第15日目 コンピューターウィルスを駆除せよ! ①
翌朝—
いつもより30分程早く目が覚めた私は液晶画面に表示されているメッセージを呆然と見ていた。
一体、何なの?このメッセージは・・・?い、いわゆるゲーム上で時々発生すると言われている・・・いわゆるバグというものなのだろうか・・・?
再度文章を確認してみる。
『 攻略対象のフレッド・モリスと初めてのキスを交わされました。』
は?キス?
そんなものいつしたっけ?まるきり覚えが無いのだけど・・・。ただ、何故か帰り際にフレッドが私の事を『エリス』と呼んだり、自分の事を『フレッド』と呼ぶようにと言って来たし、別れ際に私の事を潤んだ瞳で見つめ挙句の果てはまさかの好感度が150。
一体私は何をやらかしたのだ?と言うか・・・ひょっとして何かされた?のでは無いだろうか?
もし2人の間に何かがあったとすれば・・・私がアルコールを飲んで意識を無くした後の事かもしれない。
2人の間に絶対に何かがあったに違いない。その何かというのは・・・。
「恐らく、キスの事なんだ・・・。」
もしかして酔っぱらって、強引にフレッドにキスをしてしまったのだろうか?
現実世界の私はいくら酔っぱらっても誰彼構わずキスをするような人間では無い。
だけど・・・この身体はバーチャルゲームの『エリス・ベネット』。
エリスは奔放な悪女として描かれていたが・・・実際の彼女はどうだったのだろう?別に男を手玉に取ったり、誘惑したり・・・等といったシーンはゲーム中では一切描かれていなかった。
逆にヒロインの方が奔放な女性で、何故こんな女がヒロインなのだ?と思った位だったし。だから私の考えではエリスがフレッドにキスしたとは思えない。
となると・・・・。
「フレッドが私に手を出した・・・のかな?」
どうしよう、いっそ確認してみるか?でもなんて尋ねる?貴方は私にキスをした事がありますか?
・・・駄目だっ!聞けるわけが無いっ!と言うか・・・会っては駄目だっ!こ・・・好感度がまた上がってしまうかもしれない・・・。
大体ゲームの中のフレッド・モリスというキャラクターは寡黙なタイプで、女性に手の早い男性では決して無かった。
と言う事は・・・・。
「うん。きっと、これはバグだ。この世界に・・何等かのバグが生じたに違いないわっ!」
こうして私はフレッドの事は、忘却の彼方?へ追いやり、もう1つ気がかりなメッセージに注目した。
「う~ん・・。この<ダンジョン探索>って言うのが・・・一番気がかりなんだよね。大体このゲームにはダンジョンなんて存在しなかったし・・。」
その時、タイミングよくピロリンと音がなり、液晶画面が表示された。
『おはようございます。15日目がスタート致します。実は今回、このゲームをテストプレイ中に重大なバグを発見致しました・・・。』
「え?バグ?」
いつもとは全く違う雰囲気のメッセージに私は緊張の面持ちで次の画面をタップした。
『このバグはウィルスが外部から侵入して来たもので、我々制作チームは一丸となってバグに対処して参りましたが、汚染が早く外部からの駆除だけでは間に合わないと判断致しました。そこで新しくプログラムを作成し、直接内部からもウィルス駆除を出来るように致しました。』
あ・・・ここまで読んで・・・段々嫌な予感がしてきた・・・・。
そして私は次のメッセージで自分の勘が当たった事を認識する。
『そこで今日のミッションです。<ダンジョン探索、コンピューターウィルスを駆除せよ!>詳しい説明は後程、運営局から説明があります。それでは怪我の無いように頑張ってください。我々ゲーム制作会社も一丸となって応援します。健闘を祈ります。』
はああああ~っ?!
な・な・な・何なの・・・?一体この滅茶苦茶な世界は・・・?
私が入り込んだこの世界は「乙女ゲーム」の世界だよね?
それに私の得意なゲームはラノベゲームか、謎解き脱出ゲームだ。アクションゲームやシューティングゲームは大の苦手分野なのに・・。こんなの無理に決まってるっ!
うう~・・・・もしウィルスの駆除失敗で死んだら絶対に化けて出てやるからな・・・。
私は恨めしい気持ちで、嫌々メイドの仕事に向かった・・・・。
「皆・・・今朝は仕事開始の前に朝礼を始める。」
朝の6時。
私達は仕事開始前にトビーによって職員用の休憩室に集められた。トビーの顔は暗く・・まるでこれからお葬式にでも参列するかの如く陰鬱な雰囲気を全身から放っている。
「何だよ、こんな早くから集合なんて・・・。」
欠伸を噛み殺しながらジョージが言っている。
「お早う、エリス。お前に会うのは数日ぶりだな?」
顔を若干赤らめたダンが私の側に寄って来ると声を掛けてきた。
「おはようございます。ダン。」
そしてチラリとダンの好感度を確認すると・・・やはり数値は変わらず110のまま。
私は少し離れた場所に座っているニコルの好感度をチェックすると彼の好感度は50のままだ。うん、ニコルの好感度・・・あれぐらいが望ましい。
他のメイド達もつまらなそうに集まっているし・・トビーはやはり人望が少ないのだろう。
トビーは全員が集合しているのを見計らい、咳ばらいをすると話始めた。
「実は、今朝学園側のお偉方から突然連絡が入って来たんだ。この学園より5km程北にある森の中の岩山に突然大穴が空き、そこから未知の生命体が出現したらしい。目撃情報によると・・・一般的な獣とは異形の姿をしているらしく「モンスター」と認定したそうだ。そして本日、そのモンスター退治の為に討伐隊が編成される事になった。」
あ・・・これってやっぱり・・・・。
私はトビーの話を聞いている内に段々嫌な予感しかしてこなくなってきた。
「討伐隊のメンバーは3名の白銀のナイトと・・我々の中から1名が選ばれる事になった・・・。」
苦悶の表情を浮かべつつ、チラリとトビーが私に視線を送る。
ああ・・ほらね。やっぱり、そう来ましたか。
「討伐隊と言うからには・・当然私達メイドが選ばれるはず無いわよね?ダンが適任なんじゃない?」
ツインテールの美女、ナタリーが自慢の長い髪をバサアッと振りながらダンを見る。
「うむ・・・。俺しか・・いないだろうな。」
ダンは腕組みをしながら頷くが・・・。
「い、いや・・・・。もうメンバーは決まっているんだ。」
トビーは手で制すると、私をじっと見つめると言った。
「エリス・・・。君が討伐隊に選ばれた。」
その目は・・・酷く悲しげだった。おや・・・・?いつもの無責任そうなトビーは何処へ行ったのだろう?
しーん・・・・。
当たりは水を打ったように静まり返っている。本来ならここで大騒ぎになるのだろうが・・・事があまりにも意外なので誰も言葉を発する事が出来ないようだ。
・・・知らなかった。人はあまりにも驚き過ぎると・・やっぱり言葉を無くすんだ!
「いいでしょう。承りました。」
私は頷く。
どうせ、こうなる事は数日前から分かっていたので、今更じたばたしてもしょうがない。それに・・・一緒にダンジョンに入るのが・・・白銀のナイトなら・・うん、きっと私の身の安全?は守られるだろう。
「な、何?!エリス!お前・・・本当に引き受けるのかッ?!」
すぐ側にいたダンが私の両肩を思い切り掴んだ。・・・痛いなあ・・・。
「エ、エリス?君は・・・本気でそんな事を言ってるのかい?」
トビーは目に涙まで浮かべて私を見ている。そしてそれを見て他の従業員達はギョッとした顔をしているし・・・。
「ええ、森だろうが、山だろうが何処だって行ってやりますよ。」
私は立ち上がると言った。
・・・しかし、その足が震えていたのは言うまでもなかった・・・。
「エリス、本当に嫌なら断ったっていいんだよ?き、君の為なら僕が・・か、代わりに・・・。」
相変わらず気色の悪い話し方をしながらトビーが私を連れて、この学園の管理事務局?と呼ばれる場所へと連れて歩いている。
「いえ、大丈夫です。覚悟は・・・・出来ています。」
まるでドラマや映画に出てきそうなキザな台詞?を言う私。それにしても・・・何?管理事務局って?
そんなのこの乙女ゲームの世界には出てこなかったけど・・・?さてはウィルス駆除の為に、急遽作り上げた部署なのかもしれない。
「実はエリス。この話が出たのは昨夜10時頃だったんだ。突如現れた迷宮を何故か『ダンジョン』と呼び、真っ先に討伐隊のメンバーに名前が挙がったのが・・・エリス、君だったんだよ。」
悲し気な顔で私を見るトビー。
「君の名前が討伐隊に上がって、その後すぐに白銀のナイト達にも知らせが届いたのだが・・・真っ先に自ら討伐隊に志願したナイト達がいたんだ。」
「そうなんですか?」
まあ、彼等にしてみれば今回の討伐は自分達の本領を発揮できる絶好の機会かもしれないしね。
そして、トビーはある部屋の前でピタリと足を止めた。・・・着いたのかな?
部屋の入口には「管理事務局」と書かれた札がぶら下がっている。
トビーは緊張した面持ちでドアをノックした。
「失礼します。」
トビーが先に中へ入り、私も続けて中へ入ると・・・。
「「「エリスッ!!!」」」
3人の男性が同時に声を上げた。
その声の主は・・・。
フレッド・モリス
ジェフリー・ホワイト
アベル・ジョナサン
全員・・・好感度の高い人物だった—。




