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第36日目 逃げた花嫁?

 どのくらい眠っていただろうか・・・。


「エリス、エリス・・・。」


誰かが、私をユサユサと揺すぶっている。


「う〜ん・・・あと5分・・・。」


「何言ってるの?ほら、仕事だってば。」


何者かが私の布団を引き剥がそうとしているが、そうはさせじと私も目をつぶりながら布団にしがみ付く。

その直後・・・。


「こらっ!アンッ!何をしているんだーっ!」


「キャアアアッ!」


部屋中に響き渡る大きな声と悲鳴で、眠っていた私の頭は一気に覚醒した・・というか、それ以前にあまりの驚きで心臓が止まりかけ、永遠の眠りにつくところであった。


「な・な・何なのよっ!今の騒ぎはっ!!」


思わずガバッとベッドから起き上がると、そこにはアンと・・・満面の笑みを浮かべたトビーがベッド脇に立っていた。


「え?え?アン・・?それにトビー迄・・一体どうして此処に・・・?」


2人を交互にキョロキョロと見ると、アンが口を開いた。


「エリスが昨日、『アルハール』から戻って来たって話を聞いて、今日から仕事に来るのかと思ったのに、やって来ないから迎えに来たんだよ?そしたらトビーが・・・。今日1日エリスを休ませてやれって・・・。」


アンが私に説明する。おおっ!そうか、ナイス!トビーッ!


「ああ、そうだ。俺のエリスは長旅で激しい戦いも繰り広げてきたのだ。当然お疲れだから休ませるのは当然だろう?」


トビーは至って大真面目にアンに説明する。その俺のエリスって言うのが・・・少し気に入らないが、そこはスルーしておこう。


「ええ〜っ!もう何日もエリスが抜けて仕事が回らないんだけどーっ!」


ああ、そういう事なら・・・。


「ごめん、手が足りないんだね?だったら私も働くよ。」


するとトビーがさり気なく私の両手を取ると言った。


「ああ、いいんだよ?僕の愛しいエリス。君はずっとイバラの道を歩んできたんだ。だから今日位は仕事を休んでいいんだよ?」


「え?本当ですか?私、今日はお休みしていていいんですか?」


「ああ、勿論だよ、エリス。」


気持ち悪い位甘ったるい声で囁くトビーの言葉に全身鳥肌を立てながらも何とか平常心を保つ私。頑張れ私、負けるな私。


するとトビーの言葉を聞いて再びアンが言う。


「ええ〜っ!いいなあ・・・それなら私も休みたいですっ!」


「煩いっ!アンッ!お前は今日1日仕事だっ!大体日頃からお前はサボる事ばかり考えて、そのくせ厨房ではつまみ食いばかりしやがって。お前は今日は1日掃除だっ!早く行って来いっ!ちなみに俺も今日は仕事を休むと仲間共に伝えて来やがれっ!」


トビーの喚き散らす声にアンは悲鳴をあげながら走り去って行く。しかし、なんとまあ、暴君ぶりを発揮するのだろう・・・?

そして、アンが部屋を去った後・・・。


「あの〜トビー。」


「うん?何だいエリス?」


これでもかと言う位トビーは鼻の下を伸ばし切って私の両手をしっかりホールドしながら見つめている。


ゾワゾワゾワッ!!


背筋に悪寒が走って来た。


「あのですね・・・私・・・着替えたいんですけど・・・?」


するとトビーが慌てたように言った。


「あああ!そ、そうだったね?ごめんよ、エリス。実は何時も頑張っている君にご褒美にドレスを買ったんだけど・・・どうせ着替えるなら、どうかこのドレスを着てはもらえないかい?」


トビーはおずおずと紙袋を差し出してきた。


「え・・?私にドレスのプレゼント・・・ですか・・?」


すると、トビーは顔を真っ赤にしてコクンと頷く。と言うか・・・何故そんなに顔を赤くしているっ?!

ううう・・嫌だ嫌だ受け取りたくない・・・受け取りたくないが、断ろうものなら、トビーの事だ。

何故なんだいっ?!エリスゥッ!!

と泣き叫びそうで、そっちの方が10倍嫌だ。


「わ・・分かりました。ありがたく受け取らせて頂きます・・・。」


紙袋を受け取るとトビーは途端にパアッ!と満面の笑みを浮かべると言った。


「それじゃ、僕は外で待っているからね?着替え終わったら僕の前に姿を現しておくれ?」


そして扉は締められた―。



「フウ・・・全く朝っぱらから何なのよ・・・。」


 時計を見ると朝の8時を回っている。しかしトビーの奴め・・・リーダーなのにこんな所で油を売っていてもいいのだろうか?ただでさえ、ここエタニティス学園はブラックまみれの職場環境だ。人数は少ないし、仕事は山積み、挙句に拘束時間があってないような勤務時間・・・。給料が良いか悪いのか判断は出来ないが、私の感覚では労働時間と対価のバランスが取れていないように感じる。


「仕方ない・・・煩いから早く着てしまおう・・・。」


紙袋から出すと、現れたのはなんと真っ白のワンピース。


「へえ〜・・・トビーのくせにいい趣味してるんじゃない?」


言いながら私はドレスを着替え始めたのだが・・・。


「うわっ?!何、このワンピース・・豪華すぎる。レースがふんだんに使われている!ええ・・?すごい、裾がこんなに広がってる・・フリルすごっ・・!え?ヒールも付いてるの・・?」


取りあえず着替えて鏡の前で立ってみたが、どうにもこのドレス姿を見てみると、あるイメージが湧いてきて仕方が無い。いやいや、それよりももっと恐ろしいのは・・・。


「し・・信じられない・・・。ワンピースのサイズどころか靴のサイズまでぴったりなんて・・・。」


私は心底トビーが恐ろしくなってきた。あの男、いつの間に私の足の靴のサイズどころか、3サイズ迄把握していたのだろうか・・・。


「でも・・まあ、いいか。このワンピース・・中々素敵だし・・・。」


鏡の前でクルリと一回転してみる。うん、この真っ白なワンピース、色白でブロンドヘアーのエリスにピッタリじゃないの。

その時、部屋のドアがノックされた。


「僕の愛しいエリス。ドレス着替えてくれたかな?」


「はい、着替えました。今ドアを開けますね。」


甘ったるいトビーの声が部屋の外から響いてくる。だれが僕の愛しいエリスだっ?!

心の中で文句を言いつつ、私はドアをガチャリと開けた。


すると・・・。


「あああっ!やっぱり僕の見立てた通りだっ!エリスゥッ!素敵だ!とっても似合っているよ。よし!それでは早速出掛けようっ!」


トビーは言いながらギュッと私の左手をホールドして離さない。


「えええ?!出掛けるって・・一体何処へ出掛けるつもりなんですかっ?!」


「フフフ・・・それは内緒だよ?ついてからのお楽しみだ。とってもサプライズな・・・ね?」


物凄ーく意味深な事を言って来るトビーに何故か一抹の不安を感じながら、私は心の中でどうやってトビーをまいてこようか、その事だけを考えてやむなく出掛ける事を承諾してしまった・・・。



「エリス、こうして2人きりで何処かへ出掛けるのは初めてだねえ?」


「はあ・・・そうですねえ。」


適当に相槌を打ちながらトビーに半ば拉致?される形で私はエタニティス学園の敷地を2人で並んで歩いている。

それにしても・・他の学生達の視線がさっきから痛くて堪らない。皆ひそひそとこちらを見ながら何か囁いている。ああ・・・やっぱりこのドレス派手過ぎなのかもしれない。

歩きながらトビーが突然尋ねて来た。


「そう言えば、オリバーは役に立ってくれたかい?」


「へ?」


「ほら、『アルハール』まで同行してくれた僕の友人だよ。」


ああ!そうだっ!色々な事があり過ぎてオリバーの事をすっかり忘れていた!


「冗談じゃないですよっ!オリバー様のせいでどれだけ大変だったと思うんですかっ?!肝心な時にはいなくなるし、挙句に変な物に取りつかれて私は危うく襲われそうになったんですよ?!」


「な、何だってっ?!オリバーの奴がエリスを襲っただってっ?!」


トビーの顔色が変わる。


「な・何て奴だ!よし、エリス。僕に任せろ。もう二度とエリスの側に近寄るなと言っておくからっ!」


「それは頼もしいですね、ぜひともお願いしますよ。」


言いながらチラリとトビーの好感度を確認すると・・・ジワジワと好感度ゲージが現れ・・・私は思わず吹き出しそうになった。

な、な、何なの・・・?一体これは・・トビーの好感度が・・・イヤアアアッ!450になっているっ!まずいまずいまずい!


それに・・今更ながら思ったが・・・私の着ているワンピースって・・・真っ白だし、レースも凄い・・。これって・・・まさか・・ひょっとして・・。」


ブツブツ考え事をしながら腕を引かれて歩いていると、突如トビーが立ち止まった。


「さあ、着いたよ、エリスッ!」


「え・・・?」


言われて顔を上に上げて、私は目を見開いた。何とそこは教会では無いかっ!


「あ、あの・・・ま・まさか・・・?」


するとトビーはポッと頬を染めると言った。


「エリス・・・僕と今日ここでけ・・。」


トビーが最後まで言葉を続ける前に私はドレスの裾をたくし上げると脱兎の如く逃げ出した!


「イヤアアアンッ!!」


あまりにもパニックになった私は気付けば妙に色気のある声を出して逃げ出していた。嫌だ怖い怖い怖い!トビーが恐ろしいっ!


「エリスゥッ!!待っておくれよ!」


ギャーッ!トビーが追いかけて来たっ!


か、かくなる上は・・!

咄嗟に私は建物の影に隠れると、液晶画面に触れて魔法の絨毯を取り出すと言った。


「MJよっ!ど・・・何処でも構わないから何処かへ飛んでっ!!」


私の命令と共に・・ヒュンッ!!と音を立ててMJは飛んだ—。





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