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新しい国

現在、燐のいる国、ザボンは戦争を行なっていた。

勝てるはずもない。戦争を重ね、軍は疲弊しているのだから。


それでもやらなくてはならない。

恩人である大将は頭を抱えた。


りん。聖戦の書を取ってきてくれ」

「わかりました」


燐は部屋を出て、急足で図書館に向かった。


貴重な資料や書籍がぎっちりと詰まっている。


燐は休憩時間になるとほとんどこの図書館にいるため、普段ならすぐに見つけることができる。しかし、今回指定された本はすぐには見つからなかった。


大体あの辺だろう、と当たりをつけ、一冊ずつ背表紙を見極める。


やっとのことで発見し、パラパラと中身をめくりながら、図書館を出た。


執務室に近づくと、妙に静かで冷や汗が背中をつたった。


意を決して扉を開く。


待ち受けていたのは、普段通りの執務室ではなかった。


黒い軍服の者たち。金髪や茶髪、黒髪までさまざまな髪色をしている。


「動くな。何も持つな」


異国なまりをしているが、聞き取りやすい。


ちらりと横を見ると、血を流し横たわった大将がいた。おそらく死んでいるだろう。


「あいつが言っていた秘書のようだな」


伝わらないと踏んだのか、異国語で話し始める。燐には理解できるのだが。

その間に、顔を凝視する。ほとんど見覚えがあった。国王の側近だろう。


「魔法はつかえるか?」


今度はこちらの言語だった。

この国は魔法が使えない人が9割を超える。

使えるなら生かしてやるよ、使えないだろうがな。と言いたいんだろう。

奴らの1人くらいはおそらく魔力が見えるのだろう。


ここで嘘をつく必要はない。

燐は左手につけている、腕時計を表に出す。


この腕時計には、魔封石がついている。


見せ付けるように外し、隣の棚に置いた。



金髪の男が目を見開いた。



素直なんだなと思いつつ、手から氷を出してみる。


ぱき、と温度差による氷のヒビの入る音や、ひんやりとした空気に彼らは息を飲む。


ただ、魔法を教えてくれる人がいなかったので毛が生えた程度だ。


「いくぞ」



黒髪の男は腕時計を回収しポケットに入れた。


ぐらりと周囲の景色が歪むと、次の瞬間には大理石の部屋にいた。


「空間移動はしたことあるのか」


ちら、と横目で見られる。


「初めてです」


全員の視線を集める。


「何者だ」

「何者ですかねえ…」


大きな鏡で自分の髪を見る。わかりにくいが、髪の色が濃い青に染まり始めている。


「レイルン森で拐った、とか」


レイルン森は、非常に危険だと言い伝えられている。ドラゴンの魔獣を見た、と探検家が言ったのだ。



視界の端で、黒髪の男が揺れた気がした。


久しぶりに腕時計を外し、魔力が豊かになった燐は自身の持つ最速の力で近寄る。


男はそのままふらりと倒れた。しっかりと燐が抱きとめる。

ゆっくり床に下ろし、ジャケットを脱いで畳み、頭の下に敷く。


服の上からでも伝わるほど体が冷えている。魔力が足りない。

腕時計に吸われたのだろう。


燐はポケットから腕時計を取り出し床に置いた。


勝手に触るのは申し訳ないが、他に手段がないので男の手を握る。

そのまま魔力を送り出した。


「何をしている?」


金髪の男は汗を額に浮かべながら睨む。


「あと30秒ください。25……20……」


返事はないが、何もしてこないので続行する。


きっかり30秒。手を離す。体温がだいぶ戻り、黒髪の男は目を開いた。


「腕時計が強力なことをお伝えするのを忘れていました。申し訳ありません。気分はいかがですか?」

「…問題ねえ。お前か?」

「はい。無断で申し訳ありません」

「どういうことだ?何が起こった」


金髪の男は腕時計を手に取り照明に透かしている。


「腕時計に魔力を持っていかれすぎて体内に不足し、倒れたと思われます。他に原因がある可能性も捨てきれないので一度休まれた方がいいかと」

「こんくらいで休まねえよ」


急いで黒髪の男は立ち上がった。ふらりとして、再び燐が支える。


「貧血と大体一緒なのでゆっくり立ち上がってください」

「……あぁ」


そっと重心を戻す。

床に置いたジャケットを回収しようと見ると、すでにない。その付近に、茶髪の男が笑顔で手に持っている。


驚いて、会釈しながら返してもらおうと手を伸ばすと、少し引いてジャケットを広げた。

武器を隠し持っていないか確認したんだろう、と思いながら固まる。

茶髪の男はそのまま笑顔でくい、とジャケットを持ち上げる。


着ろと。

困惑しながら着せてもらう。


「ありがとうございます」

「いいえ」


金髪の男は袋に腕時計を入れた。その袋は本で見たことがある。魔力に関する力をすべて無力化する袋だ。タイと呼ばれることが多い。


「お前。一度王に挨拶しておかねばならない。化粧もしてないだろ?服も敵国だ。使用人を呼ぶ。着せ替え人形になってこい」


笑顔を初めて見た。少し悪い顔だったが。言い終えた瞬間にノックが響き、使用人の女性達に燐は回収された。

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