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32話 威圧

 ギルマスとの面談中に、部屋の隅で気配を殺して潜んでいる不審者を発見した。

 殺してやってもよかったのだが、ギルマスと受付嬢が止めてきたのでとりあえず様子を見ることにした。

 俺は女性の喉元にあてがった短剣をしまう。

 女性は床にへたり込む。


「はぁ、はあ……」


「……ギルドマスター。この女はなんなんだ?」


「彼女は私の秘書だ。そして、戦闘能力も高い。特殊な状況下における護衛や警戒要員として、配置することがある」


「戦闘能力が高いだと? こいつが?」


 俺は侮蔑の視線を女性に向ける。


「う、うう……」


 女性が悔しげな声を上げる。


「そうイジメてくれるな。彼女は儂の娘でもあるのじゃ……」


「ふん。それがどうした? 彼女が情けないことに変わりはない」


「いや、ライル君の力が規格外過ぎるのじゃ。彼女の戦闘能力はCランク。隠密能力だけならBランクの実力がある」


 ふむ。

 彼女はそこそこ強いようだ。

 俺はS級スキルの竜化が覚醒して強くなった。

 多少敵対した者であっても、事情があるのであれば加減してやる必要があるかもしれない。

 まあ、彼女のことはもういいだろう。


「……それで、ギルドマスター。俺のことを信じてくれたか?」


「ああ。君のことを信じることにしよう。……受付の君、ライル君がゴブリンキングを討伐した件を早急に処理するのだ。本日付でCランクに上げろ」


「しかし、Cランクへの昇格は本来一週間の審査期間が必要ですが……」


「そんなことを言っている場合ではない。ギルドマスターの権限で特別に許可する」


「しょ、承知しました」


 受付嬢が俺のギルドカードを持って、部屋から退出した。


「これで君は晴れて、今日からCランクの冒険者になることになる。君の実力からするとそれでも不十分かもしれんが、今はこれで許してくれ」


「了解した。早速依頼を受けたいのだが、何かあるか? できればシルバータイガーの狩りを行いたいが……」


「シルバータイガーを狙っておるのか?」


「ああ。とある事情により、やつの牙を得る必要があるのだ」


「残念ながら、今は季節外れじゃ。もう少しすれば、目撃例も入ってくるかもしれぬ。その際には、ライル君に優先的に情報を回すように取り計らおう」


「よろしく頼む。では、繋ぎの依頼として何かいいのはないだろうか?」


 冒険者ランクは上げておくに越したことはない。


「そうじゃのう……。おお、そういえば。ここから東に3日ほど行ったところに盗賊団のアジトがあるのじゃ。その調査依頼が出ておった」


「盗賊団か」


 ブリケード王国にも、盗賊団はいたな。

 辺境で行商人や村人を襲って食い扶持を稼ぐ、卑劣な奴らだ。

 ここはランク上げと暇つぶしを兼ねて、受けてやるとしよう。

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