pathetic march
「疲れた」
「聞いてた感じのギルドマスターとは違っていたが、姿を消していた間に変な物でも食ったせいで変わったのか?」
「ないない、特級の連中を全員束ねている位だからそういう緊急の時でも胃が強いんだよ」
少しお洒落だけれでも落ち着きのある会談室のソファに寝転びながら隣で酒を飲んでいるメドゥケートを見ながらさっきまで真正面で話していた猛獣のような【錬金導師】とは違う危険を感じた。温情深いって印象しか聞いてこなかったから別人がいざ目の前に出てきたら驚くしかなかった。
「それにしても上手く纏めたな」
「ああいうのが後ろから刺されるようなことが無いようにするのが一番って考えただけなのと二つの団体様をこれから始まる行事に引き込めたのは良しとしとこうか…本番前日とかだったら止められることも出来ずに隣国に足を運んで今でも睨みに睨んでて停戦状態の中に平気で入っていきそうな感じもしたから危なかった」
あー糖分とか休憩時間が足りない。いつもだったらこれくらい平気な顔して三徹位持っていけるけど今日だけで一週間分を一気にやってきていたから正直しんどい。真夜中に緊迫した空気は二度も要らないんだよ…
もう少しで楽しいパーティーが待っているのに万全の形で入りたいのにこうなると必死にならないとだな。ソファから跳ね上がるように飛び起き上がり欠伸をしながらやり残したことを片付けに行く、道中絡んできた蛆虫は憂さ晴らしに殺し回ったけど本部に戻った時間は明け方になっていた。
「ボス…この後確認するのが残っていて…」
「ごめん、メドゥケート。ガチ目に寝させてくれ。魔力も元通りにしておかないと何かあった時に対処できないから」
「分かった、ボスはゆっくり休んでもらってその間は俺とサーウェがやっておく」
「サンキュー…」
戻って来た時にサーウェがメドゥケートに向かってずっと暴言吐いてたけど取り寄せておいた茶菓子でも盗み食いでもしたことにでも怒ってるのかな?
自室前のドアに辿り着きそのままやる事やって寝ようと考えている所でメドゥケートが声を掛けられたが正直【錬金導師】のせいで不必要に魔力を使ってしまった。部屋に入ってベットにダイブする前に近くに土魔法を設置しといて縛りのない夢の中に意識を落とした。
(あっちはあっちで大丈夫かな…面倒はちゃんと見ておかないと)
◆
「それじゃあ皆さんは一旦ここで【亜空間】から物を取り出しますので少し離れてください!」
【亜空間】から引っ張り出すのは趣味で作らせておいた野営グッズ達…まさかこんな時に役立つとは思わなかった。ギルマスが連れてきたというよりも護衛として連れ回している彼女こそが事の発端なのは考えられるけど長い間他国との関りが途絶える状況になるかもしれないのに留めておくわけにはいかないからね。
安全を確認するためにグレン・リチューが私が出した【亜空間】の物たちを物色している間にご本人が前に出てきて頭を下げてきた。
「私の勝手な話に付き合わしてもらってすいません、ネイティー・フラディさん…【神出鬼没】の妹さんに今回は助けられました」
「いえいえ!兄も色々と背負っているものが多いのでこうやって分担しながらでしか私は役に立てませんが最古の聖女『プロバリー・レスティカ』様の力にはなれますから!」
聖女は微笑み安全を確認したグレン・リチューの声で用意した簡易テントに入っていくとどこから現れたか分からない少女が聖女を追うようにしてテントの中に入っていった。誰だかはギルマスに聞いとくとして…安全を確立しておかないと私の首が刎ねるのでそうなるのは困るから万全は期さないとね
【亜空間】から魔物除けの魔法を付与している魔導書の一ページ千切って近くに落ちている枝に付与して四角で囲むように枝を地面に刺して魔法が上手く起動したのを確認してその上に防壁魔法で完全に籠城するように準備しておく。
「いい感じの枝持ってきた、先に俺が見張りをするからお前は休んでおけ」
「休んだり寝ちゃうと中々起きれない体質なんでこのまま起きてますね、色々聞きたいこともあるんで」
「結構ハードなことしているけど体は大丈夫なのか?その辺は何もできないからな」
別にそういうのには慣れっこなのでー、軽く返事を返しておいてギルマスが集めた枝とか木を組み合わせて【火球】を指元に灯して焚火を作って倒木を椅子として利用して一息入れる。真正面で欠伸しながら腰に掛けていた剣をそっと座っている木に置くと簡易テントの方に目線を移していた。
「聖女様には少し不便な思いをさせてしまいますが一応できることはしておきました」
「こっちとしても結構ありがたい話だ、【亜空間】系統の空間魔法なんてそうそういないのに兄弟揃って凄いな…そういう所はどうしてもあいつの顔がチラつくが」
「私なんて全然ですよ、それにしても【神出鬼没】の兄に手伝いを頼むなんてギルマスは何がしたいんですか?」
「やっている事は普通に犯罪だっていうのに分かり切っているのに犯罪を重ねている所には前々から危険視していたが自由の追跡者とか俺等に関連する所にでも迷惑掛けるような素振りを見せているようだったら何が何でも叩き潰していたがそうなっていないからな」
「兄は自分と仲間の利益しか見ませんが他方に迷惑かけることはしません」
「……そんならいいが、でも自覚ありの殺人も到底許されるものじゃないけどな」
「それにしてもギルマスはどこで何をしていたんですか?大事引き起こしている張本人ですけど…変な人たち連れてきたりと一体何したいんですか?」
本当に大変な一年間でな、焚火の火をじっくりと見ながら話し始めた話は直感的に長そうな感じがしたから体を前のめりにしながら静かに喋り始めたグレン・リチューに視線を動かす。
「まず初めに何だがマディーっていう元特級の冒険者の人間知ってるか?」
「ええ、知ってますよ。姿を消した冒険者の一人ですよね?結構静かな人だって聞いていますけど…その人が何か関係しているんですか?」
「マディーを助けを率先して動いた同じくらいの女に転移魔法で海の向こうの島に転移した後ここにいるとあれだけど置いてくのも気が引けるからもう少ししたら仲間が回収してくれるから!とか元気に転移魔法で姿消したと思ったらそいつの仲間じゃなくて賞金狩りっていう集団でちょっと偉い人に保護されてなぁ…」
「ちょっと待ってください、転移魔法って来た事がある場所とか精々視界に映る場所に転移する魔法ですよね。それって転移魔法ってやつなんですか?」
魔法にも限度があったりするのは常識みたいなことだが、そのマディーを救おうとした人間は聞いた限り転移魔法とは違うような違う魔法を使っているような気がする。私も遊びでやった転移魔法で痛い目を見たことがあるからそんなことができる魔法があるなら是非とも奪ってしても手に入れたいね
確定でその女の人は海の向こうで何かしらの行動をしていたんだろうね…でも遠く離れている人を助けるような考えに至るのか少し疑問が残る。考えながらも話を続けるグレンの言葉に耳を傾ける。
「保護してくれた賞金狩りに関しては実質的にここで活動している冒険者と対して変わらなかったから良かったんだが聞けば聞いたことのある奴の名前を耳に挟んでそこから死ぬ気で動きまくった」
「マディーさんの事ですか?」
「いいや?ジェバル・ユーストだ。あいつ自身姿を見せなかったからどっかで道草食ってるんだろとか思っていたが海の向こうで賞金狩りと敵対していたと思わないだろ…『アルチャー』とかいうよく分からない組織で海上調査?とか調べれば調べるほど知らない単語が盛り沢山で正直どうにかなりそうだった」
ジェバル・ユースト…特級が廃止になる前の最後になった冒険者がうろ覚えだけど確かそんな名前だった気がする。『アルチャー』の所は海上調査とかできる位の技術があるってことは魔法も同様ってことを考えると少し争奪戦での戦闘は気をつけたほうがいいのかな?私じゃなくて兄の方だけど…ね
でも【剣聖】の称号を持つグレンがそこまで自由に動けたってことは戦闘面では上位に立てたから強制的に何かを押し付けられるようなことはなかったと考えると、別に私か兄が戦ったとしても倒せる可能性はあるってことだろう。魔法は使うのは当たり前だとしてそれに対する対策は【模倣】でどうにかしてそこまで磨いてこなかった剣術をどこからしらで盗めたらいいんだけど…
「考え事か…?難しいこと話してすまなかった、本当だったらジェバル自身に色々と聞きたいことがあるのもあるし結構あっちでもゆっくりできた試しがなかったから聖女様を護衛し終わったら次はジェバル探しでもしようかな」
「上に立つ人は色々と背負ってますからね、『自由の茨は軽快に、大胆に、しかし慎重に、踏み締めて笑い転がりながら歩く』」
「何かの魔法の詠唱か?」
「魔法の詠唱…確かにそう聞こえますかね、兄がよく言葉で気づいた時には私も言っているところがありまして…」
「そろそろ先に寝てろ、明日も早く目的地にいかないとなんだろ?見張りはやっておくから」
グレンに寝ることを促されて渋々寝たがさっきの言葉を聞いた時僅かに動いた感じがしたけど私と兄が戦闘で楽しくなるとよく口ずさむ言葉に気になる事でもあったのかな?明日も早めに動いて明後日始まる争奪戦には国境から抜け出さないと…熟睡を拒む体に目を閉じるだけの仮眠をして夜を過ごした。
◆
「ボス…?全く起きないけど大丈夫?」
「この声は…ウェアルド?」
「やっと起きた」
ベットの上で寝ている隣で起こしてくれた彼女はウェアルド…昨日まで配置についていたけど今はこっちの方が重要だから全員招集掛けているからそろそろ来ているとは思っていたが部屋に忍び込んでいるとは…昔より部屋に入ってくるの上手くなっているし一応寝ていても奇襲に合わないよためにも魔法道具は多く付けているつもりなんだけど…視線を人差し指に掛けている指輪型の魔法道具に移す。
「『敵意のある』存在を感知して少し強い魔物を召喚する、そんな事を考えるわけない私に引っかかる訳ないじゃん。サーウェちゃんとメドゥケートはお疲れで部屋でお休み中、他の子も色々と忙しそうだったから起こしに来た」
「あの二人も近くで動いてくれるだけでいつ寝ているか分からないから確認できてよかった、俺も動くとするか」
【瞬間装備】で今日分の服に早着替えを済ませながら報告を聞き、ウェアルドを連れて部屋を出ようとする時にふと【瞬間装備】で着替えたコートの右ポケットに変な違和感を感じて手を突っ込むと不思議と笑みが零れた。
「どうしたの?」
「いや、ただ石はちゃんと見てくれているんだなって話。ほら」
手元から取り出したのは透き通る黄色の賢者の石…前日だというのに早速配られたみたいだ。結界はまだ張っていないようだからあっちの方を心配しないでよさそうだな…というか持っている人間は分かっていても国の人間が言うのは契約違反だからその内【錬金導師】の人工人間とかが石の在処を確認して国外に出さないようにして漏れ出さないようにして明日の本番まで所持者の魔力に順応させる感じだろう。
現に魔力が賢者の石に吸収されているのを取り戻そうと促すと倍にして返って来た。賢者の石が俺に何を齎すかはまだ未知数だけど使いこなして【錬金導師】から所有権を奪ってやる。
『いいねぇ…そういう心からの信念っていういうのが俺等賢者の石を呼び寄せる切っ掛けになったわけだな?』
「!?」
「賢者の石がどうかしたの?!」
「いいや…面白いね…扱いきってやろうかなって思ってただけ」
『さて、奪われるまでの契約だ【神出鬼没】。お前はこの無謀な争奪戦に何を望む?』
(絶え間ない戦いに絶望と希望を)
『欲張りなこった』
微笑みながら金色にも見える賢者の石を【亜空間】ではなく同じコートの右ポケットに突っ込んで部屋から出て食事を取りに足を運んだ。まさか石に欲張りだなんて言われるとは思っていなかったけど欲しいものに貪欲にしがみつけないと俺自身ここに存在しないから




