水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の三
時は遡り俺等が技巧の国と呼ばれるドワルポンドで宝玉を回収するために準備をしていた所まで戻る。ジークギールとガドマが工具の点検を終えて休憩をしていたところだったのだが無理矢理呼び寄せて椅子に座らせた。
「ガドマとジークギールにお願いがあるんだけどこいつで何か作れたりしないか?時間がないのは分かっているんだけどここに戻って来る時までこいつのことを忘れてたら普通にもったないから」
「こ……これは!」
目の前においたのは金銀群蟷螂の金色の右鎌の一部、右鎌だけでも自分の身長と同じくらいの大きさである、本当にデカすぎる奴と戦っていたと実感できると感慨深くなっているとジークギールは唖然と金銀群蟷螂の右鎌を手にしているのに対して平然と眺めるガドマとの差が激しい。
「自国に戻ってから兄ちゃんに頼まれるとは思ってはいたがやっぱり目の前に立つと化け物だな」
「とか言いつつ結構戦いには参加していた気がするけど違ったか?」
「それは…兄ちゃんが倒してくれると思ったら援護よろしく頼む!とか言って正面から切り込んでいくから手ぶら見えるカモに群がるようにしてやってきたことを分かってから言ってほしいな」
遠い目をして語ってくれたガドマの愚痴を軽く流して右鎌を舐め回すようにして見るジークギールからそれを取り上げて机の上に置いておく。
「ジェバルが来るまでに色々とガドマの奴に金銀群蟷螂の一欠片を見せられただけでも失神したっていうのにここまで形を残してここに持ってきたとはなぁ…上位の賞金狩りでも下手したらそれ以前の菫鉑蟷螂でも苦戦というか一方的な蹂躙劇が起きるのにな」
「それでもここにきてこんな感じで生きて倒した奴を目の前にあるんだから頑張ったんだよ、あと補足するけど右鎌だけじゃないから全身あるから」
「頑張ったって……え、全身あるのか?そうなるとこれ以上聞いても返事は変わらないだろうから呑むしかないな、ガドマの親父さんにはこのことは話しているのか?」
「親父の耳はいいからなここまで届くほどの地獄耳は持っていなくても近いあの洞窟の音くらいは聞いているんじゃないか?他のどっかに行っていなけりゃだけどな」
感覚が狂ったように大きな話を進めていくけどここまで平然としているからそこの所は大丈夫になったんだな、よかったよかった。
親父…王様のことだろうけど洞窟の中まで音が拾えるとなるとどれだけ聴力が強いんだか、いや強い依然じゃない気がするが第一国を収めてあれこれしている人物だからそれくらい出来てしまいそうだし依然として国に住まわせてもらっている人間だがそこまで知らないから謎が深まるばかりである。
「んで、ジェバルはこの名工匠の俺に何を頼むんだ?」
「そうだな、色々とガドマから槍やら剣やら頼んでもらっていたけど…一転して甲冑、こっちだと籠手みたいな奴が欲しい。蟷螂みたく押し潰せるような単純な物量に強みを活かしたい」
「なるほどなぁ…兄ちゃんは武術とかやっているのか?いや、剣術が出来てそっちが出来ないなんていうことはないか」
了解了解と連呼しながら机の上に置いてある右鎌を品定めするように見えたので広いスペースがあるか聞いて連れて行ってもらって大量の金銀群蟷螂の死骸を積み重ねていくとジークギールは泡を吹いて気絶していた。ガドマは慌てて近寄っていった、前持って全身ある金銀群蟷螂があるって伝えておいたのに不思議なもんだ。
俺たちが火山でわちゃわちゃとした戦闘を行なっている中でも鍛冶場に戻って武器を制作してくれていたし途中からの参加だったがガドマも手伝っていた。最終的に急足で技巧の国を出る際に手渡しでこいつを渡してもらった。説明についてはちゃんと聞いていたし使い方は把握している。あとはうまく戦闘中に感覚を染み込ませていけばオールオッケーという算段だ。
そして二人の鍛治師によって生み出された武器の名は「琥珀の力拳」、自分の注文通り金と銀に輝く生物は籠手として姿を変えたのだ。
「最大火力を強制的に引き出す為に戦闘が長く続いて十分以上…そして使用者の魔力がそこら中に撒き散らされたりと色々と面倒な条件下でしかやるしかない、短期戦で数秒でも縮めたいと考えていても十分は長すぎた……」
まずは〔秘華の炎導〕に流れる魔力を強制的に止めていたが今全てを元通りにして琥珀の力拳に内蔵されてある魔力回路に直接入れ込む。そして前に右手を突き出すようにして構えて無限に生み出されるあいつらの殻を守護者に向かって撃ち出す。
殻というよりも魔石に近い塊は守護者の体に当たるよりも先に鰭と接触する。粉々に砕けた魔石は鰭に付着して数秒経つと肥大化し鰭を一瞬にしてあらぬ方向へと曲げて見せた。
「残弾…というより『金鉑』は撃ち出すとすぐに補充されるってジークギールから話半分で聞いたけど本当みたいだな、そして左の魔力回路を通して右に備わっている『金鉑』の核に魔力を供給すればいい感じだな」
「何故、それを前の戦いで見せなかった!あれもなかなかに強大な力を持っていたのにそれに匹敵するものを出すとは本当に面白い『お星様』だ!」
「そりゃどうもっ!」
すぐに立ち上がってみせた守護者は鰭をどかして正面からの殴り合いを所望のようだ、ならばこちらも受けてみせるまでだ。琥珀の力拳の左手と守護者の右手が思いっきり衝突するのに合わせて鰭が後ろからの攻撃を行なってくる。ならばこちらも同じことをすればいいと言う事、右手を後ろに向けて『金鉑』を数発撃ちすぐに肥大化させて鰭をこちら側に来させないようにする。
「そいつは俺の攻撃を邪魔させるようにして動かせようとしているみたいだが…それでも俺にたいする攻撃が弱すぎると意味がないってことを教えてやるよ!!」
後ろの鰭攻撃をなんとかして防ぐことに成功して一息ついて守護者の言葉と同じタイミングで前を向けば迫りに迫った拳が目と鼻の先にあるわけだ。左手は守護者の右拳とぶつけたままで動けない、考えずとも自然と出てきていた【水盾】が守護者の攻撃を一撃だけ防ぐことができた。
「反応速度エグいな…だがそれでいい!」
自分でも無意識的に出てきた【水盾】に驚きが隠せないが守れなかった攻撃は防ぐことができた。それを把握できたことは今の状況ではとてもいい、体を捻りながら左右から斬りつけるように牙を剥く鰭の攻撃を弾いて足に力を入れてブーメランのように戻って足に攻撃をして来るのをジャンプして避ける。
大きな攻撃の際に発生する予備動作でなんとなく守護者が溜めのある攻撃をしてくるんだなと頭の中で確認して繰り出してくる攻撃に注意を向けながら腹、もしくは肩に狙いを定めて『金鉑』を撃ち込む。
「ぬがぁぁぁおおお!?」
「こんなに近くても避けるのかよ!」
「ァァァ【琉燈狙】ゥゥゥゥ!!」
ものすごい体型になりながらも『金鉑』を避け切った守護者は鰭の援助を受けながら垂れ下がっていた尾が急にこちらに敵意を持って頭を狙って刺突しようとしていたが反応できたおかげで琥珀の力拳でどっかに吹っ飛んでいった、何がしたいのか分からないが今ので追撃するタイミングを失ってしまったのは痛いな…それに多少離れていたとしても今の『金鉑』を避け切ったのは疑惑の判定だ。
互いに極限な体勢になりながらも攻撃を続けていき、体から発せられる限界という悲鳴が聞こえ出した自分の方から攻撃を退け飛ばした後、すぐに後ろに下がった。
「この塔では大抵が二人組で挑んでいると思うのだが運のなさと諸々でお前とのサシになっているんだ、他人任せじゃなくてちゃんと目の前にいる俺と戦おうぜ?」
「そりゃ違うぜ『お星様』、それ含めての戦いだ!!そんなちっぽけなことでつべこべ言わずにするのが正解だ!」
「なら上等!」
隠すように、そして悟られないように後ろから上がってくる左手のアッパーを前に持ってきた右手で叩き落として勢いをつけてすぐに顎を蹴りに動き狙い通りの場所に蹴りを入れることができた。一連の動作が決まり体勢を崩していく守護者、この時すぐに追撃を行い後ろに下がるかの二択…選ぶのは当然
「追撃ィィ!!」
「ぬおおおおお!!!」
ドゴンと大きな音で表現できるのであろうか全身を覆う鱗と金色に輝く拳の衝突は優しい音じゃなかったのは分かる。しかし、とてもいいのが入った。もう一度追撃チャンスを狙おうとしたがつまらない横槍が飛んできたが思いっ切り殴り付けて吹き飛ばして近くにいる守護者のいる場所に叩きつけたがいつの間にか消えていた。
全然痛みが無いのは痺れているから?こんなにも畳み掛けられるのは偶然?全て違う、ただ琥珀の力拳のお陰なのだが…それよりも守護者はどこいった?
「ガハハ!!人が変わったような動き…魔剣頼りかと思わせておいて拳に移り変えたと思えば圧倒的な魔法と武力両方を備えている珍しい武器だな、どれもこれも攻撃が体に当たれば痛いに決まる、吹っ飛べぇ!」
後ろに回られていたことに気づかずに声に反応して確認しようとしたが既に動いていた拳が腹に直撃して拳から伝わる振動が体にどんどんと響いていく。想像したくないが結構体を動かすと痛みが走るほど威力のある攻撃を入れ込まれたわけだ。
耐えるのは簡単、歯を噛み締めるが口に溢れ出す血を吐き出す。考えれば今まで避けては守っての行動しかしていなかったから相手の攻撃を喰らえばこんな感じになるってことか……だが
「『お星様』よ、“楽しい”だろう!?この神経を擦り減らしながら剣や拳を叩き付け合い残るのは昇華した己…それも戦いの一興…だろう!?【流転:覇】」
今まで戦闘狂で馬鹿にしていた奴の言葉が納得してしまったがその通りだ。簡単な攻撃は防御を取られるか受け流されるかのどっちかで受けても平気でいられる攻撃以外は耐えている。
繰り出す刃を自身の操る鰭で弾きながらも視線をこちらに向けて平然と会話を続けて次の攻撃、さらに次の攻撃を合間縫うようにして一瞬一瞬を俺から戦いを取り上げてこの舞台から下ろすつもりはないと。であるならば、「短期戦で決着を着ける」なんていう自己中心的なことだけで戦いをしていた自分が馬鹿馬鹿しい、ただこんなにも俺との戦いが異様に楽しんでいるのにこんなことされたらつまらないに決まっている。
至近距離で放たれる破裂するような攻撃に対して『金鉑』を放ち打ち消すまでは行かずとも体で耐えられるほどにまで弱められることができたから防御成功?それまでの攻撃の密度を思い出せ、次は目の前にいるからというブラフを利用してでの後ろからの…
「鰭だあぁァァァ!!!」
「………!」
思いっ切り吹き飛ばして攻撃を弾くことに成功した。感覚、というよりも自分の考えたもしもの可能性を信じて行動した結果だった。これで守護者を「これから殴り続ける」状況に持って来ることができた、琥珀の力拳の持つ能力の一端なのだが…そのために自身の自傷と一定の攻撃が条件となる。その前にも色々と攻撃を喰らったり食らわせたりと部分的にだが今の行動で達成できたと実感できた。
自身の故意で起こした傷と何度も叩き弾き返した攻撃の数々…そこから作り出した逆境、それは本当に逆境なのだろうかと疑問に思ってしまったのだがそれもそれだ。琥珀の力拳は金銀群蟷螂を元にして使用されたゴルバント鉑鋼岩という体内から取り出された金銀群蟷螂の動力源を担っている器官が肝になっていた、ここの器官は言うならば攻撃の蓄積ができると言うものだった。
身内でさえもぶつかって損傷でもあれば喧嘩にでも発展してしまうアイツらには相手の攻撃を喰らい続けて何もできなくなった最後の手段として蓄積していた攻撃を全て自身の攻撃に変換するというとんでもないものを持っている、実際あの洞窟での戦いの中でこれをされなくてよかったと思う。
頭がふらふらで立つのもやっとだがここは離れたところに仲間がいると言うわけでもなく一人だけ、ここで意識を飛ばせば楽になるが身動きが取れないうちに死ぬ可能性もなくはない。だったら、必死に食らいつこうじゃないか。
「よく体は大切にしなさいって言われてるけどこいつを使っている時では話が変わってきちゃう奴だからな…【震え上がる闘志】」
「ここに来て大量の魔力放出…人間なら死んでもおかしくないほどの量なのに何故それを持ち合わせているのか、不気味だな『お星様』」
不気味だの、なんだの好き勝手言われてもそれまでに戦った相手なんて死と霊の王だったり得体の知れないほどのデカさの竜だったりよく分からない胎児がデロデロになりながらも必死に攻撃をしてきたりそれを何が何でも守ろうとする影とか守護者が思っている以上に色々と不気味な奴と戦ってきた。その不気味な枠に平然と入れようとしている守護者のお前も同じだってことをぶつけてやりたい所だが生憎そんな余裕なんてない。不思議と体が重苦しく感じると思っていたがまだ動ける…琥珀の力拳に蓄えておいた魔力は両手間を通って何度も何度も繰り返し動き続けている。
ゆっくりと深呼吸をして前に一歩前進をした時に四方八方から鰭が襲いかかっていた、周りが見えていないとここまで感覚が鈍ると悟りつつも諦めずに全身を覆うように【水嵐】を創り出して瞬時に攻撃を相殺する。
二歩目、歩くだけでもギリギリと削れるような痛みを感じながらも一歩目よりか力強く踏み締めて守護者の方に近づく。守護者はすぐに攻撃の構えをとって憶測だが【亡】か【覇】辺りでも撃つのだろうか。
「【流転:転】」
…待ってくれ、それは知らない奴だ!守護者から放たれる攻撃はジェバル・ユーストには全く影響は無かったから防御していたのが馬鹿らしく思えてしまうものだった。しかし、足を止めて防御を解き前方の確認をしようと動いた選択は間違っていた、急に襲い掛かる衝動は体を揺さぶり意識も揺さぶりかけてきた。
「本当にこれまで戦っている奴皆とんでもない能力持っているけどお前もなんだなぁ」
まだ、俺は戦えるんだぜ?とでも言っていそうな風格は誰がなんと言っても変わることがないだろう。この場での海の王だと言ってるかのように読み取れもする。
視界一杯に映るその姿は王者として君臨した“鮫”は牙を剥き出した。
守護者A「拳で語り合おうぜ!」
守護者B「安寧こそが至福…」
守護者C「騒がしい」
守護者D「すごいや、星と雪が見える」
守護者E「なんか守りが薄い?」




