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51話 生まれ変わった気分になるはずだ

 盗賊団のアジトの見張りを二人撃破した。

 その内の一人には適切な処置を施し、道案内として俺たちの前を歩かせるつもりだ。


「ライルさま! こちらの男にも同じことをしましょう!!」


 ミルカが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 気絶していたもう片方の男にも、同様の処置をするのか。

 ミルカも、なかなか悪趣味だな。

 それだけ恨みが募っていたのだろう。


「分かった。だが、まったく同じというのも芸がないのではないか?」


「ええっと……。確かにそうですね。では、ライルさまにはどのようなお考えが……?」


 ミルカが尋ねてくる。

 若干だけだが不満そうな様子が見て取れる。

 男への制裁に手心を加えようという意思表明に聞こえたか?


「そうだな。こんな感じでどうだ? 【フレイム】」


 ボウッ!

 俺の火魔法が、気絶している男の足を包む。

 圧倒的な超火力により、男の足はすぐさま灰となった。


「ぎゃあああぁっ!!」


 男が絶叫をあげ、飛び起きる。

 そして、自分の身に何が起きたのかを把握する。


「ひいぃっ!? お、俺の足がっ!? ああああああぁっ!!」


 男が改めて悲鳴をあげる。

 それも無理はない。

 気絶している間に自分の足がなくなっている経験など、人生でそうそうあるものではないだろうからな。


「ミルカよ。これでどうだ?」


 俺はミルカに向かって尋ねる。


「えっ!? は、はい! す、素晴らしい処置でございます!!」


 ミルカが何故か動揺しながら答える。

 ……何か変なことを聞いただろうか?

 彼女も負けず劣らずの所業を行っていたように思うのだが。


「お、お前たち! 何してやがるっ!!」


 男が俺とミルカをにらみ、そう言う。

 ほう。

 この期に及んで敵対する気概があるとはな。


 なかなかの精神力ではないか。

 いや、初手であっさり気絶していたため、俺たちに対する恐怖感が足りないのか?

 足の焼却も、高火力で短時間にキレイに焼いたため、痛みなども最小限に抑えてしまっていたかもしれない。


「ならばついでだ。これも追加しよう。【フレイム】」


 今度は男の顔に火をつける。


「ぎゃああぁーっ!」


 男が絶叫をあげた。

 そう大声を出すなよ。

 今の火魔法はミジンコレベルにまで手加減している。

 薄皮一枚焼いただけだ。

 とはいえ、自分の顔に火がつくのは恐怖感が大きいだろうがな。

 少しして、男の顔の火は消えた。


「分かったな? 俺たちに逆らうな。従順にしていれば、そっちの男のように命だけは助けてやらんでもないぞ」


「そ、そっちの男……? ひ、ひいいいぃっ!!」


 男はようやく、自分の相方の現状を認識したようだ。

 既に処置済みの方は、両腕を喪失し、代わりに木の枝を乱雑に刺されている。

 そして、憔悴した様子で四つん這いで待機している。

 その目には、生気がない。


「選べ。この場で死ぬか、あの男の仲間入りをするか」


「わ、分かりました!! 何でも受け入れる! だから殺さないでくれ!!」


 男は泣きながら懇願する。

 ふむ。

 まあ、及第点といったところか。


「よし。やれ、ミルカよ」


「はい!」


 ミルカが男に近づく。


「ひっ……」


 男が怯えている。

 だが、もはや逃げることもできない。

 足がないので物理的に逃げられないし、逃げたところで俺が追いかけて殺すからだ。

 男に残された選択肢は、ただ黙って耐えることのみである。


「安心しろ。死にはしない。むしろ、生まれ変わった気分になるはずだ」


 俺は男に語りかける。

 失った足に木の枝が生える体験など、そうそうできるものじゃない。

 せいぜい、感謝して欲しいものだ。

 もっとも、彼が今後人間扱いされることはないのだがな……。

 ミルカの手により激痛が与えられる男の悲鳴を聞きつつ、俺はそんなことを考えていたのだった。

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