第36日目 私は女優?
『おはようございます。36日目の朝がやってまいりました。<白銀のナイト>達の攻略を今すぐ始めてください。』
「は?」
何故かは分からないが、私は強制的に起こされてしまった。しかも明け方前の4時に・・・。目の前には例の如く液晶画面が浮かんでいる。
「ふ・・・ふっざっけないでよ~っ!!」
ガバッと飛び起き、液晶画面目掛けて枕を投げつけてやる。そしてそのまま枕は
私の顔面へと落下してきたのだった—。
「大体、何でこんな朝早くから起こされなくちゃならないのよ。皆まだ眠っているはずでしょ?」
ブツブツ文句を言いながら、腕時計のパネルを操作して『白銀のナイト』達の居場所をチェックしてみると・・・何と全員が一か所に集められているでは無いかっ!
「え?う・・嘘・・・・な、何で・・?これは・・ひょっとしてこのゲームを作った上層部がサービスしてくれたのかな?」
取りあえず私は急いでメイド服に着替えると、まだ夜も明けきらない夜の園庭を走りぬけ、白銀のナイト達がいる場所へ向かい・・・固まった。
「エ・・?更衣室・・?」
私は頭を抱えてその場にうずくまってしまった。・・・やってしまった・・・。
震える手で液晶画面を再度タップして見ると、確かに場所は『白銀のナイト』用の更衣室をさしている。
「思わず更衣室に迄来てしまったけれども・・。夜明け前にこんな所で待っていたら痴女扱いをされてしまうかもしれないわ・・・。」
取りあえず、帰ろうと思った矢先・・突然ドアがガチャリと開けられ、中から『白銀のナイト』のアベルが出て来た。彼は正式な衣装を着用している。
う~ん・・・相変わらずこの騎士の制服は格好いい・・・。
等と思っていると、私よりは背が高いアベルが嫌みな笑顔で見下ろすと言った。
「おやあ~誰かと思えばチビのベネットじゃないか?お前、何しにこんな所に来てるんだよ?」
おおっ!こ、この塩対応ぶりは・・半端ではないっ!一体彼の今の好感度は・・・見上げた瞬間に思わず絶句してしまった。恐ろしい事にアベルの好感度はゼロになっているではないかっ!
「そ、そんな・・・。」
あまりのショックで、思わず目じりに涙がうかんでくる。すると何を勘違いしたのか、アベルが後ずさった。
「な、な、何だよっ!と、突然泣きそうになって・・・。」
その時、私は見た。アベルの左胸にヴィータのブローチが付けられている事に。
ま、まさか・・・。
「何だよ、アベル。入口を塞ぐな。出られないじゃ無いかっ!」
押し分けて出てきたのはジェフリー。彼の左胸にも同様にヴィータのブローチが縫い付けられている。
「何だ?ベネット・・・お前どうしてここにいるんだよ?」
やはり彼も冷たい瞳で私を見る。もしや・・・この展開は・・?
さらに出てきたのはエディ、エリオット、フレッドにアドニス、最期にアンディが外へ出て来ると全員が私を不機嫌そうに見ている。
そして私の予想通り全員が左胸にヴィータの守りを身に着け、好感度も全員がゼロである。
ああ・・・間違いない。これから『白銀のナイト』達は死を覚悟して命を懸けた激しい戦いに赴くのだ。
『白銀のナイト』達が左胸に付けているヴィータと呼ばれているお守り・・。
このお守りはゲーム中でもラストに出て来る邪神との戦いの時に自分達の死を覚悟した彼等は生命をつかさどる神、ヴィータの守りのブローチをそれぞれの左胸につけ、聖女の力を身に宿したオリヴィアと共に戦いに赴いた。
そして激しい死闘の末・・・彼等はついに勝ち、死にゆく大地を守った。その代償としてオリヴィアは聖女の力を失ったが・・『白銀のナイト』全員に愛されて・・この世界のオリヴィアは女版ハーレムを・・・・っ!てそんな話はもうどうでも良いが、つまり彼等はこれから勝てるかどうかも分からない戦いに向かうという事なのだっ!
「全く・・・、これから生きるか死ぬかって戦いに行かないとならないのに、最期の時によりにもよってお前に会ってしまうとはな。」
フレッドは面倒くさそうに言う。
「あ~あ・・。こんな時に君が現れるなんて・・ほんと最悪。縁起が悪すぎるよ。」
アドニスは冷たい瞳で私を睨む。
「おい、俺達は忙しいんだ、お前に構っている暇はないんだ。」
エリオットは不機嫌そうに言う。
「・・・。」
エディは黙って睨み付けている。するとアンディが口を開いた。
「何か俺達に用事があって来たんだろう?要件は何だ?早く言え。」
白銀のナイト達全員から白い目で見られ、彼等の好感度は全員ゼロ。
おまけに今から彼等は生きて帰って来れるかも分からない戦いに行く。
そんな・・・ここまで来たのに・・・私はこの滅茶苦茶なゲームシステムのせいで、一生ヴァーチャル世界から抜け出せなくなってしまうのだろうか・・・?
必ず元の世界に戻って、「株式会社 アースプロダクツエンターテイメント」に制裁を与えてやろうと思ったのに・・・。こんな志半ばで・・・。
思わず目頭が熱くなり、俯いた。
「おい・・・?ベネット・・お前・・泣いているのか・・?」
すると頭上でエリオットの声が聞こえて来た。そこでエリオットを見ると・・
おおっ?!奇跡が起こったのか?!それとも見間違いでは無いだろうか・・・?なんと彼の好感度がゼロだったはずが50迄回復したのである。
ま、まさか・・他の『白銀のナイト』達を見るとやはり彼等も好感度が50回復していた。どうやら彼等は完全に私の涙の意味を勘違いして捉えてくれているようだ。それなら・・これを利用しない手は無いっ!私は顔を上げると一世一代の演技に出た!
「はい、そうです。お恐らく皆さんが『白銀のナイト』の正装の姿で、胸にヴィータの守りのブローチを左胸に付けていると言う事は・・・これからとても危険な戦いに挑むわけですよね・・?それで・・・つい・・涙が・・グスッ・・。」
俯きながら声を震わせて渾身の演技力で訴える。
「エリス・・・。お前、そんなに俺達を心配しているのか・・?」
フレッドの口調が変化して来た!よし、もう一押しっ!
「はい。なので皆様に私からのプレゼントをお渡ししたいのですが・・・どうか受け取って頂けないでしょうか?『マターファ』と呼ばれる迷宮に入り、モンスターを討伐して、私が手に入れて来たものです。」
言いながら、袋の中から光り輝く魔鉱石を取り出した。
「ああっ!こ、これは・・!」
アドニスが驚く。
「ま・・・魔鉱石じゃ無いかっ!」
エディは食い入るように魔鉱石を見た。よし、いい感じだっ!このまま一気に彼等を攻め落とすっ!
「はい。何度も命の危機に遭いながらも・・皆様を思い、魔鉱石を採掘して来ました。この魔鉱石があれば・・きっと戦いに役立てるでしょう。どうか・・受け取って頂けないでしょうか・・?」
そして目をウルウルさせながら、彼等に魔鉱石を手渡して行く。勿論手渡すときには一言添えるのを忘れない。
アンディには
「お願いです、死なないで下さい」
アベルには
「お帰りをずっと待っています」
エリオットには
「生きて帰って来てください」
フレッドには
「どうぞ、御武運を」
アドニスには
「無事をお祈りしております」
エディには
「勝てる事を信じて待っています」
ジェフリーには
「無事に帰ってこれたなら最高のトランプマジックを披露しますね」
色々な言葉を言いつくして、最期のジェフリーには何やら変な言葉を送ってしまったかもしれないが・・・・・でもこれで私に対する彼らの好感度がうなぎ上りに上昇したのは言うまでも無かった。見たか、私の名演技を―。