第35日目 奪われた魔鉱石 ②
「さあ、ベソッ!ノッポッ!こうしちゃいられないわっ!すぐにオリバーを探さなくちゃっ!」
2人の服の裾を引っ張って立たせようとすると・・・。
「い・・・嫌ですっ!」
ベソが私の手を振り払った。
「俺達はついていきませんっ!エリスさん1人で行って下さいよっ!お得意でしょ?ウィルス駆除ならっ!」
ノッポは言いながらテーブルにしがみ付き、まるでてこでも動かないぞと言わんばかりの態度を取る。
「はあ・・?何言ってるのよ、2人とも。皆で行った方が良いに決まってるでしょう?オリバーの腕前が実際、どのくらいのレベルなのかは分からないけど、本人は自分の事を学園の騎士団長を務めているって言ってたのよ?オリバーの身体に潜んでいるウィルス駆除の前にばっさり殺られちゃったらどうするのよ?」
少々脅しの意味を込めて言ったのだが、どうやらそれが返って逆効果だったようだ。
「ひええええっ!殺るって・・・どういう意味ですかっ!!」
ノッポが叫ぶ。
「そんな事聞かされたら、ますます行くわけ無いじゃないですかっ!!」
ベソが半べそで喚く。
「あ・・・貴方達っ!私がゲームクリアの前に死んでしまったらどうするのよっ!もし私に何かあったら、貴方達だってねえ・・・永久にこのゲームの世界からでられなくなるのよっ!」
すると・・・
「いいですよ、もう・・・。」
フッと笑みを浮かべるノッポ。いやいや、何故この場面で笑みを浮かべる?!おかしいでしょう。
「ええ。もう最近はこの世界も悪く無いかなって思うようになってきましたよ。昨日の焼きガニは最高だったし・・・。」
何処か悟りを開いたかのような顔つきのベソ。じょ・・・冗談じゃないっ!私は死ぬつもりも無いし、この世界に残りたいという気持ちだって微塵も無いのだ。
「だってノッポ!貴方は読みかけの漫画が残っているんでしょう?それにベソッ!貴方は全巻制覇していないDVDのドラマが残っているって言ってたでしょっ!」
すると・・私の話を聞いた直後にベソとノッポの目に強い力が宿って来た・・・気がする。
「そうだった・・・俺にはまだやり残したことがあるんだ・・・。」
ベソが言う。
「ああ、そうだ。こんな所で弱音を吐いている場合じゃ無かったんだ。俺達はこんな所で終われないんだっ!」
拳を握りしめるノッポ。おお~2人が・・・燃えているっ!
「よしっ!それなら皆でオリバーの元へ向かうわよっ!」
「「はいっ!」」
こうして私達はオリバーの元へと向かった―。
「ねえ・・本当にこんな場所にオリバーがいるんですか・・・?」
ノッポがビビりながら私を見下ろした。
「そ、そんな事言ったって・・・コンピューターウィルスの場所はここをさしてるんだってばっ!」
私は2人に腕時計の液晶画面を見せた。
「俺達、これじゃ随分場違いな姿じゃないですか・・。」
ベソが情けない声を上げる。
うん。確かに今の私達は、はっきり言えば場違いな姿をしている。私の格好はまだ多少マシだとしても、問題なのはベソとノッポだ。だって2人供半袖シャツに麻のズボンで暑さ避けにフード付きマント姿なのだから。そして私達の目の前にはカジノが聳え立っている。
「と・・取りあえず、中へ入れるかどうか確認してみようか・・・?」
私は2人を促した―。
「駄目です。お引き取り下さい。」
受付にいた燕尾服の男性は私達の格好をチラリと見るとにべもなく断って来た。
「そ、そんなっ!」
「何故駄目なんですかっ!」
ベソとノッポが必死にすがる。
すると受付男性はチラリとベソとノッポの服装を見ると言った。
「大体・・・見るからに貧乏人な格好をしているあんた達がこの店で遊べるほど、この店は敷居が低い訳じゃねーんだよっ!分かったら、とっとと帰りなっ!」
おおっ!客としてカジノへやって来たのに、この客を客ともみなさない、上から目線的な態度っ!まるで堅気の店ではない怪しさで溢れかえっているでは無いかっ!
結局入口で追い返された私達はすごすごとその場を後にして、路の端っこで話し合いを始めた。
「どうするんですかっ!エリスさん!中に入れないとどうしようもないですよ?」
「そうですよっ!このままじゃ・・・タイムオーバーになって、お・俺達は全員・・・。」
ベソとノッポが交互に言いたい事を言って来る。
「ちょっと、落ち着きなさいってばっ!ようは正装をすれば良い訳でしょう?!」
私の言葉にベソが涙目で言う。
「何処にそんな衣裳を買うお金があるって言うんですかっ!いいですか?エリスさん。ここ『アルハール』は滅茶苦茶物価が高い国なんですよ?ここは金持ちが住む国なんですからねっ!」
「う~ん・・そう言えば確かに・・・どうしようかなあ・・・。」
腕組みをする私。・・・よしよし、彼等はまだ私が持っている魔鉱石の存在を忘れているな・・・。2人には悪いけど、この魔鉱石は何としてでも死守しなければっ!
すると私のそんな様子を黙って見つめていたノッポだが・・・とんでもない事を言って来た。
「そうだっ!いい事を思いつきましたよっ!エリスさんが直々にタリク王子にあのカジノに入らせて貰いたいとお願いすればいいんですよっ!幸いタリク王子は何処が良いのか分からないけど、エリスさんにべた惚れなんですからっ!」
「ちょとぉっ!何処が良いのか分からないは、余計な言葉でしょうっ?!でも断固としてお断りだからねっ!タリク王子にお願いしたら絶対に何か要求を突き付けて来るに決まってるじゃないのっ!」
「いいじゃ無いですかっ!だったら言う事を聞いてあげればっ!別に減る訳じゃあるまいしっ!例えば、条件としてタリク王子からデートしたいって言われればすればいいんですよっ!」
ベソが強気な態度で私を見る。
「あ・・・貴方達ねえ・・・私にあんな間抜け王子とデートしろっていうの?!冗談じゃ無いわよっ!王子のくせにスライムを喜んで食べたり、食料としてサボテンばかり買って来るような、あのお間抜け王子とっ!」
その後、議論は20分程紛糾し・・・私達は今、タリク王子の住む宮殿へとやってきていた。
「いいですか、エリスさん。可愛らしくお願いするんですよ?」
ノッポが耳打ちしてくる。
「そうそう、こう・・・両手を前に組んで、上目遣いに相手をみつめるんです。ちょっと瞳をウルウルさせるのも良い手だと思いますよ。」
ベソが実演してみせるのだが・・・はっきり言って気色悪い。
私は溜息をつくと言った。
「はあ・・・・分かったわよ・・・。やればいいんでしょう、やれば・・・。」
そして私達は王宮の入口へと向かった―。
「そこのお前達、止まれっ!」
宮殿の入口で私達は2人の兵士に行く手を塞がれた。彼等は皆腰に長い剣を差している。するとベソとノッポが素早く私の後ろに隠れ、前へ押しだされてしまった。
こ、こいつらは〜っ!人を盾にする気かっ!
「何だ?女。この城に一体何の用事なんだ?」
背の高い兵士にじろりと睨まれ、思わずたじろぎそうになるも、何とか顔を上げて言う。
「はい、私はエリス・ベネットと申します。こちらの宮殿にいらっしゃいますタリク王子にお目通り願いたいのですが・・。タリク王子とは顔見知りなのです。」
「何?エリス・ベネットだと・・?お前、本当にタリク王子の顔見知りなのか?」
「は、はい!タリク王子に私の名前を出して頂ければ、すぐに分かると思いますが・・。」
私の話を聞いた2人の兵士はゴニョゴニョ何か話し合いをしていたが、やがてこちらを振り向いた。
「ここで待っていろ。今確認を取って来る。」
そう言うと、1人の兵士が城の中へと消えて行く。そして待たされる事約5分。
先程の兵士が戻って来た。
「確認を取って来た。タリク王子が会われるそうだ。ただし・・・女、お前1人で来るようにとの事だった。」
「ええっ!そ、そんなっ!」
何故だろう?タリク王子に1人だけ呼ばれるなんて・・・嫌な予感がする。果てしなく嫌な予感が・・・。そして助けを求めるべく後にいるベソとノッポを振り向くと、彼等は嬉しそうにニコニコしている。
「それでは、エリスさん。頑張って下さいね!」
「健闘を祈りますっ!」
ベソとノッポが交互に言う。
「あ・・あんた達・・・覚えていなさいよ・・・!」
そして、私は兵士に案内されて城の中へと入っていた。
ああ・・・気が重い―。