【虹、架け橋、宮殿をキーワードに書いてみた話】
【虹、架け橋、宮殿をキーワードに書いてみた話】
気が付くとオレは宙に浮かんでいた。理由は言わなくてもわかっている。だから、ここでは触れないでおく。
それを自覚したくないから。
でも、こうして浮かんでいても、仕方がないから、浮かんでいられる間に妻子の顔を見ておこうと、我が家へ向かうことにした。
我が家へ向かうと、妻がオレの為、そして、息子の為にと料理をしていた。いつみても、いつ食べても美味い料理を作る妻。そんな妻の存在が愛しい。だけど、もう抱き締めることが出来ない、もう会話をすることが出来ないもどかしさ。それらを感じ、虚無感がオレを襲う。
気が付くと、雨が降りだしていた。妻は雨の音が聞こえた様で、バタバタと洗濯物を家の中に取り込もうと動き始めた。
きっと、何時ものようにオレが帰ってくると確信している妻。だけど、オレの事が知らされるのことはない。だって、オレは一介の戦士だから。
こんなことになるなら、ちゃんと妻と話をしておけば良かったと後悔が襲ってくる。
(はぁー……)
ため息と後悔に押し潰されそうになるが、雨が上がり始めた。きっと、虹が出る。オレの存在が完全に消えてしまう前に、妻と一緒に虹をみたい。
妻は虹が好きだから、きっと、何時ものように空を見上げるはずだ。だから、妻の側に行く。やはり、愛しい人の側は落ち着く。
(離れたくない……)
空には虹の架け橋が架かり、妻のうっとりとした声が聞こえる。
「きっと……、あの人も見てるわよね……」
その呟きを聞いたオレはいてもたってもいられなくなり、妻に抱きついた。
“大好き、愛してるよ。これからもずっと……。オレがいなくても自分をしっかり生きてくれ……!”
オレの想いが届くかはわからない。だけど、届くことを祈り、その場から離れた。だって、これ以上いたら、虚しさで、オレは消えてしまいそうになる。だから、オレは虹が架かっている方向を目指して、宙を漂うことにした。
“最愛の人……オレに愛をくれてありがとう……”
オレは空に架かる虹を頼りに宙を漂う。
しばらく漂っていると、空に宮殿の様なものが見えてきた。それに興味を引かれ、行ってみるとそこにはたくさんの戦士の仲間、そして、オレの親、祖父母達がいた。
「お疲れ様、よく頑張ったね」
「父ちゃん……、母ちゃん……。じっちゃん……、ばっちゃん」
ようやく会えた複数の愛しい人達に逢えたオレは何故だか、急に眠くなってきた。
「眠くなってきた……」
「大丈夫よ、私達がいるわ。安心して眠りなさい」
意識が遠退いていく。忘れたくないのに、大切な記憶がゆっくりと確実に消えていく。
「大丈夫だ、ワシらがお前にお前の事を聞かせてやるから……」
オレは意識を手放すまいと、母ちゃんの服を掴むが、掴めない。
「忘れ、たく……ない……、──」
その言葉を最後にオレは意識を手放した。
読んで頂きありがとうございました。