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88話 スキルと人格

「――ぐっ!!」


 俺は頭を押さえた。

 頭痛と目眩に襲われている。


「はぁ、はぁ……」


 頭が割れそうだ……。


「ライルよ、無事か?」


 リリアがそう声を掛けてくる。

 ここは――


「あ、ああ。もう大丈夫だ。痛みは引いてきた」


 俺はそう答える。

 ここは冒険者ギルド。

 リリアが俺の頭に手を添えたところ、頭痛が襲ってきたのだった。


「俺に何をしたんだ?」


 リリアに小声で問う。

 彼女は竜王。

 人である俺を遥かに超えた力や知識を持ち、人には特に興味を持っていない。

 S級スキル竜化を持つ俺に対してのみ、少し特別な反応を見せるだけだ。

 信頼しているので危害を加えられたとは思っていないが、何をされたのかは気になる。


「うむ。少し”封印”スキルを使った」


 彼女は俺に耳打ちしてそう答えた。


「封印? なんでまた急に」


「お前の身に危険が迫っていると感じたからじゃ」


「危険だと?」


「ああ。お前さんのスキル覚醒スピードが早すぎて、人格にも影響を及ぼしていたのじゃ」


 スキルが人格に影響する。

 聞いたことがある話だ。


 庶民レベルの話としては、温厚だった少年がE級スキル『喧嘩師』を得た途端に暴力的になったとか。

 商館にて誠実に下働きをしていた少年がD級スキル『詐欺師』を発現したところ、人が変わって狡猾になり、金品を騙し取るようになったとか。

 敬虔な信徒だった少女がD級スキル『性技』を得て淫乱となった上に、教義を破るようになったとか。

 他にも様々な事例がある。


 もっとも、これらの事例において、スキルが直接的に人格に作用していると考える者は少ない。

 スキルはあくまで、その者の特定分野における技量や習熟度を一足飛びに向上させるだけのものだ。

 一方で、スキルによって一気に上がった自分の実力を感じれば、その道に進みがちなのは人間として当然のことだろう。

 スキルが人格に作用するというのは、あくまで間接的なものだと世間一般や研究者の間では考えられていた。

 そしてもちろん、ブリケード王国の元王子である俺も、同じように思っていた。


「俺のS級スキル竜化が、俺の人格に影響を及ぼしていたと?」


「うむ。本来ならゆっくりと時間をかけて成長するはずのものが、感情の爆発により急激に成長した。そのせいでスキルと精神のバランスが取れておらず、危険な状態に陥っておったのじゃ。このままでは、いずれ完全に壊れてしまっていたじゃろう」


「…………」


 俺は考え込む。

 感情の爆発により急激に成長――つまりは、ルーシーがガルドによって惨殺されたことにより、俺がS級スキル竜化を使いこなし始めた件のことだろう。

 その後もスキルの習熟度が増し続け、順調そのものだと思っていたが。

 そのような落とし穴があったとは。


(――ん? ルーシー……?)


 ここに至り、ようやく俺は大切な少女の名前を思い出したのだった。

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