水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の十
「それじゃあアウェルには僕が造ったこの刀をプレゼントします!はい、拍手!」
「カタナ…?」
「あ、こっちには刀なんていうイレギュラーな武器があるって事そもそも忘れてた。えーっと、どう説明したらいいのか…アウェルが携えているその両刃の武器を剣って言うんだけど刀はその両刃じゃなくて片刃っていう捉え方なんだけど伝わった?」
目の前に立つ男の格好は海底都市にいる魚人族とは違い小綺麗な服装で揃えられている、言葉の説明にあったように目の前に差し出された剣の形状に近い武器は持っている剣とは違い片刃…カタナと言うものはとんでもない魔力量を秘めていた。
あれだけ図書庫に入り浸り知識を蓄えたつもりだったのだがそれまで贈り物として手渡された時は満面の笑みで拍手をしていたのだが自分がカタナなる物を知らないことが分からない事が盲点だったと頭を手に当てているが少し考える仕草をすると口を動かし始めた。
「アウェル…お前は剣やら槍やら色んな武器を試して自身を鍛錬して偉いんだけどどれも荒削りなんだ。そこに変な武器を与えてしまうのはちょっとあれかも知れないが別に悪い意味で言っている訳じゃ無いからそこは気にするなよ!?」
「それは僕が一番分かってるけど…そんなにも重要な物を僕に?」
「そう自分の事を卑下するな…お前の悪い癖が出てるからそういうのは少しずつ直していけよ、俺との約束な?それで…この武器の事なんだがお前の大切な彼女のことを守る為にあると思ってくれ」
「私のことか?アウェルはいつも守ってくれるぞ?」
後ろから現れた華奢な体つきの少女が体を揺らされるが何も苦ではない、少しすると少女は揺らすのを止めたのを見てカタナを手に持つと体内にあった魔力が流れるようにカタナに入っていったのを感じた後カタナに入れ込んだ倍の魔力が戻ってきた。
「お、その感じはちゃんと武器の機能が働いたってことで大丈夫そうだね。よかったよかった自分の武器は簡単に調整が入れられるけど他人のになると難しいから不安だったけど違和感なさそうだね」
「見た時はおかしな感じだったけど手に持つと変わった…?」
「その刀の名前は……【千羽戯楽】。元は人の武器を強奪するどうしようもない楽歌の千鳥っていうちょっと特殊な魔物の羽根をベースにした物なんだけど効果としてはその時分かるからそれまで楽しみに取っておいてほしいのが製作者の本音かな」
「なんで教えてくれぬのだ、レルトよ!その位容易なことであろうに、ケチだぞ!父上に言いつけてやる!」
「謎は謎である程分かった時思い出してくれるからそれくらいは我慢して欲しいなぁ」
少女の反論にレルトと呼ばれる男は笑って誤魔化していた、それよりも自分は手に馴染み始めた【千羽戯楽】は体内の魔力をどんどんと吸収してはさっきの倍以上の魔力を平然と戻して何事もなかったように気配を戻したのに当然ながら驚きを隠せなかった。それを見ていたレルトは少女の相手をしながらこちらの方に顔を向けると笑顔で返した
「アウェル、もう一度言っておくがそれは彼女を守る為の武器だ。決して人を傷つけるものではないことを自覚して欲しいのと…はい、フィレグにはこの首飾りを」
「我にも用意してくれてたというのか!感謝するぞレルト!大切にする!」
【千羽戯楽】を眺めていたところでレルトはフィレグにもプレゼントとして何かを渡していた。近くに寄って見せて貰うと一際目立つ小さな蒼い宝石の中に何度も組み立てられる魔法式を確認できた、図書庫で見た事だが小さな物に魔法を埋め込む作業は果てしなく高技術が必要となると書いていた気がするがそれが目の前にあるってことは…首飾りに向けていた目をレルトの方に向けると自分に【千羽戯楽】を渡してきた時のように笑っていた。
「それよりもこんなことをしている暇は無いぞアウェル!我と一緒にレルトの試練を見ると約束してくれたじゃないか、忘れたとは言わせんぞ?」
「それじゃあ一緒に行こうか、いつも弱い弱いって言われてるけどとんでもなく強いってこと教えてあげるから『お星様』って言う大層な呼び名を付けてくれている身だしね、張り切って頑張っちゃうぞー?」
「待って…!」
レルトは勢いよく腕を振り回しながらフィレグと一緒に先に足を動かしてパーラに建てられた仮設闘技場に向かっていった。何故か僕は手を伸ばして二人をパーラに行かないようにしようとしたが気づいた時には前を走る二人の姿なんてなく薄暗い天井に向かってただ手を伸ばしていた。
「………夢か」
体に重だるくのしかかる疲労は先程の試練だろうがあの後気を失ってしまったのだがここは…ジェバル殿と一緒にイリューフを訪ねに来た酒場だがいつも酒を飲みに集まるものだが『星海祭』で店を閉めてると言うことだろうがここはキードゥだった筈だ、塔での試練を受けたのはグクェフだから身動きが取れない状態でここまで移動したとなると転移魔法かないとは思うが担いできた二択だろうな
店の外に出ると塔に急いで走る魚人族が沢山走っていた、ここで生活してきて何十年も経つが見たことも無い異様な光景は恐怖すら感じさせその場で立ち竦んでいるとイリューフの部下らしき人物が目の前に寄って息を切らしてきた。
「アウェルさん大変です!またあの悲劇が起こるかもしれません!早く…動かないと!」
「まずは落ち着け、今はそれよりもこの流れるように走っている皆は何が原因でこんなことを?『星海祭』にこんな遊びが含まれていたなんて知らないぞ」
「今から数十分前にキードゥの試練を終えた『お星様』、火付け人の姿を確認した数分後に“悪食”が数匹街中に飛び込んだのですがすぐに駆けつけた『お星様』が被害無しで対処してそのままフィレグの方向に向ったきりでして…」
「……!成る程、そちら側の大体の予想はつける事ができた、感謝する。私も一緒にここに来た仲間と合流した後にジェバル殿に向かう」
「あ!待ってくださいアウェルさん!ウチのボスからの伝言があるんですが『ドデカいの彼女に見せてやれ、できるだろ?』と一言…伝わりましたでしょうか」
「あぁ…伝わった。イリューフの姿が見れないと言うことは彼も彼なりにやることがあると解釈させてもらうと伝えといてくれ」
イリューフの部下から聞いた言葉はこれからの『星海祭』を盛り上げるのに十分だと確信できた。返しの伝言を部下に伝えると分かりました!と大きな声が響いた後流れる人混みとは反対方向に進んでいった。まずはグリエ殿と再会をしなくてはな…地面を踏み締め屋根の上に飛び乗りながら動かす体は自然と海底都市パーラへと向かっていた。
「待っていろフィレグ、今度こそ助けるからな」
ポツリと呟いた言葉は大道路から聞こえる多種多様な大声によって一瞬で掻き消されていた。
飛び込んでくる悪食は何度も戦っていれば狙ってくる場所も見当が付く、筋肉馬鹿までの魔力量とは行かないが守護者としてはとんでもない魔力量が一匹一匹詰め込まれているなんて普通じゃ考えられないだろうが相手は考えなくても守護者だろうな。なんせ一面の砂利の地平線に無尽蔵に並べられている夥しい量の“悪食”の死骸の数々体力は残しておきたいのだが後ろにいるマディーさんとウェールがなんとかカバーしてくれるからいいけどこれが何時間も続くとなると頭がおかしくなりそうだ。
「組むのに時間が掛かっちゃった【氷結世界】…!」
マディーさんが放った魔法は自分のと比べ物にならないくらい広範囲の冷気が悪食を襲いかかり一息つくまでに見渡す至る所に空中で凍った悪食が浮いていた、彫刻のように動かないのを見てどっかりと地面に居座った。
「ごめん、広範囲になると私の【新雪の華】も制御なしだと制限なく凍らせちゃうからそれまでの引き付け助かった!」
「大丈夫ですよ、マディーさん。襲って来ていた悪食が凍って身動きが取れてないなんて言う曲芸自分には真似できませんので本当に助かりました」
マディーさんの特化した氷魔法のおかげで今の安全があると言っても良い位だ、なんせ魔力感知に反応しているのが今視界に入っている悪食だけだと分かった今束の間の休息に縋るのも正解だろうと思っている。
マディーさんは【新雪の華】から垂れ流れている魔力を全て冷気に変換させるとカチコチに凍っている悪食に剣先を向け追い討ちをかけるように冷気を浴びさせた。すると、空中で固まっていた悪食達はボロボロと崩れていき塵となって姿を消していった、どうしてこうなった理屈は推測でしか分からないが極限まで凍らせたから全身の水分が抜けた上にもう一度冷凍したらボロボロにはなるだろうな…
それほどの冷気を操れる時点で魔力操作が桁違いに上がっている事だって分かっているしなんというか氷魔法自体が難解な部分があるって言うのに精密に組まれてて愕然としている。さっきの【氷結世界】は自分がやったとしてもマディーさんのには遠く及ばないだろう…これも得意魔法とかに関わってくるのだろうか
「主、遠くの方で廃墟と化してはいますが建築物を見つけました。ここで休息を取るよりも安全を確保しましょう」
「そう…だな、ここを誰が悪食がいつ襲うなんていうことは言ってなんかいないし決まりは無いからウェールの言う通りに動くとするか…」
胡座の姿勢から立ち上がりウェールの言う建物に向かって動き始める中目線を何も変わらない地平線が映るのだが、元々は海底都市パーラだった事を考えると一体何があっただろうか…悪食が建物を壊し回ったという可能性も捨てきれないが他にも原因はありそうだな、例えば海底都市に一切存在しない魔物が悪さした可能性も捨て切れない。
こういうのは専門職のオルフィットかアウェルに聞くのが一番そうだから合流したら聞いてみるのもありだな、頭の中で考えつつも足だけは動かし先頭を走っていったウェールの後ろ姿を追いかけるようにマディーさんと走った。




