Re.Start
「「「「乾杯!!」」」」
商業国家のどこにでもある酒場で共に喜びを分かち合う何とも心地の良い時間が一つのテーブルを囲む四人に訪れていた。俺の目の前で特段喜びを露わにしている男は有頂天で片手に持つジョッキに入った酒を美味しそうに飲み干していた。
「やっぱターブルは凄いな!!俺たちの不得意を埋めてくれたお陰で今回の依頼も難なく成し遂げることができた!本当にありがとう!!」
「いやぁ、皆の連携があってこその討伐だったから自分はそこまでだから気にしなくていいよ」
そんな訳ないと笑って空にしておいたジョッキに勢いよくお酒を入れ込み再度乾杯を行い楽しい時間が物凄い速さで過ぎるが俺が楽しみにしているのはもう少ししたらやってくる。とても近い場所でその様子を見ていたいが巻き込まれたくないから注いでくれた酒を一気に飲み干して席を立つ。
「どうしたのターブル?貴方のお陰もあってうまく成功できたから純粋に楽しんでほしいかったんだけど…嫌だった?」
「そんなことないよフィーラ。僕もこのパーティーに入れて楽しかったけど少しお酒が回ってきて気持ち悪くなっちゃったから僕は先に宿屋で休むことにするよ。お金は多く払っておくから気にせず飲んでて」
「そうならいいけど…」
「ターブル、また明日、同じ場所で、待ってるから」
「あぁ、ケイティーも元気で」
その時に必要だろうと思う適当な言葉を残しお金を払って酒場を出るとき後ろを振り返るとパーティーの皆が手を振って別れを、また再び会えると信じているとても軽い別れをして先が見えない真っ暗な街道に歩みを始めその中でも特に真っ暗でほんの少しだけ照らす月の光が辛うじてこの先の道を教えてくれる。
そんな裏路地染みた道を歩いていると途中三人組で巡回中の警備員に軽い挨拶をするが背後に回った途端突き刺すような視線を感じ振り返ると既に剣を振りかざしていた警備員が目の前にいたが目が合いさえすれば動きは不思議な事に止まってしまう。
「これあれか…あと少しでもあの酒場にいたら近くじゃなくてその場で楽しくて仕方がないパーティーに参加できたのか…惜しいというのか、今日はせっかくの休日を楽しむって決めたことだし」
「体が動かねぇ!お前らもさっさとこいつを拘束しろ!」
剣を振りかざした状態で動きを止められた警備員…三人もいるから今止めているのを警備員Aと決めるか、いい案だ、それにしよう。警備員Aは動けない体を必死に動かしながら後ろに突っ立っているBとCに動くことを強く促しているが全く動く素振りを見せない二人に焦り始めたAは俺の方に視線を移す。
「お前ぇ!二人に何をした!」
「別に何も」
「何もしないで動かなくなる理由はないだろう!」
「あーはいはい、喚くな。もう少しで楽しい音が聞こえないんだから」
それでも喚き続ける警備員Aの口を一時的に物理的に縫い合わせ黙らせて少しの間静寂がその場を包んだが遠くで連続して聞こえるドカン、ドカンと爆発音が響き始めた。音に反応してここら一帯の住民が何があったと気になって集まり始めた位だろう。頭に響くさっきの爆発音を思い出し笑いしながら警備員Aの口を元通りにする。
「今のは…なんだ」
「爆発音だね、音の反響からして結構近いみたいだ」
「俺の目から見えるあの炎はなんだ」
「もしかしたら近くに鍛冶屋でもあって何らかの形で石炭に引火して燃えているのかもしれないね」
「この惨状を生み出したお前…大量殺人鬼の【神出鬼没】リーヒット・フラディ!!」
「とうとう二つ名もついてくるとは…有名人になったもんだ」
目に血走る警備員Aに自分の名前を大々的に紹介されたらそれに答えてあげないといけない。自分の手を振りかざして警備員Aの顔を見ながら顔すらも動くことができない中手を俺の顔に下して全身に掛けていた魔法を外す。
「ばぁ!びっくりした?」
「それがお前の本当の顔なのか?さっきまでの優しい青年からありきたりな童顔の顔…本当は成人にもなっていないのか?!」
「んー、そういう反応は求めていないんだけどままいいや。それにしても上手く誘導したもんだね。丁度良く冒険者の位が上がれたから一緒にお酒でも飲もうって誘われたから纏めて始末するのにどうしようか迷っていたけどそっちからいい機会を作ってくれた位だから使わせてもらっちゃった」
喋りすぎた、でもいいか。そんなことを考えながら警備員Aの反応を見ていたが後ろで眠ってもらっていたBとCが起き始めたのでストックから魔法を引き出そうとするとそれまでだんまりだった警備員Aの口が動き出す。
「お前…いやお前達はここまでの非道をして心は痛まないのか?何を望んで暗躍しているんだ?」
「お、いい質問!望んでいた質問が返って来たから偽りなく教えてあげよう…ズバリ【勇者】の真逆の存在に!それって何だと思う?」
「は?」
「んー時間切れ!正解は罪人とか悪党とかが一般的だろうけど俺は【愚者】がしっくりくるんだよね。分かる?善行を重ね崇め称えられる存在になった【勇者】と悪行を重ね蔑まれ罵られる存在が【愚者】…一種の人気者だから前みたいにとことん暴れ回りたいからやってるだけなんだよね」
警備員Aは俺の口から出る悪行を楽観する言葉に顔とか表情は一切変わらないけど呆れたのはよく分かる。でも、こんな真逆なことしてもついてくる馬鹿も道化もいるし否定されたら押し潰すとか色々と方法があるからこれも理想の【愚者】への準備、準備ってこと。
放っていたBとCがやっと状況を理解して刃を向けるが俺の手元にある一本の短剣が刃を粉々に壊して二人の脛を蹴って転ばした後楽しいお話をした警備員Aの拘束を解いてあげる。
「あれ?ほら、目の前に凶悪犯罪者【神出鬼没】のリーヒット・フラディさんがいるよ?捕まえる為に動かないと」
「【愚者】が…さっさと地獄に堕ちろ」
「I like that」
拘束を解いた警備員Aが剣を振りかざす動作を止めこちらに顔を向くこともなく何かするのかと心配になって聞いてみれば振り返って如何にもな言葉を聞けて嬉しさが、心からの高揚が上がりに上がり【亜空間】から伸ばしたお気に入りで原型すら残さず切り刻んだ。
壁も地面も、その返り血全てを全身に浴びたけどこんなにも気持ちがいいとはやっぱり合いの手みたいなのがあると着実に進んでいる感じがして何でも出来る万能感が支配する。このまま【気配探知】に引っかかる一帯の人間潰しても許される気がするが止めだ。
「その顔、嫌い」
「あら?優等生ターブル君のご尊顔はお好みではなかったか?」
「血浴びるときは、いつもの、顔がいい」
「気に入っているこの顔は自分も好きだからいいか、サーウェ。あっちはどうなってる?」
「ケルオは爆発に巻き込まれて跡形もない、でもフィーラは近くにいた魔導師がギリギリの所を守ったから、生きてる。皆指示を待ってる」
壁にへばりつく前に血を水魔法で洗い流しつつ平均的な体で短い銀髪、リーヒット・フラディの体に戻してゆっくりと深呼吸をして屋根上に飛び移って煙が上がっている爆発現場を見る。フィーラちゃんは色々と心が強いから今はズタズタかもしれないけどきっと俺が望むように動いてくれるだろうな。
「それじゃあプルウ班はその魔導師に警戒と追跡を、メドゥケート班は二日後の作戦に支障がないように念入りの準備を他は通常通りで」
「私は?」
「サーウェもいつも通り…って言いたいけどそろそろ届くと思う魔法道具の回収をしたら次の拠点に予め移っておいて作戦の準備に入って欲しいな」
「フラは?」
「内緒」
話す時だって丁寧に用意されている【静寂】とかがこれでもかと積み重なっている多機能魔法道具が今としてはこういう時にとても役立つ。爆発とは反対方向に足を進めながら少し顔を小細工して路地裏を降りて他の用事を済ませに行く。
◆
商業国家でも多くの大通りがあるがそこから枝分かれするように細道が存在するのだが通った道を考えなしでほっつき回ればふと気づいた時には迷路のようになっている。観光客は大通り位しか見ないのだが商人とかだと極々稀にこんな七面倒な所に入ってきたりするが静かなのは結構俺たち【黒蜥蜴】にとっては最高にやりたい放題な場所になる。
「静かにしろ、街の人…いやボスに大変迷惑だ。早急に黙れ」
「私を誰だか分かってやっているんだ…!」
「そりゃあ知っているさ、商業国家の人柱とも言われているブランリュー・ジェブリス財務大臣様ですからね」
「裏でこそこそとうろついている【黒蜥蜴】風情が…!」
部下が後ろで立膝の状態で羽交い絞めにしてくれるお陰で暴れられる心配もないし別に大きな声で叫んだとしてもここら一帯は仲間である【黒蜥蜴】しかいないからどうでもいい。身動きが取れない状態でこちらを睨む財務大臣様はいやー怖いねー
「まずはこんな状況になっていることをそろそろ自覚しろ、そしてこれから言う事にお前に拒否権があると思うな」
押し黙らせた、というよりも言葉に圧を乗せたから当然といえば当然か。目線が合うように屈み込んで自分の顔と至近距離に近づく。
「まず、断るような事をした時はまずお前の命をザクっと微塵切りにしたいが心地の良い場所を自ら壊すのはこちらとしても不利になるので人質になってもらっている命があるというのを理解してほしい」
「シャノ…ルうがァッ!!」
「お察しの通りだ、利口の財務大臣様なら分かると思うので俺ら【黒蜥蜴】が望むものを横領してもらいたい」
どうせ家族の顔が思い返して叫ばれるのは耳障りだから綺麗に整えられた髪の毛を掴んで思いっきり地面に叩きつける。こうやって人間は自身の状況をより確かに知ることができるらしいが本当に分かりやすくて助かる。部下に回復魔法を掛けるようにサインを送り再度髪を握り上げて【黒蜥蜴】が、俺自身が欲しい物を口にする
「【黒蜥蜴】が望むものは…?」
「あるというかそいつ自身がいるんだろ?この商業国家にあの石が、というよりそれを生み出した人間【錬金導師】ピュジュート・F・フラットバードが持つ賢者の石をだ」




