人鬼。
「ハァ……ハァ、スゥ……」
人の少ない、寄りつけられないほどの精密な魔法が飛び交いながら体を覆い被さる外套がその者の姿を消しながらも見え隠れする身に纏うその姿に、この世を統べるに相応しい竜を冠する剣を地面に刺し立ち上がる死霊闘士。
「こんな気力を削る戦闘じゃなくて話し合いで解決したいな……【水浪】君」
「そんな生半可な受け答え…応じる気もない癖にな【神出鬼没】!」
上っ面の要望を払い除けて互いに呼吸を整えてゆっくりと己の牙を構えて気持ちを焚きつける。片は目の前で輝く鮮明な命に目を輝かせて、片は遥か彼方死地に立ったであろうあの英雄が見た溢れ出る邪悪に揺るがない覚悟を胸に秘める。
「この戦い勝ったら……実際に肩を並べて一緒に暴れたいな、似た者同士だからいいだろ同胞」
「やなこった、さっさと何処かに隠している石を出してここから消えるんだ。仲間に負けて帰るのは流石に御免だからな……叩き潰してやるよ、殺人鬼」
鬼は無邪気に笑い小さく呟いていた詠唱はだんだんと童話を語るような吟遊詩人のように透き通るような声だが大きくなっていく、手に握る竜が放つ暴風は所持者である束の間の死人に勝利への極楽へ追い風が吹く。
「――何も恐れずに進む好奇心と無邪気を】【終着点は…」
「――轟く暴風は我にひと時の加速を与えん】【暴風は…」
彼の者は縛りを、彼の者は安堵を
「――――【愚者】!!」
「――――【兇颶】!!」
思想は自由という羽を持ち、考え方次第では凶器として愚者が望む世界に
暴風を齎す竜は自身の風に、全て押し通す誓約ない風を死人が望む理想郷に
◆
「それで…自分らは一年間も姿を消していたってことか?海底で『海の王』とその子供と殴り合って【血の権力者】と殺し合いしている間に?」
「そういうことらしいです、その一年の間教授達や残った職員で海を渡ってここに辿り着いたらしくて…ジェバルさんはここが故郷と言ってましたが本当なんですよね?」
「それは本当、というか海底に潜っていた半分はここで生活していた奴の方が多いはず」
「何でそういうこと教えてくれないんですか、こっちは色々と状況読めなくて話を理解するまで時間が掛かったわけなんですから」
文句を言いながらも胸ポケットから取り出したボロボロの手帳を必死に捲りながらオルフィットが何かを纏めている。窓から見える夜景を見ながらソファに寄りかかりながら溜息を吐く。粗方の武器は転移魔法でお迎えが来た猫人族の人に渡してガドマに手渡すとか言ってシグマリ同伴で行ってもらったが【宝物庫】の中にはあれだけの死闘を繰り広げても傷が一つもない…というよりも自ら刃毀れの部分を炎を灯して修復するようになったしまだ成長しているようにも感じる変光星はどんな風になるのか楽しみな所もある。
今は港から上がって遠くだが山の麓にある宿屋があるのでそこでゆっくりさせてもらっているのだが聞けばここら辺の山は『アルチャー』が買い取って観光施設とかそういうをやっていて一年の間にとんでもないスピードで発展したのだとオルフィットが言っていた。
今はオルフィットにこの大陸にある国を説明し終わってこれからどうするかの話し合いも兼ねているのだが運がいいのか悪いのか商業国家ファークト…国が主催する初の催しが明日にあるんだと確かここで消息を絶った【賢者】か【錬金導師】が生み出した賢者の石を使って何かするらしいけど国の財宝以上の物を手放すとも考えられる手段はどうなのだろうか。
オルフィットにルームサービスで頼んでもらった遠目で見たらカクテルにしか見えないジュースを飲みながらその賢者の石が関わる一種の大会についてのルールをオルフィットが詳しく説明しているのを聞き流していると廊下の方で騒ぐ声が聞こえた数分後扉を蹴り開けて誰かが入って来た。
ここで何か問題は起こしたくはないが身を守るためにはしょうがないよな?いつの間にか後ろにかくれていたオルフィットに小声でウェールを呼んでくれと言って反対側の出口に向かわせて【宝物庫】から変光星を取り出しかけた所で部屋に入って来たのが誰だか分かった。
「久しぶりだな、ガドゥゥマァァァ!!??」
「一年間どっかに消えたと思ったら突然使いの奴とシグマリが帰って来たと思ったらボロボロになった武器を平気で渡してきてなーにが『よろしく頼む』だ!頼むにしても兄ちゃんが来てからにしろ!」
「ごもっともで…」
【宝物庫】から取り出そうとしていた変光星を戻して部屋に入って来た一年ぶりに見た少し毛が伸びて印象が変わったガドマに会えたと思ったらとても力の籠ったパンチが飛んできたので受け止めて事なきを得るとそのまま説教が始まり物凄い勢いで喋るガドマを落ち着かせようとすると駆けつけてくれたウェールがガドマを引き離してくれた。
「シグマリが言っていた死累人のウェールか…まあ、兄ちゃんに一言言えただけでは済まないが文句の他に言いたいことがあったり見せたいものがあるからちょっと面貸せ」
ウェールの事をマジマジと見ていたガドマだが持ち上げられている体を離すように促しただけでただついてこいと言うガドマは前に見たガドマと少し雰囲気が変わっていた。オルフィットは灰色のタキシードを着たガドマと同じ猫人族の一人と一緒に部屋に恐る恐る入って来た。
「シガルダ、シグマリはどこにいる?」
「『お姉ちゃん呼んでくる』と言ってはしゃぎながら多分イプロルン姉さんの所に行った」
「本当に兄ちゃんに似て自由な奴になったもんだ…今から親父の所に行く」
付いてくるように言われそのままガドマの後を追うようにして宿屋から出て山の中をずっと歩いているとシグマリが目的地だと思われる場所で元気に手を振っていた。ガドマは大事な話だから【静寂】とか警戒を兼ねてシガルダを呼んだってのに意味ないだろ…なんて愚痴っていたがオルフィットを抱えていたあの猫人はそういう隠密系統の事が出来る感じなのか?
確かに気づかないうちに【静寂】と【遮断】に今歩いている道にすら【幻想】が掛かっているぐらいだしとんでもないくらい用心深い感じの奴だって思うけど【魔力感知】に引っ掛からない方法があるのなら是非とも教えて欲しいな
「オルフィット…だったか?お前さん等が土地で変な事をしているのは申し訳ないが『アルチャー』のポトッルには確認済みだから安心しておけ」
「あの頑固な教授が!?」
「頑固とはどういう意味かなオルフィット」
オルフィットの感じから全くその事を聞いてなさそうだからあまり知っている人はいないってことは分かったが猫人族が『アルチャー』と協力関係を結んでいたのか?何の意図でそうしたのかはガドマ辺りに聞くとするか…何か分かっていそうだし
シグマリとポトッルが木の生い茂る中すり抜けるように入っていったのを見て少し驚くが後ろからガドマに押された途端そこまでいた森の中ではなく少し開けた場所に出たのだがそこは数は少ないが最低限の施設が多く建造させられていた。
オルフィットも目の前の建物を見て驚いていたし自分だけが知らないわけではないと分かったからいいんだけどシグマリは先導していたのもあって知っているみたいだけどいつ知ったんだ?帰って来てからシグマリなんてイプロとグリエさん達と一緒に行動していたが…その間に見つけたのか?
「うし、シガルダ。オルフィットは下して大丈夫だ。お前は一応入ってきたところが問題ないか見てきてくれ」
「分かった、ガドマ兄さんも早めに動いてくださいね」
「分かってるって、そっちはよろしくな」
シガルダに抱えられていたオルフィットはゆっくりと地面に下されそのまま入って来た方向を振り返り森の中を歩いていった。何が起きているのか理解できないオルフィットはそのまま地面に座り込んだまま動かなくなっていたが手を伸ばす『アルチャー』の教授ポトッルに変な奇声を上げていた。
「よし、さっさと鍛冶場に行くぞ。こちとら待たせているからな」
「それよりもここは?見た感じあの猫の国と全く外観は変わっていないように見えるけど」
「ここは海の向こうの土地だ、残念だが兄ちゃんが少しの間生活していた猫の国じゃなくてここは『アルチャー』の敷地に親父が手を加えた隠れ家みたいな俺たち猫人族の第二拠点みたいなところだな」
「ここにいるのは全員が大抵の戦闘は出来る奴しか来てないから何かあっても対処できるようになっているし全然ここから転移魔法陣があるから帰れるからそこまで気にしていないな」
「はぁ…」
歩きながら話すガドマは何も知らない自分に簡潔に教えてくれるわけだが一年もあれば『アルチャー』と一緒に第二拠点でも造るのか…人と交流が乏しいと思っていた猫の国に人と協力関係を結ぶとは考えられない気がするけどそこは考えが変わったのかな
「本当に色々とあったんだよ、本当に何もないはずの海上調査の予定だったのに海底に引き摺りこまれたなんてビックリだよ。色々と報告書が上がってきていてじっくり見たいところだがそんな暇も時の流れは許してくれなくてね」
「教授…今それどころじゃなくて賢者の石に関してのことで手一杯な所でして…」
「だからオルフィット、研究者たるものそういうのは興味があるから色々と膨大なお金を使ってまで土地を買ってうざったるい賞金狩りと一緒に海を渡ってここに来たんだから」
賞金狩りもこっちに来ているのか…ルウェーを餌にして何とか許してくれたりはしないかな。一応あいつも賞金狩り裏切ったとか言ってたしそういうのもありかもしれないな。黙々と先を進むガドマに遅れないようにしつつも後ろで教授とオルフィットの会話を聞いているがこんなにもフランクだったか?もっとしっかりした人だと思っていたがこれが素の教授なのかな。
「そんでガドマは何でこっちに…?」
「親父が移っておけってな、シグマリがイプロと国に戻って来た時暇ではなかったが『アルチャー』と手を組むことになって武器、防具とかの素材がとんでもないくらい入ってくるようになったし俺等にそういうの頼むようになったわけだから尚更移るのが確定してな」
「一人でやってるのか?」
「馬鹿言え、『アルチャー』の奴でも今までの数十倍の量だからそこは『アルチャー』がやっている。俺にも自分自身の成長を見るためにも色々と勉強してたわけだ。そのお陰もあって今じゃ【真匠】になれた」
【真匠】…鍛冶職でもそんな名称は聞いたことが無いから本当に頑張ったんだろうな。というか自分なんてそんな大層な職業就いていないぞ?冒険者とか名乗っていたが得体の知れない特級は廃止されたらしいし賞金狩りになろうとしたが色々とやらかしてなれるわけないしな…
「【真匠】になった理由はお前さんの武器を修繕していたときになってな」
「え?」
「一年前に預かっていた黝危槍覚えているよな?」
火山で戦ったあの蝶とそれを守っていた影で無茶な扱いしてボロボロにしたのは覚えていてそれをガドマに海上調査前に手渡したのは覚えているがかなり扱いに困るようなものだったがまさかそれがガドマの糧になったとは驚きだ。
「親父の助力もあったが何とか直せてな…この部屋に入ってくれ、シグマリと親父を呼んでくる。たく先に親父を呼んでくるとか言っておいてどこで何をしているのか…」
先に部屋に入ると物凄い量の鍛冶道具が揃えられており異様に炉から漏れる火の色が輝く見えた、ポトッルも初めて入ったようでここが数少ない【真匠】が使用している鍛冶場…すごいな。とかオルフィットに『アルチャー』もやっぱり鍛冶職に力入れた方がいいのかもな…などと小さい声で話していた。
ガドマが仕切っていたあの鍛冶場よりも空気が引き締まっているような気がする、そんな鍛冶部屋で一歩前に進むと背後に何かを感じ振り返るとガドマの父親…猫の国の王キャッツェ・ニャオーンが立っていた。
「久しぶりだな、ジェバル。うちの娘が世話になっている」
「一年間姿を現さず申し訳ないです。少し海底に潜っていまして」
「んな、シグマリから沢山聞いてる。ここに呼んだ理由は単純な事だ。明日この国がやるっていう催しの事とお前さんの武器の話だが…空間魔法にでも隠しているんだろうが持っているんだろう?『英雄武器の欠片』」
「あ、親父!先にこっちに来てるなら気配ぐらい隠すなよ!ただでさえ広い敷地で探すこっちの身になれ!」
キャッツェの話す明日の事よりも一番自分の矛となる武器についての話に耳が傾いたのだがそれよりも地上に上がってから鑑定して唖然とした誰にも言っていない守護者から貰ったあの石…英雄武器の欠片について喋った事に驚きが隠せなかった。
後から来たガドマが来てキャッツェは何もなかったように振舞っていたが【宝物庫】の中で大切に保管している物に気付いている方が不思議で仕方なかった。
【真匠】:鍛冶師の際に手に触れ自身が造り出した武器・装具の総数が累計で五百を超えている状態で名を冠する存在の一部を武器・装具として扱えるように育てる事で【匠】を冠することが可能。
【匠】の状態で淵源時代の名を冠する存在を同様に扱えるように方向を定め育てる事で【真匠】として大成する。
英雄武器を造り出した【勇者】は【■匠】として君臨している。
新章開幕




