水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の十四
「ジェバル達の方からとんでもない音が聞こえたから早くも悪食が現れたと思ったのだが聞いてみれば伏兵として待ち伏せされていたなんて思ってもいなかったな」
休憩していた所に入ってきたアウェルがポツリと放った言葉はさっきまであった戦闘を少しだけ振り替えさせる要因になった。
あの不意打ちばかりを狙った悪質すぎる戦法を取られたせいで想定していたよりもかなり時間を取られて後続組であるアウェル達と意図せず合流する事になってしまった…まぁそれのお陰でもあってやっと終わった感じでもある。目の前で【透過】を使ったと思っていても逆に【透過】を使っていない可能性もあり迫ってくる悪食は今攻撃が当たるのか当たらないかの判断を何度も繰り返されたこともあって正確な判断ができないのが長期戦に発展した原因でもあった。というよりこれこそが悪食…パーラの守護者フィレグの根本的な戦い方だと思える判断材料にもなったのでガバって時間を捨てることになってしまったが利点にもなる形になったので文句は言えないのだ。
それにしてもあの戦闘で【透過】をするかしないかの判断だけで終わってしまったこともあって【透過】以外の戦い方があるが手段を出させることができなかったのが相手が優位に立たせるきっかけになってしまったと考えると少々心苦しい。初見殺しの宝庫だった筋肉馬鹿のシャールペントでさえもあれだけ技という技を連発して面倒だったのをフィレグが同様に繰り返すのは正直嫌で仕方ない。
「アウェル、守護者…フィレグの得意な魔法分野って何かあったか?」
「……?そこまで特化するほど魔法に関しては手をつけていない印象だったが元々身に付けている【透過】で遊んでいた印象が強かったな、それなりに仲が良かったのだが他の魔法は見せもしなかったな」
まぁ…守護者の立場として手の内を出すのは禁止されていたかもしれんがな、と聞いていたがアウェルにも見せていないとどんな手段を繰り出すのかさえも不透明には変わりない。一番仲が良いから少しくらい生活の中でヒントがあったら…なんて思っていたが簡単ではないんだな。
「ジェバル君?ルウェー君の方からレヴィレット神殿付近に到着したから各自ウェール君の所に集合するように戦闘体勢に入れるようにって伝言が来たよ」
「あ、ありがとうございますグリエさん。ちゃっかり前衛の方任せっちゃって申し訳ないです」
「ん?気にしてないから大丈夫だよ、それにマディーちゃんがとても張り切っているから逆に珍しいもの見れて嬉しいからってのもあるし『お星様』とか火付け人とか色々と責任背負っているのに逃げるなんてことしたくないからね。さ、お喋りはこれくらいにして私達も動こうか」
笑顔で返された後すぐに気を引き締めるように言うと先にレヴィレット神殿に向かって走っていった。休憩した体を動かしながらアウェルと一緒にグリエさんの後ろを追っかけ始めるが建物自体が綺麗に残っていたこともあって屋根を伝っていく手段が取れたのでそこまで時間を掛けずにウェールのところにたどり着くことができたのだが…
「神殿って聞いていたけどここまでの大きさだとは…」
「ジェバルよ、驚いたか?これがレヴィレット神殿だ」
正しく神聖さを表しているような建造物は保存状態が周りの建物とはとてもではないが非常に状態が良かった、それほどフィレグにとって大切にしているのだと分かるのだが規模が大きすぎることにも驚きが隠せなかった。
「これがレヴィレット神殿か…何というか神聖国家ダベリギオの聖堂を出来る限り大きくしたかのような建物だな」
「神聖国家ダベリギオかぁ…懐かしいっていうのとルウェー君の言いたい事は何となく分からなくもないね。それに建物全体に魔力が通っているけど無いは無いで駄目な奴なのかな?」
「……少し前までは魔力なんてものは存在しなかったのだが微かにフィレグの魔力も感じる、確実にここにいるだろうな」
ルウェーが言っていた神聖国家ダベリギオの聖堂…本物を見た事はないのだがそれ関連で動いていたこともあったの思い出したけどその横で懐かしんでいるグリエさんがダベリギオについてルウェーの後に続いて話していたけどグリエさんも行ったことがあるから客観的に言っているんだろうけどグリエさんが言う通り建物全体に微量な箇所もあるみたいだけどそもそも建物自体が魔力を有しているのは今まで見たことがないな…
それよりもその建物全体を覆い尽くしている魔力のせいで中の様子が見れないのがちょっと痛手だな、変に流れ続けている魔力のせいで正確な構造を把握できない。何度もウェールが神殿の方を見て顰める顔をする位だ、魔力の節約も考えるとそこまで偵察に力を入れるのは止めることにした。
「レヴィレット神殿は見ての通りかなりの大きさで纏まって探索すると『星海祭』なんて一瞬で過ぎてしまうからここは二手に分かれて探索しようかと思う…私に関しては何度かこの中に入ったことがあるから細かい所を重点的に探そうと思っているのだが…」
「私は…主の元で行動したい所ですがここはルウェー殿とアウェル殿と一緒に探索しようかと思っているのですが、よろしいですか?」
アウェルが手分けで神殿内を探索する事を提案した後すぐに反応したウェールはルウェーとの探索を希望した、さっきも何もなかったように自分の影の中に入って静かにしていたウェールが自分から何かを言うなんて想像もしなかった。自分だって顔には出してはいないがとても驚いているしジェバルという一個人にくっついていると言う印象だったであろうルウェーに関しては見たことない形相でウェールの方を見ていた。
「どうかなされましたか?」
「俺に関しては別にチーム分けでどちらに移ろうとも気にはしないのだが…お前みたいな奴がジェバルと一緒に行動しないのが中々に珍しくてな」
「主に生み出された身ですから近くで行動するのは当然のことですので仕方ないかと…賞金狩りとして活動していた貴方だったら周りにそういう魔法を得意とするものも少なからずいるとは思いますがね」
「確かにそうだな」
たった一言二言で終わってしまった他愛もない二人の会話は何事もなかったように戻るとアウェルの元で説明を求めていた。さて、二手で分かれるから時間がかかるかと思っていたけどここにいるのは自分、アウェル、マディーさん、グリエさんにウェールとルウェーの六人組ということもあり今の最低限しか交わしていない会話で二組が決まった分けなのだが…マディーさんとグリエさん二人は後ろで楽しそうに話していて自分が入れるような感じでなかった。
「それじゃあ二手に分かれるっていうお話は今の会話で大体決まったってことでいいんだよね、えーとアウェル君は神殿の地図とか持ってる?持ってなかったらこっちで何とかするんだけど」
「地図は一枚しかないが神殿の構造はとうの昔に頭の中に刷り込まれているから大丈夫だ、使ってくれ」
アウェルが投げた地図を綺麗にキャッチしたグリエさんが感謝の言葉を言った後すぐに地図と睨めっこして数秒すると地図を渡してきた、渡された地図を見ると間取りが一から丁寧に記されていたのだがビッシリと詰め込まれているのだ。頭が痛くなりそうな緻密な地図を見ているのだが同じような間取りばっかしで始めはどうかと思っていたがよくよく見てみたらシンプルでしかなかった。
見せていないマディーさんに渡そうと思ったら後ろから見ていたのだが気配を完璧に消して近づくのは心臓に悪いって。
「それじゃあ、神殿の中に入って守護者の発見をするっていうのが第一の目標ってことで頑張ろうか!」
「さっきは私もあの空気をどうにかしようと思って言って見た感じだったんだけど…本当にこれ本当に孤立している神殿なのかなぁ…規模がデカ過ぎて城としか見れないんだよねぇ」
グリエさんの言う通りもう城って呼んでもいい程デカい、デカいのだ。今歩いている廊下すら横に縦にも広くあの大通りよりも広いぐらいだし分かっていても驚きは隠せなかった。それに壁や装飾などは白をモチーフにした厳荘な雰囲気を醸し出したりしていてこの神殿を作らせた趣味なのだろうか…気になる所でもある。
「んーもう少しで図書庫なんだけど廊下にすら何も置かないなんて不思議だね、マディーちゃん」
「まぁ…逆にゴチャゴチャした場所だったり罠とか大量に仕掛けられていないだけまだマシだと考えたほうがいいんじゃない?そういうのに気を紛らわせなくていいんだから、グリエは嫌いでしょ?」
「うんうん、よく分かっているなーマディーちゃんは!私も色々な魔法に手を出しているけど中途半端にやったから高度なの出されちゃうと面倒でね、あの時は色々と必死だったから昔の私に文句は言えないんだけど…おっ、見えてきた見えてきた」
グリエさんとマディーさんの話を聞いている間にも辿り着いた図書庫の扉は重々しく軋む音を立てながらゆっくりと開かれる。
この規模のことだ、キードゥにもあった図書庫よりも明らかに大きい事は分かっている、何かしらヒントになるような物でも書かれていればいいのだが…




