第27日目 世界がひっくり返った休暇日 ①
「ねえ!休みたいっ!」
ここは言わずと知れた『管理事務局』。
そこで私はベソとノッポの寝起きの時間に奇襲をかけたのである。
「エ・・・エリスさん・・。勘弁して下さいよ・・・。今何時なんですか・・・?」
ベッド替わりに長椅子のソファに寝転がっているノッポが言う。
「うん?朝の4時だけど?」
「勘弁して下さいよっ!俺達は午前1時まで仕事をしていたんですよ?!お願いですからどうか寝かせて下さいよっ!」
ベソが半べそで言った。
「ちょと・・・誰が半べそですって?」
「あ?心の声が聞こえてた?ついね・・・。」
「大体、何故『休みたい』って俺達に言いに来るんですか?休みたいなら休めばいいじゃないですか?!」
ノッポのその言葉についに私は切れてしまった。
「はあ・・・?ノッポさん・・・今、何と仰りましたか?休みたいなら休めばいいと仰いましたか・・・?」
「ヒイイッ!」
ノッポは突然私の態度が豹変したのに恐怖を抱いたのか、奇声を発した。
「いいですか?ノッポさん。昨日も私は休暇だったのですよ?それなのに3人の『白銀のナイト』の好感度が下げられ、あまつさえコンピューターウィルスが遊園地で発生したんですよ?それを私がたった1人で・・・・。好感度を上げながらのウィルス駆除がどれだけ大変だったと思います?しかも・・あ、あ、あんな・・・恥ずかしい魔女っ子のコスプレまでさせられて!おまけに最初に着ていた服はちょっとしたトラブルで破けてしまったので洋服を買える程の余分なお金も持って来ていなかったから着替える事も出来ず・・・。私がねえ、宿舎に帰るまでにどれ程の人達に無断で写真を撮られてしまったか、貴方に分かりますかっ?!」
襟首を掴み、自分の方にノッポを引き寄せると私は昨日1日の不満をぶちまけてやった。
昨日、宿舎に帰るまでの事を思い出すたびに顔から火が出そうになる。
ここはファンタジーな世界を舞台にした乙女ゲーム。なのでこの世界の住人達は奇抜なファッションで外を歩いても何ら違和感を感じさせない世界であるはずなのに・・。
あの魔女っ娘のコスプレだけは頂けない。あんな服装をして歩いているような人達は何処にもいない。逆にアキバで歩いていた方が違和感が無かっただろう。
しかもこの世界には恐らくプライバシーという言葉は存在しないのだろう。
やけにレトロチックなカメラを持った人達(おもに男性)にどれだけ勝手に写真を撮られまくって来た事やら・・・。
その事を思い出す度、あまりの理不尽さに腹が立って来る。
「そ、そんな事があったんですか・・・?ご苦労様でした。」
ベソがまるで他人事のように言う。
「はあ・・?ご苦労様でしたじゃないわよっ!兎に角昨日は散々な1日だったんだから、今日は何事も無く、のんびり過ごしたいの!コンピューターウィルスの出現も無く・・・『白銀のナイト』好感度を下げられる事も無く・・・。貴方達はこのゲームのプログラマーなんでしょ?!いわゆるこの世界の神様的存在と言っても過言じゃないのよ?神様だったら私のお願い事を叶えて頂戴っ!」
最期はヨイショで持ちあげてみる。彼等を上手く使うには飴と鞭が必要なのだ。
「え・・・?俺達が・・・神ですか?」
襟首を掴んでいたノッポが嬉しそうに言った。
「そうか・・・俺達はプログラマーだから・・・その気になれば何でも出来るんだ・・・。」
ベソも何だか乗ってきたように感じる。
「・・・それで、どう?何とかなりそう?今日1日位・・せめて、『白銀のナイト』の好感度を下げるのだけは食い止められそう?」
よし、もう一押しっ!
「・・・やってみましょう。」
ベソが言った。
え?ほんと?やった!
「ああ・・・。ベソ、俺達に出来ない事はない。」
ノッポが言う。
「今日はエリスさんが安心して休めるように、2人で総力を決して外側からウィルス駆除と『白銀のナイト』を攻略してあげます。なーに、我らにかかれば彼等の好感度の100アップ位・・・ちょろいもんですよ。」
右手を額に、左手を右の腰に当てた妙な決めポーズ?をしたベソが言う。
「嘘ッ?!ほんとに?!『白銀のナイト』達の好感度も上げといてくれるの?!」
「ええ。お任せください。プログラムを外側から干渉して、彼等の好感度のデータを操作して上書きしておいてあげますよっ!見ていて下さいよ。エリスさん。後は我等にお任せください。今日はこれからまた宿舎に戻られたらお休みになるんですよね?」
ノッポがPCに向かうと声を掛けてきた。
「うん、そうだね・・・。まだ5時にもならないから・・・宿舎に戻ったらまた寝直すつもりだけど?」
寝ると言う言葉に触発されてしまったのか、欠伸をしながら答えた。
「ふふふ・・・。そうですか。ではエリスさんは今日はゆっくりお休みください。きっと目が覚めたら・・・・驚く事になっていますよ?世界がひっくり返るかもしれません。」
何やらスケールの大きい?事をいうベソ。でも、彼等がそこまで言うのなら・・・・うん!任せても大丈夫かな?
「うん、それじゃあベソ、ノッポ。後はよろしくね~。私はこれから部屋に戻って寝るから。おやすみなさ~い。」
そして私は暁闇の空の下をブラブラ歩きながら、宿舎へと帰って行くのであった—。
ドンドンドンドン・・・・!
ドアが激しく叩かれている音が聞こえる・・。うるさいなあ・・・。
モゾモゾと布団の中から手を出して側に置いてある時計を見ると時刻は6時。
ムカッ!
もう・・・誰よっ!折角のお休みの日なのに・・。
「エリスさんっ!エリスさんっ!」
「た、大変ですっ!早く起きてくださいッ!」
おや?あれはベソとノッポの声だ。だが・・・。
「もう、何なのよお。今日は任せてくださいって言ったでしょう?」
言いながらガチャリとドアを開ける。
「あれ・・・?どちら様ですか?」
そこには見慣れない2人の若い男性が立っていた。1人は見上げる程に背の高い黒髪のイケメン男性。そして1人は茶髪のイケメン男性がそこに立っていた。
「何言ってるんですか。ベソとノッポですよ?」
「え・・ええええ?!うっそおおおおおおっ!覆面の下って・・2人ともそんな顔してたの?どうして隠してたのよ。そんなイケメンなのに勿体ない・・・。」
「え・ええっ?!お、俺達の顔・・・見えてるんですか?!」
ノッポが自分の顔を指さして叫ぶ。
「ま・・・まさか・・・っ!」
ベソは頭を抱えている。
「ちょ、ちょっとっ!一体何があったのよ!あんな覆面被ってるから、どんな顔かと思ったけど、2人ともイケメンじゃないの。うん。被り物なんかいらないってばっ!」
バンバンと2人の背中を叩くも、彼等は何故かパニックを起こしている。
「ああどうしよう、大変だ大変だ・・・!」
ノッポがこの世の終わりのような顔で頭を抱え込んでいる。
「ううっ・・・!だ、だから・・・・俺はこのプロジェクト・・お、降りたかったのに・・・!」
ベソは男泣き?しているが、うん。イケメンだから泣き顔も許すっ!
「ねえ、2人供・・・だったらまた覆面を被ればいいじゃないの。」
「何言ってるんですか!あ、あの覆面は・・・俺達がこのバーチャル世界と現実世界を自由に行き来する為の必須アイテムだったんですよ!それに元々俺達は実際は覆面なんか被っていなかったんですから!プログラムを組んで覆面を被っているように見せかけていただけなんですっ!」
ノッポがやけになったのか喚くように言った。
「き、きっと・・・コンピューターウィルス<オリビア>の仕業に決まっている・・・。俺達を邪魔者と判断して新しくターゲットに加えて来たんだ・・・!」
そして、ベソの言葉通りに世界はひっくり返ったのである。
但し、皮肉な事に世界がひっくり返ったのはベソとノッポの世界だけだった・・・。




