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60話 記念撮影

「では、そろそろ村に戻るとするか」


 俺はそう声を掛ける。


「はい……。分かりました」


 ミルカは名残惜しそうにしていたが、渋々といった感じで納得した。

 彼女がメスタの頭上から足を下ろす。


「待ってください。いい魔道具があります。最後に、これで撮っておきましょう」


 アイシャがそう言って、1つの魔道具を取り出した。


「ほう。それは?」


「これは写真機といいます。見たものを一瞬で絵のように記録できる機械ですね」


「ほー。面白いものを持ってるんだな。ちょっと見せてくれるか」


「はい。どうぞ」


 受け取ったのは、手のひらサイズの四角い箱だ。

 表面にはレンズのようなものが付いていて、横にスリットがある。

 この中に、撮った光景が保存される仕組みらしい。

 そういえば、ブリケード王国にいた際にこういう魔道具があると聞いたことがある気がする。


「よく分からんが、そりゃいいな! おらっ! こっち向けよ!」


「うっ……!?」


 ミルカがメスタの髪を掴んで無理やり顔をこちらに向ける。


「よし。じゃあ撮るぞ! はい、チーズ!!」


 俺はそう言う。

 以前聞いた話では、確かこういう撮影の作法があるはずだ。


 パシャッ!!

 音が響く。

 よし。

 ちゃんと撮れたようだな。


「それ、現像という機能ですぐに紙になって出てくるんですよ」


「へー。便利だな」


 どれどれ……。

 ほう。

 これは確かに、非常に精巧な絵だな。

 写真と呼称するのだったか。


 ミルカに髪を掴まれ、無様な顔を晒すメスタの写真が写っている。

 しかも、土下座姿勢から髪を掴まれた状態。

 立場が非常に対照的で、哀れな写真だ。

 人としての尊厳が木っ端微塵になっている感じが実によい。

 俺は思わず笑ってしまった。


「ライル様。笑ってる場合ですか? 次にやることがあるでしょう」


 アイシャがジト目でそう言ってくる。

 俺のペットの分際で、少し生意気な態度だな……。

 しかしまあ、許してやるか。


 キーネとメスタという、新しいオモチャを手に入れたのだからな。

 元オモチャのミルカを、ペットに昇格。

 元ペットのアイシャは、妾兼雑用係に昇格させてやろう。

 多少の生意気な態度は許してやるさ。


「もちろん分かっている。次にやることは……」


 俺はキーネに近づき、鼻の穴に指を突っ込んで引っ張った。


「あうっ!」


 キーネが可愛らしい声を漏らす。

 俺の隣では、ミルカが俺と同じことをメスタにしている。


「ぐぎぃいいいっ……!」


 メスタは悲鳴もブサイクだ。

 まあ、ミルカが手加減をせずに引っ張っているというのもあるだろうが。


「よし。ではこれでもう1枚撮ろうか。リリアとアイシャも来てくれ」


「うむ。人族の風習はよく分からぬが、これも記念になるかの」


「こいつらの悪事を忘れないためです。記録は残しておくべきでしょうね」


 彼女たちがそんなことを言いつつ、俺とミルカの近くにまでやって来た。

 俺は腕を伸ばして、写真機をこちらに向ける。


「では、いくぞ。はい、チーズ!」


 写真を撮り終える。

 そして、現像されてきた写真をアイテムバッグに入れた。


「あっ! ラ、ライルさまっ! それはアタシも欲しかったのですが……」


 俺の可愛いオモチャ……いや、先ほどペットに昇格させたな。

 愛しいペットのミルカが、不満そうに抗議してくる。


「なんだ。お前も欲しいのか?」


「はい、もちろんです! アタシの両親、それに村のみんなの仇ですから」


「うーん……」


 俺は少し考え込む仕草をしてみせた。

 確かに、ミルカがこの写真を欲しがるのも理解できる。

 憎い相手の無様な姿を収めた写真は、いつ見ても愉快なものだろう。


「だが断わる」


「ええっ!? そ、そんなあ……」


 ミルカが悲しみの表情を浮かべた。


「そうむくれるな。お前には、もっと素敵なプレゼントを用意してやるさ。村に着くまで我慢しろ」


「……? は、はい。ライルさまがそう仰るのであれば……」


「それにな。忘れてはいないだろうな? この任務が終われば、俺がお前を可愛がってやると言ったことを」


 俺はミルカの耳元でそう呟く。

 途端に、彼女は顔を真っ赤にした。

 俺としても、この任務を通じてミルカへの愛着が増した。

 オモチャからペットに格上げする程度にはな。


「さあ、帰るぞ。捕縛しておいた盗賊たちも連れてな」


 そうして、俺の言葉に従い、みんなが移動を始めたのだった。

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