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305/307

305話 前世の記憶?ー1

「ふふふ……。余は前世の記憶を取り戻したのじゃ!」


 空の軍勢を撃退してから数年が経過した、ある日のこと。

 俺が執務室で仕事をしていると、リリナがやってきてそう言った。


「あー……。はいはい、それはすごいな」


「む……。その反応はなんなのじゃ?」


「いや、リリナもそういう年頃になったんだと思ってな」


 俺は苦笑する。

 リリナは14歳となった。

 この年齢になると、自分が特別な存在だと思い込み始めたりするものだ。

 どこかの文献によると、たしか『ちゅーに病』という病名だったか。


「可哀想なものを見る目をやめよ! 余は正気じゃ!」


「はいはい」


「むー……。信じていないのじゃな? よし、それなら父のとっておきの秘密を暴いてやろう!」


「ほう? 俺のとっておきの秘密だと?」


 俺は興味を示す。

 秘密か……。

 誰にでも、1つや2つ隠したいことはあるだろう。

 俺だって例外ではない。

 リリナのことは可愛い娘だと思っているが、それでも話していない事柄はいくつもある。


「ふふ……。言ってもいいのかえ? 本当に言うぞ?」


「ああ。分かったから、早く言えよ」


「では……言うぞ。実は、父は……」


「俺は……?」


 リリナが一呼吸おく。

 そして、口を開いた。


「首元を噛まれるのが好きなのじゃ!」


「……は?」


 俺は思わず間抜けな声を出す。

 首元を噛まれるのが好き……?


「……何を言っている? S級スキル【竜化】を持つ俺の皮膚は頑強だ。そんじょそこらの者に噛まれたところで、痛みどころか痒みすら感じないぞ」


「ふふ……。噛まれることが好きというのは否定しないのじゃな?」


「あ……」


 しまった……。

 リリナがニヤニヤと笑っている。

 隠していた俺の性癖がバレてしまった。

 子どもに話すようなことではないのに……。


 ……しかし、妙だな?

 この性癖はルーシーやロゼリアあたりも知らない。

 彼女たちはそれぞれ強いのだが、顎の力や歯の頑丈さは普通だ。

 性癖を伝えて噛んでもらっても、逆に彼女たちの歯を痛めてしまうだけ。

 だから、あえて言っていなかったのだ。


「ふふふ……。父よ、安心せよ! 余が噛んでやろう!!」


「おい、やめろ! さすがの俺でも、実の娘とそういう関係になるのは……」


「問答無用じゃ! とりゃー!!」


「やめろー!」


 俺は必死に抵抗する。

 だが、リリナは強い。

 先日の成人の儀で何か強力なスキルを得たらしく、その身体能力はさらに増している。


「ふふん! 観念するのじゃ!!」


 リリナが俺に襲いかかり、そのまま首元に噛みつく。

 俺の皮膚があっさりと破れ、血が滴った。


「あれ……。父よ、何も感じないのか?」


「……いや、これは……」


 俺は混乱する。

 誰も知らないはずの性癖を、なぜ彼女が知っているのか?

 それに、この噛み方……。

 懐かしい記憶がある。

 この噛み方は……。

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