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131話 ちょっとしたゲーム

「え? あっ……」


「何度も言うが、自分の手の内を安易に晒すなよ……。よくそんなのでやってこれたな」


 能ある鷹は爪を隠すという異国の言葉がある。

 王族として育てられた俺の回りには、能力があってもそれを秘匿する者が多かった。

 お互いがお互いに一定程度の敬意と警戒心を持っている。

 無用なトラブルを避けるためにも、手の内を隠すのは当然のことだと思っていたのだが……。


(こいつらは、そうではないということか……)


 少し認識を改める必要があるかもしれない。

 スラムに巣食うような奴らは、知能が低い。

 自分の能力を隠していては、バカな奴らから舐められてしまうのだろう。

 その環境によって、適した振る舞い方が違うのだ。


「ふぅむ……。悪くはないナイフだな。もらってもいいか?」


「なっ!? ふ、ふざけるな! それは俺のとっておきの――」


「分かった分かった。なら、こういうのはどうだ?」


 俺は男に提案をすることにした。

 まぁ、問答無用でぶち殺して奪ってやってもいいのだがな……。


「ちょっとしたゲームだよ。それに俺が勝てば、このナイフをもらう」


「な、何を……」


 男は動揺しているが、この場から逃げ出したり俺へ攻撃する素振りは見せない。

 先ほどの俺の超高速移動を見ているしな。

 今さら逃走や抵抗は無駄だと悟りつつあるのかもしれない。


「ほら、一度このナイフは返す」


「あ、ああ……」


 男がおずおずとナイフを受け取る。


「そのナイフで俺を攻撃してみろ。麻痺毒とやらが俺に効かなかったら、そのナイフは俺がもらう」


「なっ!?」


「どうだ? チャンスをあげようと言ってるんだぞ。本当は問答無用で奪っても良かったのだから」


「て、てめぇ! 後悔しやがれっ!!」


 男が俺に向かってナイフを突き出す。


(遅いな……)


 思わずあくびが出そうだ。

 避けて適当に反撃してもいいのだが、もちろんそんなことはしない。

 これはゲームだからな。


 俺は敢えてそのナイフを体で受ける。

 ガキンッ!


「んぎゃっ!」


 男が悲鳴を上げる。


「ああ、悪いな。闘気を纏ったままだったよ」


 S級スキル竜化を持つ俺の肉体は、非常に頑強だ。

 さらにそれを闘気で常時強化しているので、並の攻撃では傷ひとつ付かない。

 さながら、巨大で強固な鉱石のようなものだ。

 それに対してたかがナイフで攻撃を加えようものなら、ダメージを受けるのは攻撃者となる。

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