水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の二
守護者様は自分の足場がなくなったとしてもなんとも思わないのだろうか…そのどうとでもなれの精神のせいでどんどん自分の足場がなくなっていく。たった五分、五分しか立っていないのにこんなにも状況が一変するなんて聞いたことがない。牙みたいなのが足場を削るのなら地魔法で埋め立ているのだが相手の動きを制限するには十分すぎることなのだが自分が引っ掛かったところで意味がない。
鰭の勢いが弱まることがなく守護者を中心に嵐のように回る姿には何というか相手ながらカッコよく見えた、だけど瞬時に飛び込んでは粉砕骨折するような打撃を平然と打ち続けるのは化け物として変わりはないだろう。
必死に動き回るが近寄ってきた際にはカウンターも含めて相手に一定数の攻撃を与えているつもりだが鋼鉄のような体が一切刃を通らせようともしなかったが変光星の熱のお陰で相手は攻撃自体を受けるのには抵抗があるようだがそんなのあっても無くても変わらない。
「その魔剣…変光星だっけか?やっぱり結構痛いな、刃で熱し斬られるからそれが原因になっていると考えられるしかし慣れがあれば気にしなくなるんだろ?」
「自分のは精神的、お前のは身体的って分からないのか……よっ!」
会話をしながらも集中を研ぎ澄ませて決定打に近づくような一手に繋げられるように攻撃を続けているのだが鰭によって防御されれてしまったが重点をうまくずらして払い除けた後目の前に突きつけられる拳に対して【起爆】を使って遠心力を利用した回転をして横振りで叩きつける。
一連の動きでも手に痺れが伝わる、こんなのが飛び交う中で棒立ちでもして止まったら体に幾つか風穴を空けられて死ぬのは明確だ、すぐに機転を効かせて動かざるを得ない。
「【水嵐】……【氷結世界】」
自分と守護者の間に現れた嵐は鰭によって掻き消されて鰭の追撃に体勢を崩されてしまうのだが前方に制限なく魔力を注ぎ込まれた魔法は壁のように割り込み立ち上がるまでの時間を稼ぐことに成功する。直後、大きな音を立てて【氷結魔法】を崩して鰭を飛ばしてくるのを目視したのと同時に手に持つ変光星をもう一度炎を灯す。
「ずっと動き回っているんだ、休憩させてくれると嬉しいのだが」
言葉とは裏腹に殺意を滲ませて飛んでくる鰭に溜息を吐きつつ反復横跳びの要領で横に避けつつ次に来る鰭を叩き付けるように刃を押し当ておまけ感覚でついてくる巨体に向かって素早く突きをする。
「狙うは片腕!」
ムキムキすぎてボディービルダーでも目指せてしまえるような筋肉質な腕を熱し切った刃を使って八つ裂きに切り刻むが、何度も弾かれる。どんだけ筋肉が詰め込まれてんだよ、と心の中で叫びつつ腕に刃を当てて続けていたのだが反撃として腹に巨根にも見えた足蹴りを喰らって吹き飛ばされる。
こんな突きでの攻撃には黝危槍が一番の役なのだが…あいにく影と成虫との戦闘で無理に使い潰したこともあって耐えらずに大破という形になってガドマに修繕してもらっている為【宝物庫】にすらないのでしょうがない。
「欲が無さすぎだ、ジェバル・ユーストォォ!!片腕じゃなくて両腕…首、頭…奪えるのなら全身だ【流転:覇】!!」
痛みのせいや蹴り飛ばされている最中に攻撃は色んな魔物にされたが狙い方が鋭すぎる、変光星を床に突き刺して【起爆】を行なって横に移動して波動攻撃を避け切る。
硬すぎる筋肉に負けるような火力しか変光星は持っている訳ではない、普通に攻撃しても鰭に邪魔されて勢いが減衰しているからどうにかして鰭を吹き飛ばしたいだよな…後ろに下がりつつ思考を張り巡らせていた。だが、こんなところで頭を使っているとこういう時に限って変な技を放ってくると相場が決まっている。
「まずは、その危なっかしい炎から消さねぇとな【流転:亡】!」
ほら、言わんこっちゃない。目に見えずとも迫ってくるのが肌を通して感じることができるこの技に対抗するには避けるか変光星の【起爆】の熱で払い除けるかの二通りしかなかったのだが、今回は一歩前に前身して手に持っている変光星……は後ろに持っていき一瞬だけ床に刺しておく、【宝物庫】に空いた手を突っ込んで一つの魔法道具を取り出す。
「静寂の音を!」
自分の声と同時に放たれるチーンと鳴り響く小さな鈴の音が広い部屋を振動させた。そして、音は目の前に向かって放たれ近づいてきた波動と後ろに刺しておいた変光星の炎を最も簡単に掻き消したのである。すぐに魔法道具を【宝物庫】に戻し、後ろに刺しておいた変光星を手の元に戻して【起爆】を行う、技を出して当たったと確信したであろう守護者に剣を振りかざす。
反応できなかった守護者は防御する為の鰭を事前に用意することができなかったことを後悔するんだな、勢い付いた剣は皮膚…というか鱗の頑丈さを破り胸に大きめの傷をつけることができた。
さっき波動を消すことができたのは縮微の水琴鈴のお陰だ。
その魔法道具は戦う前に何か危険なことがあった時の保険としてアウェルがプレゼントしてくれた物である。初めに渡された時は受け取るのを遠慮していたのだが後に伝えられた事に「頭がおかしい」と言ってしまうほどの効果を持つ異例すぎる魔法道具だった。
「初めにおかしいのがこいつが〔秘華の炎導〕と同様に制限なく使えるなんて所が最高にイカれているなぁ…これが」
魔法道具「縮微の水琴鈴」。
掌で転がる小さな鈴、アウェルはこの海底都市に埋まっている白銀のような宝石を鍛治士に近い存在の魚人にお願いして何個か造ったのだのだそう。
この「最高にイカれた魔法道具」の本質は対象から出る魔法と魔力の縮小と微細を同時に引き起こすというもの、だから物体から生じた波動などの動きは弱められるか止めることができるのだ。
魔法道具は元を正せば限りある魔法を付与しただけの道具なのだ、だから基本的に永続して力を及ぼすことは殆ど無い。あるとすれば無尽蔵に残り影響を与え続ける呪いに関する物などが付与されているのなら有り得る、近いものだったらガドマが拾い物から造った黝危槍とかが持つ怨念だろう。
だが、魔力が動力であるこの魔法道具は驚くことにその制限がない。
大抵の魔法剣士やそれを生業として生きている魔法職業の方々に対しては気にすることもなく生殺与奪の権利を手中に収めることができてしまうので使い勝手によってはとんでもない事が起きてしまうのである、そんなような代物をアウェルは保険という名の贈り物として渡された。
しかし、強さ故の弱点というものは少なからずある。こいつの欠点として“鳴った範囲全ての魔力を清らかな鈴の音で打ち消す”というものであったり……一時的な使い方としては有効的だが魔法を軸として動いている戦闘スタイルに長時間魔法を使わない時間を設けるとなると少ししか知識のない肉弾戦に持ち込むしかないのである。
本当だったらもう少し相手がほぼ八割を魔力に力を入れたところで使えたら本領を発揮できたと思うが気にしている暇はなかったと弁論しておくことにする。先走ってタイミングをミスったことに焦ったが結果相手に致命傷とはいかないがやっとのことで擦り傷からデカめの斬り傷にグレードアップしたんだ、この喜ばしい進捗に文句は言わせない。
すぐに防御兼攻撃の鰭が距離を離そうと試みるがまだ、極僅かでも小さくても鳴り響いている鈴の音色は鰭の動きを鈍らせることに成功させている、それが目の前で起きているのなら自分に出来る事の最優先はひたすら攻撃に動くこと。
風魔法を使って故意的に起こした追い風を利用してすぐに詰め寄り連続して切り掛かるが、すぐに体勢を維持した守護者が変光星を持つ自分ごと弾き飛ばしたせいで追撃のチャンスを逃してしまった。
「痛ぇぇ……だがさっき起こった捻じ曲げられた理不尽感が面白い。魔法道具としての効力はその域を超えているのは確かだな」
「いい線捉えているじゃないか守護者、だけどまだ時間が足りない。それまで長らく踊っていようじゃないか!」
「その言葉忘れるなよ?俺として戦いは本望【流転:朔】!」
横に薙ぎ払われた鰭と拳のコンボを避けるために体を後ろに倒れて攻撃を避け切ることができたのだが間合いの取りずらい鰭が喉元を素早く通り皮を擦りそこからうっすらと血が垂れる。普通に危なかった…当たるギリギリの所で体が無反応に動いたお陰で助かったのだがさっきよりも速度と強度が増しているのか?どんなことをすれば曲芸ができるんだよ、と心の中に留めておきながらもう一度切り込みに向かう。
「……!動きが機敏になって攻撃も所々鋭い、綺麗な形になっているじゃないか【流転:牙】!!」
ふと忘れた頃に足元から掬ってくる牙攻撃を後ろに下がって避けて消えた床を土魔法で戻して【舞い踊る火粉】を使用して〔秘華の炎導〕に大量の魔力を注ぎ込んでいきごく僅かだが身体の再生にリソースを割く。
体のことを心配するのも今は正解だとしてもさっきまで反応して動けていた攻撃がどんどんと素早くなっていき避けるのもやっとかみたいな所である。それにしても波動系の攻撃は全くと言っていいほど撃たなくなったな…やっぱりさっきのことで警戒しているんだろうな、四肢に飛んできた鰭を次々と切り裂いていき直接攻撃を当てようと近づこうと試みるも他の鰭に邪魔をされる。
(本当に邪魔だな…言葉で表せば動く壁さっきまで魔法で吹き飛ばすことができていたのに今じゃ微動だせずに鎮座するし掻い潜ろうとすれば急に動く始末…いっそのこと消し去りたいのだが難しい)
「考え事か?そんなことしている暇は無いだろう、ジェバル・ユースト!」
考え事しているのがバレバレだ、もっと慎重に、確実に叩いていかないと…一時的に足に魔力を回して雨霰のように精密に見えるが粗雑にも動く鰭の嵐の中に踏み込み、変光星の形を【回転型】の蛇腹剣に変えて即【恒久】を起動させて剣身を極限まで伸ばして自分自身にやって来る鰭の攻撃をどんどんと払い除ける。
剣身を所々感覚を空けて飛んでくる仕組みをなんとなく理解したのか守護者に向かって一点集中で伸ばしたの剣身を回避した直後、転ぶように横に移動した俺を狙うように鰭がどんどんと飛ばされていき鰭を突き破って全身に当てるようとする波動を避けるのに変光星を床に叩きつけて弾きつつその反動で体を浮かせて時間を稼ぐ。
「【流転:纏】【流転:覇】」
「ッピ!!」
それまでの行動を狙ったかのようにこちらに攻撃を向けていた守護者に対して声ではない何かを発しながらも【風刃】を使って無理矢理位置をずらして危ない着地をしたが守護者の押し付けるような拳で骨が折れて動けなくなるよりは全くと言っていい程マシなのだが…何が何でも殺そうとして来る攻撃が今のところ激しすぎてこちら側から攻撃をする暇もない。
しかし、攻撃をしなくていい分【宝物庫】から懐中時計を見る時間ができるのだ。
時間は…九分四十五秒。一瞬だけ時が止まったように感じた鈴のお陰でここまで時間を引き伸ばせることにつながったわけだ、あとは十分に合わせて行動をするだけ…勢いの衰えを感じさせないほどの弾幕ゲーと成り果てつつあるこの鰭の攻撃とどこから来るか分からない当たると意識が飛びかねない攻撃に特化しすぎた拳は危惧するのは当然、ならどうする?
答えは床に大量の【岩石弾】を生やしてすぐに変光星を叩きつけて疑似的な土埃を起こして攻撃に対応するのだが、その十秒間の後俺は【宝物庫】からある物ゆっくりと取り出す。
体に大きな傷をつけられてつい怒り任せに動いてしまったことに反省しつつ曲芸を披露し続ける『お星様』であるジェバル・ユーストは魔剣を燃やしたり、伸ばしたりと奇想天外なことを繰り返している中土埃を立てて完全に自身を隠そうとしていた。
数十枚の鰭を動かしてすぐに土埃を晴らすとそこにはジェバル・ユーストはいなく散々苦しめてきた魔剣が中央に刺さっていた。
「ジェバル・ユーストォォォ!!!こんなことで逃げるとは見損なったぞ!!」
こんなにも全力とは言えないが自分が必死に考え抜いてそして極め昇華させた手の内をこの戦いを通して確かめ続けられて楽しくて楽しくて仕方がないくらいに愛おしい……それなのに必死に攻撃を通そうとして殺意で満ち満ちている眼光を持っていた者が何故忽然と消えなくてはならないのだ。『お星様』として、そして火付け人として選ばれた者がこんな卑怯じみた行動は俺の癪に触るのだ。
どこにいるか索敵とまぐれでもいいから攻撃を当てられればと思い鰭を自分を中心にして動かそうとした時急激に右横腹に激痛が走った、魔力ですぐに回復を促しつつ攻撃なら反撃をしなくてはと体を動かそうとするが思うように動かずにそのまま何がなんだか分からない壁と接触をする。
「流石“名工匠”の肩書きを持つ鉱人族とウチの専属鍛治師が共同で造りあげた余裕の音だ。火力が違う」
この声を聞いて目で見た所で確信した、こいつまだ隠しダネを持っていやがった。手に嵌めている金色と銀色の輝く光がチラチラと覗き込んでいた。
大量の魔力の行き来を感じ取れた、『お星様』はもっと俺のことを楽しませてくれるようだ。




