水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の十五
静かすぎる廊下を歩きづつけている我々は目の前で歩くアウェルの後ろを何も考えずについているのだが、歩き続けると今まで見ていた物とは違う扉を前にしてアウェルは立ち止まった。
「神殿に入るまでずっと考えていたことだったんだが結構色々考えたのだが一応ここが一番フィレグがいると思える場所なのだが…
「確証は無いのか…開ける前に聞いておくが部屋の中には何がある?」
自分の問いに見れば分かるとだけ言ってアウェルは扉を開けると真っ暗だが目が慣れると床に大量の玩具が散らばっていたり壁には大量の本が掛けられていたりしていた。本棚の中には魔法に関する絵本などがあり幼いながらも魔法に知識を入れようとしている所からも守護者としての自覚があったのだろうか…そこまで自分が突っ込むつもりはないが変な違和感があるのは確かだ。
横にいるウェールはどのような顔をしているのか分からないのだが同じようなものを感じているのかかなり警戒をしていた。
「安心してくれ、ここはただの子供の遊ぶ一室だから角から魔物が飛び出るなんてことはないからそこまで警戒するほどではない。さっきも言ったがここが一番フィレグと過ごした記憶があるからここだと思うのだが…一緒に探してくれないか?子供の頃はあまり気にしていなかったのだがかなり広くてな」
「手がかりが掴める可能性があるのなら何も言えないしこの場を一番知っているのはお前だけだからな、それくらいは俺たちも手伝う」
いいよな?と隣にいるウェールにも確認した後部屋の整理も兼ねて部屋の中を物色をしているとアウェルが言っていた間取りには無かった部屋が奥の方に見つけ扉を開けると一つの寝室が姿を現した、一応警戒の為にアウェルは遊び場にいて貰ってウェールに後ろを任せながら寝室と思われる部屋に入ると異様な程寒気がしてきた。
今まで海底都市に降りてきてから体温調整なんてものに頼ることはなかったがここにきて寒気がするのはおかしい…それに目に映るものは大抵あっては不思議ではない下級貴族が手に入れてもおかしくはない物ばかり、やはり警戒のしすぎだっただろうか
「至って何もないのが不気味だが…何か違和感は?」
「私に関しては何も…魔力が特段濃度が高いなんてこともないので気にし過ぎって事ですかね」
「そうか、俺の気にし過ぎだったかもしれないな」
誰だって見知らぬ場所で何かしらの差異を見つければ警戒するのも同然…頭の中でそう結論付けてウェールにはアウェルの元に動いてもらうことにしてそのまま自分は部屋の中に入っていく。真ん中には大きなベットが一つ、隣には机や片隅に自分と同じ大きさのクローゼットが置かれていてまずは収納できる所から探すためにクローゼットを開く。
「箱?」
両手で開けるタイプの物で開くと大きなクローゼットとは割に合わない大きさの小さな箱が置いてあった。遊び場でさえ収納スペースにはびっしりと物が敷き詰められていて昔利用していたアウェルでさえもここまでの量があるとは思っていなかったと言っていたのにこちらは何というか拍子抜けだった。
気にせずに箱の中を開けると一つの木の実が中には入っていた。コロコロと箱の中で動く木の実を見てこれもアウェルと遊んだ中で拾った物なんだろう、と軽く決め付けてそのまま何事も無かったように元ある場所に置いて次に机の方に向かおうとした。
ふと思ったことがあった、そもそもこの海底都市に植物は生えていただろうか。苔などは何度か見かけた気がするが木のような植物が形として記憶に残ってはいなかった、急に頭の中が整理されていき先程見た木の実は何であったのだろうか。机に向かおうとする足が止まりクローゼットの方を振り返ろうとした時、俺の体に小さいながらも穴を三つ風穴を空けた。
急な出来事で咄嗟の対応が取ることができなかったのだが穴を空けられた場所が腹に太腿、そして肩近く…あの一瞬でここまで攻撃されるとは思っていなく体から溢れ出る冷や汗を垂らしながら目の前で空中に浮かんでいる木の実を睨みつけた。
『アァ…ぁア?動かなければ脳天を撃ち抜けたのに勘だけは良いみたいだなァ…』
木の実の中からドロドロとした液体が永久的に木の実を取り囲んでいるこの状況すぐにも扉の向こうにいる二人に伝えたい所なのだが、動いたら確実に死ぬ予感がするのを未来視の魔眼を使わなくとも容易に想像できてしまう。
『でも……この匂いは俺たちと同類だ。ウン、そうだ。でも何でだ?』
「お前と同類だと…?何言っているんだ?」
『マァ…いいか。同類、同胞…合わせれば強くなるのは中身の本能が知っているから』
言葉が纏まっておらず取ってつけたかのような言葉を連続しているのだが同類という言葉に反応してしまった。木の実から出てきた液体が現れるまでのあの静けさの後にポツリと放った言葉を後に普通じゃ考えられないくらいの速度で飛ばしてきた液体を振り払おうとしたのだがそれよりも先に横から入った剣が液体を弾ききった。
「心配で気配を消して部屋に入ってみれば…如何にもそれらしいのに襲われているので確認して良かったなと」
『何で…何で、何で仲間を連れているんだ?孤独に生きて己の貪欲に従い続ける…それ自体が俺たちなのに……ふざけんなァ!邪魔をしてきたお前は殺してやるゥ!』
いつの間にか横にいたウェールが木の実に化けている液体の攻撃を防いでくれたのだが奴にはそれが気に食わないらしくさっきまで向けていた殺気をウェールに放てれていた。ウェールが瞬時に回復魔法で怪我をした部分を治すと何かを感じ取ったのか手に持っていた剣を右手から左手に持ち直した所で視界が一瞬ブレたのだ、ウェールが何に感じたのかは分からないが後ろにあった壁が今では少し離れたところに立っており遊び部屋の中にいたのだ。
「ルウェーさん、今すぐあそこで状況が理解できずに驚いたまま固まっているアウェルさんを連れて主の元に連れて行ってください。ここの次に安全というならあそこですし今の状況を伝えといてください」
「任せて大丈夫なんだよな?」
「それどうこうの話ではなく私は主に仕える一人の使用人です。自分から提案したグループ決めですし責任持ってこれくらい何とかします」
そのままウェールを信じ液体を任せてあたふたしているアウェルを連れて部屋の外に出たのだが目を疑う光景が広がっていた。先程まで静かだった廊下がボロボロになっており遠くの方では物が壊れるような音が聞こえるし後ろでは木の実に化ていた液体が暴れ始めている…今この状況下で動くにもアウェルに目的がある守護者フィレグがいつ動き出すか分からないからやはりウェールの言う通りジェバルと合流をすることにしよう
「どうした?急に止まって…」
「さっきもさっきだ…どうして急に想定もしていない物を視せるんだ…!」
ここに来てから一回も使えなかった未来視の眼が今になって使えたと素直に喜べたら良かったんだが…それすら許してくれないようだ。アウェルは俺の言う言葉が何なのか理解できずに混乱しているようだがそれを説明をしている余裕はない、すぐに手に巍巍【竜闘刃】を持ち深呼吸をする。
未来視の魔眼で視た、視せられた感じからしてあと数秒したら…
頭の中で整理しながらその時まで待つと壁を、神殿の建物を破壊せず物凄い衝撃だけが響きその後に異様な威圧感がこちらに降りかかるがこれくらい慣れている。気にするほどでもないしそれ以上の圧を受けて戦意喪失した事だってある、自分で言ってて情けないが上の人間を知っている以上これくらい動じずにパタリと動かなくなった未来視に再度次を視せるように魔力を流すが眼が拒否して駄目だった。
『我の友を感じ取り再びここに戻ればまたも面倒な技を使う奴に出会すとは…我が友よ!今からでもいい、こちらに来てくれるだけでいいのだ!こっちに来てくれないか!』
「行くな、アウェル自身も言っていたはずだ。守護者フィレグ本人の確信も無く動く程自分は馬鹿ではないとな…だが今ここで判断しろ、お前の知っている記憶の中の本物か何者かに動かされている贋作か。それで次の対応が変わる…!」
『……何故、来ないのだ?そこまで我を嫌っているのか?数十年の間姿を見せなかっただけで変わってしまうのか?』
今まで俺やアウェルが見たのは悪食の姿…だが目の前には小さな少女が立ってアウェルの方を向いて語りかけていた、語りかけられたアウェルの方をチラリと見れば目の前にいる少女を見て目を疑っていた様子だった。
「フィレグ…?やっぱりフィレグなのか?」
『我が友アウェル、そうだ。我だフィレグだ』
二人の会話を聞いてこの感じ駄目そうだな…完全に守護者に持ってかれている。多少の言葉のやり取りで本物か偽物かを判断できると思っていたがアウェルにとっても何十年も顔を合わせてないことを考えると判断が鈍るのも当然か、ここで俺が動いたとしても返り討ちになるだろうし動けない状況が続くが…
「フィレグ覚えているか?私が君の気分を害してしまう数日前…初めて『星海祭』を見に行く時にレルトから貰ったあの時を覚えているか?」
『…………覚えているとも』
「私はあの時、彼から守るための大事な物を貰った。それは君も同様だがその時君は彼から貰ったものを肌身離さず持つと言っていたが流石に持っているよな?」
アウェルが守護者への目線を逸らし腰に掛けている刀に視線を移した後睨みつけるようにしていた。アウェルの言う初めての試みであっただろう『星海祭』で何かしらの事が二人の間に起こったらしいがアウェルの言った“レルト”という人物…推測するに守護者だった者か俺たち同様の『お星様』の可能性はあるが守護者との戦闘もあるかもしれない直前、直後はそこまで悠長には出来ない…それにアウェルの愛用している刀と同等の物を持っているとしたら尚更動きに警戒をしなくてはならない。
『レルトから貰ったこの首飾りだろう?大切にすると約束したんだ、それくらい当然のことだ』
守護者の質問の返答に服からゆっくりと首飾りを取り出して外からの光を何度も反射して宝石の原石と同様とても美しく輝いていた。それを見たアウェルは再度手に持っている刀に目線を動かしゆっくりと深呼吸した。
「ありがとう…レルトさん。あの時言っていた言葉の意味がやっと理解する事ができたよ、私と彼女を繋げるためにあったんだな。そしてフィレグを偽る偽善者よ…今すぐその姿を止めろ…!」
『完璧な擬態だったはずだし記憶から探ったレルトなる者から渡されたあの特質なる魔法遺物さえもとうの昔に破壊させて表面だけを模った物を造った…それも記憶からも同様に見せるように感じ取れるように…しかしそれも気にする必要もないと言うことだ』
少女の姿だったフィレグの体はウネウネと人間族に近い体を持つ魚人族が成せるような関節の動きをした後悪食の姿へと変わったのだが現した悪食の姿は神殿に辿り着くまで見てきた青色のグラデーションが掛かった姿や黒色などの姿とは違い真っ赤な血・のような色だった。
「【血の権力者】…?!アウェル…そいつは!」
『死人には口は無いと聞く、まず初めにお前から消す』
アウェルに注意を掛けようとしたが未来視の魔眼が都合よく未来を視せたのを視るに最善の動きはこれじゃない、首に向けられた鋭くも細い牙を素早く振り払い極限まで近づいてきた【血の権力者】の懐に入り縦に通る筋に抗うように横に掻き切っていき様子を見てアウェルの元に移動する。
視える、戦える。今は二つの眼があるこの状態でこいつに遭遇したのはとんでもない誤算だったが遭遇した時に試したいこともたくさんある…が一人ではない。
「アウェル、見た目は悪食だが中身は私怨含みって奴だ。お前にも用はあるだろうがこいつは少々面倒な所が多いから気をつけろ」
「心配は要らない、私もこいつを倒さないと気が済まないんだ」
アウェルは静かながらも強く刀を握り締め奥の廊下でこちらの様子を窺いつつザックリと裂かれた傷を修復する【血の権力者】を見た後抜刀すると今まで見ていた以上の魔力が鼓舞して脈打っているように刀が蠢いていた。




