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50話 義手

 盗賊団のアジトの入口に立っていた見張り二人を撃破した。

 一人は気絶している。

 もう一人は、俺が尋問して情報を吐かせた。

 そして、ミルカが何かやろうとしている。


「村のみんなの敵め……」


 彼女が憎々しそうに呟く。

 その表情は、今まで見たことのないような激しいものだった。

 あの村では、既に盗賊団による被害が出ているのだったか。

 ミルカの家族もしくは親しい者が、盗賊の犠牲にでもあったのかもしれない。

 もしそうなら、復讐心を抱いても不思議ではないな。


「よ、よく見りゃ、お前は村の……!?」


 男は、ミルカを驚愕の眼差しで見つめている。

 やはり顔ぐらいは知っている仲か。


「痛みを思い知れ……」


 ミルカがそう呟きながら、男の腕に手を当てる。

 腕とはいっても、俺が焼却したので途中までしか生えていない。


「ふんっ!!」


 ミルカはそんな掛け声とともに、男の腕に木の枝を突き刺した。


「ぎゃっ!? あ、ああああぁっ!!」


 男が絶叫をあげる。


「まだです」


 さらにミルカは、突き刺したままの木の棒を回転させる。

 ぐりゅ……ぐちゃ……。

  木片や肉や血が、地面に飛び散る音が響く。


「うあ……や、やべてぇ……。ごめんなさいぃ」


 男は涙を流し、命乞いをしている。


「お前には、これから死ぬよりも辛い目にあってもらいます。楽になりたいですか?」


 ミルカが冷酷無比といった目で男を見下ろし、問いかける。


「ひいっ! は、はい!!」


 男が必死の形相で答える。


「よろしい。では、アタシたちを先導しなさい」


「わ、分かりました! 案内しますから、もう許してくれぇ!!」


「なら、早く行きなさい」


「ひっ……」


 男が引きつった顔をする。


「う、うう……」


 男がヨロヨロと立ち上がろうとする。

 腕がないのでバランスが取りにくいようだ。

 しかし、先ほどミルカがぶっ刺した木の枝がいい感じに腕の先に生えている。

 ギリギリ義手と見えなくもないな。

 俺は少し感心してしまう。


「何を立ち上がろうとしているのです」


 ミルカがそう言って、男の足を払う。


「えっ!? あ、あぎゃああぁっ!!」


 男はあっさりとバランスを崩し、再び倒れ込んだ。

 腕があった頃の名残か、手を地面に付こうとしたようである。

 しかし残念。

 男にはもう腕がない。

 あるのは、ミルカがぶっ刺した木の枝だ。

 倒れ込む体をそれで支えようとした構図になったため、木の枝に男の体重がかかり、焼却された腕の断面へと食い込んでいく。


「あ"あ"あ"!! いだああああっ!!!」


「何度言えば分かるのです? お前はアタシたちの奴隷なのですよ?」


 ミルカが男を睨みつける。

 いや、そんな話はしていなかったような。

 まあ、敗北し捕らえられた盗賊の行末など、言わずとも分かるが。

 その場で殺されるか、町や村まで連れ帰られ奴隷として売り払われるか、公開処刑されるか。

 どの道、碌な未来は待ち構えていない。


「奴隷風情がアタシと同じ目線に立つな。そのまま這いつくばって行くのです」


「は、はい……」


 男は既に憔悴しきっている。

 だが、このままだとミルカに殺されると思ったのか、かろうじて動き出した。

 ぐちゅ……ぐちゅ……。

 男が一歩進む度に、腕の断面に枝が食い込む音がする。


 元は俺が焼却したため、出血などはほとんどなかったのだが……。

 徐々に出血量が増えているな。

 この男の命は、それほど長くないだろう。

 まあ、アジトに案内するまでぐらいは生かしておいてやるさ。


 そういえば、気絶しているもう一人の男にも何か処置を施しておかないとな。

 俺たちが洞窟に突入した後に目を覚まし、挟撃でもされたら少しだけ面倒だ。

 殺すか、戦意を完全にへし折っておくか。

 あるいは、道案内として連れて行くか。

 どうしたものかな。

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