The fool
「フラはこの後どうするの?」
「言った通り賢者の石を火種とした争奪戦を考えている」
本当に色んなことがあった、というより事件を引き起こした奴がいる。一昨日終わった職業体験で実感したけど本当に現在冒険者関連が面白いくらいに機関が死んでいるってことを身に染みて体験できた。
一つの国が一夜で滅んで今大混乱が起きている最中、冒険者を束ね続けていたギルドマスターの失踪により国家間による冒険者の管理が疎かになり数が少ない特級の廃止になったり遠くの海から二つ団体様がやって来ったって報告があったり…
一番ホットな所だと神聖国家ダベリギオが冒険者の混乱時に乗じて中央都市ウェガルボとアストラル王立国家に宣戦布告を仕掛けて只今睨み合いの真っ最中…事の発端は確か新しい聖女様と使徒が降臨して天啓に導かれたとか言ってたはず、宗教関係はややこしくて好きじゃないけど一つの事に関して熱心に取り組むのは別の意味で尊敬するけどこれのお陰で色々と狂い始めているから何とも言えないのが現状。
サーウェと向かい合わせで一緒に優雅に夕食を嗜んでいるが実にこのお肉は噛めば噛むほど美味しいからお気に入りなんだよね、よく好みを把握してくれている。食べ終わったらパッツにお礼でもしに行こうか
「そもそも、実在するのか怪しい賢者の石を手に入れて、何をするの?」
「ありきたりな目標もいいかもだけど強いて言うなら交渉材料ってところ」
多分だけど賢者の石を手に入れるのは今じゃないだろう、完璧に手に入れるのは皆が視線を離して別の面倒事に手を伸ばし始めて少し経ったタイミング…後回しにされた時を狙うって感じかな。使用用途として何でも使えるし持っていて損は確実に無い。
「賢者の石は一回手元に来たら一度全部争奪戦のために出払わせるつもり」
「そうしたら、意味がないんじゃないの」
「確かに皆のために造り出された八つの石ころを再び戻すのは意味がないよね。財務大臣様も脅迫された意味がないと思うだろうけど戻す際に一工夫するのさ」
売られたことはないから何とも額とか推定するしかないけど国が最低でも二つ位は買えると思う、売る気はないけど。魔石の部類になる賢者の石はどれも魔法が使えない人でも使えるような代物だから景品同様の扱いをされたら警戒されたり偽物だと言われるだろうがそこで国のお偉いさんを利用して信憑性を持たせておけば大丈夫でしょ
商業国家創立以来ずっと人柱として居続けた人がうまくやってくれることを望んで今は夜景の見れるこの食事を堪能するとしよう。
◆
「さて、準備はできたのかな?財務大臣様」
「既にお前等が望むことはしたし国を巻き込む催しさえも準備した…どれも【黒蜥蜴】にも【神出鬼没】リーヒット・フラディにとっても無益な話だ。何故回りくどいことをする!」
「誰でも喉から手を出したくなる逸話に出てくる賢者の石を簡単に手に入れられるのはとっても虫がいい話だ。だからそこに一つ嘘を入れて間違い探しもいれたんだよね」
「間違い探し…?」
「財務大臣様に一つ質問、賢者の石って全部で何個あるって知っている?」
「八つ…じゃないのか?」
一つ蠟燭の明かりだけが部屋にいる俺とブランリュー・ジェブリスの顔薄暗く照らす。暴れると困るから手足はキッチリ縛らしてもらっているが何か余裕のある顔が違和感を誘う。それでも現状続いているお話よりも相手の気を紛らわせる質問をして【魔力探知】をしようと試みると高速で近づいてくる一つの人の気配と腰につけておいた仲間から危険を知らせる装置が振動し始める。
『嘘を含めて九つだ、そうだろ【神出鬼没】』
「ご名答」
「【錬金導師】!?」
財務大臣の方から聞こえる男の声、今一番接敵したくない奴と確信して【亜空間】から双短剣を取り出し壁を勢い良く突き破って来た輩が放つ斬撃を弾き蹴り飛ばして財務大臣に向かって水魔法を投げつけて部屋から飛び出す。
『随分と荒っぽいが悪名を馳せるだけあるな』
「いやー貴方のせいで順序がぐちゃぐちゃで最高ですよ。【錬金導師】が身代わりに人工人間なんて甘く見られたものだ」
即座に【静寂】と【隠蔽】を俺自身と人工人間につけておいて遠慮なく飛んでくる魔法攻撃を搔き消して隙を晒した一瞬を連続して叩き込む。うーん、一応周りに警備を配置しておいたんだけど連絡が無いから全員殺された?最悪はそうだろうけど中には平均以上の剣術を持つ人間を重点的にしておいたからそんなことはないはず
『余所見か?』
「人工人間の弱点って人と似せているって聞いたことがあるんで本当かなって考えていました」
『【格納式魔法術式:火炎魔法【炎獄】】』
「本当に珍しい魔法というより殺傷能力高めの奴を平気で人に向けられるのはなぁ…【模倣】【炎獄】」
真夜中だというのにこんな昼みたいな明るさを出せる魔法があるなんて知らなかった…オリジナル魔法とかの可能性があるから制限があるけどぶつけるタイミングはここしかないでしょ、捻りながら相殺するためだけに放った【炎獄】がぶつかり合い綺麗な爆発を残すのを見届けて【魔力感知】で奇襲を仕掛けるかもしれない人工人間を探し出そうと思ったがそんな心配はいらなかった。
『真似された…模倣杖と同様の事が出来るとなると尚更野放しにするわけにはいかないな』
「お、これは不味い感じか?」
俺と人工人間との間を【炎獄】で一時的な壁を作ったのにそれを無視して飛び込んで腕に仕込んでいたのか分からないけど手に持っている剣は今持っている双短剣と比べてリーチ差が倍以上で一方的な戦いになると分かって土魔法で近くの家の屋根と同化させて自分を引き摺り込みその間に【亜空間】から剣を取り出して相対する。
(ザー、ザー……フラ…?応答して)
「よっこいせ!どうした?こっちは【錬金導師】様と交戦中だけど」
(……?何を、言っているの?)
おやおや、戦闘中に変な事言わないでほしいな。絶賛隠れているサーウェが余裕でこっちに援護できる範囲にいるからそろそろ何でもいいから欲しかった所なんだけど予想外過ぎる回答が返って来た。魔力でバレているとは思うけど聞かれるのはアレだから本気で蹴り飛ばして強制的に聞かせないようにしつつ風魔法で空を飛び回りながら魔法を連続して撃ち込んでくる前にこの違和感を解かないと
「うーん、今何が起きている?」
(フラの近くに、誰か接近……ザ、ザー)
『どうかしたか?』
「いや、違和感を潰しに」
◆+
「まさか財務大臣と【錬金導師】が攻撃に回るとは…考えれば有り得そうだったから頭の隅に置いてたけど現実になると本当に面倒…」
「さっき…お前は出て行ったのに…」
(フラ、大丈夫そう?)
「境目が見えない【幻想】に嵌ってた。一応警戒を…」
首に刃を突き付けながらサーウェに連絡をしていると近くにいたはずの財務大臣が姿を消していた。もうそっちが望むものが現状手に入らないのに…何を考えているのか新参者の俺には全く理解ができないや
「そのままでいい、引き続き【黒蜥蜴】がブランリュー・ジェブリスの身元の安全を確立しろ。賢者の石に関しては既に争いの渦中にある、今奪ったところで誓約に反するからな反さないギリギリを私はやらしてもらう」
「………結構自信あり気だけどこのまま逃がすと思う?先人の【錬金導師】の首元を搔き潰す位死に物狂いでやって見せる自信はあるんだけど」
(フラ、まだ準備中)
「理解したならいい、気晴らしなら進行形でやっているだろう?」
生きた化石が…本当に気に食わない、昔の人間ってこういうのが多いと思うと曲者しか生きていけないつまらない世界だったんだろうな。現在進行形で戦闘を行っている自分をキリのいいところで戻して修復する。出来る限り制限をしながらの戦闘は酷く窮屈だけど次がある場合は全力で潰す対象としておくか
「賢者の石に関してはいつでも取り返すことができる、その時は全力で奪い返す」
転移魔法でこの場から消えた【錬金導師】を後にぽっかりと空いた穴から差し込む月日が薄暗い部屋に残された俺と財務大臣に等しく照らす。安堵と怒りの溜息が吐かれた後にやって来たサーウェと合流したが気難しい【錬金導師】が出来る最大限の警告を受けて、どっと疲れが押し寄せてきた。
多分だけど、さっきまで話していた奴も【錬金導師】だと思わせるための人工人間だろうな…自分だったら偽の体でやりそうだし魔力が無かったから魔法道具とかそういうので監視の目を擦り抜けてこっちまで来たと推測つければあんな挑発的な言動もなんとなく分かるか…
俺の手駒を出さないで市販の物で事を済ませて正解だったな…【模倣】を見られたけどそれ以外に比べたら全然だから気にしなくてもいいだろう。
「サーウェは財務大臣をこのまま家に帰して、点検兼ねて動いてもらってメドゥケートを呼んで」
「了解、大臣は口閉じてて」
担がれて連れてかれる財務大臣を笑顔で見送り、その場で数分待つと大柄で筋肉質な男が部屋の中に入ってくる。
「どうした、ボス。元気ないな」
「いやー明日の計画には何ら支障はないんだけどどうも気にかかることがあって力仕事だからちょっと手伝ってほしくて」
「いつも仕事で暇してるしボスの頼みを断る馬鹿は【黒蜥蜴】にいないだろ、どこに行くんだ?」
「ついさっきお前を待っている間に他の奴から連絡があったんだけど今から会談しにいくから護衛兼ねてついて来てくれない?」
「こんな真夜中に呼ぶ馬鹿は誰だ?」
「姿を消してた冒険者の総括さんがお偉いさんと一緒にお話だってよ」




