第ニ章23話 黒の神父
「おやおやおやぁ?これは一体、どういう状況ですかねぇ?」
黒いパンスネと跳ねた金髪、真っ黒な教会のローブを羽織った青年とも老人とも取れる不思議な空気の男が目の前の状況に対して口を開く。
倒れ伏し、ピクリとも動かない赤髪の青年と傍らに佇み睨みつけてくる銀髪の少年、その隣には顔を伏せた金髪の少女が座り込んでいる。
一見するだけで大体の状況は掴めるが、金髪の男はあえて少年に問い掛けた。
「説明してもらえますよねぇ、ユウ君」
「……その前にこっちの質問に答えて欲しい。俺とハヅキで受けた任務の内容が違っていた事についてだ。なんで俺には監視だけを命じたんだ」
「これはこれは……魔術適正や性格云々などを総合的に考慮して任せたつもりなんですがねぇ。というか裏切り者をわざわざ処分しに来た僕に対する労いはないんですかぁ?あぁ、悲しくて涙が……」
「……そうやっていつも、ハヅキにはこんな任務ばかりさせていたのか?言ったよな、ハヅキに余計な事をしない代わりに、俺が全て代役になるって約束だったはずだ。なのに何で、ハヅキがこんな……答えろ、キリス!」
怒りに打ち震え、犬歯を剥き出しにして吠えるユウは腰のホルスターから銃を抜き取り銃口を金髪の男――――キリスに突き付けた。
対して、銃を突き付けられたキリスは黒いパンスネを中指で正すと盛大に笑い出す。
「フフッ、ハハハハハハハハッ!」
「何が可笑しいんだ!?答えなければ……!」
「いやだって、おかしいでしょう?守っていたつもりが、実は守られていた。誰よりも愛していた肉親に、誰よりも憎まれていたなんて!答えてあげますよぉ、ユウ君。才能溢れる君と違い、君の妹は君が思っている以上に――――最初からドロドロに腐った醜い果実なんだってねぇ??」
「――――キリスゥゥウウウウウウウウッ!!」
腸が煮えくり返るほどの下卑た笑みを浮かべたキリスに、一瞬で血が沸騰するほどの怒りを抱いたユウが引き金を引いた。収束された水色の魔力が空気の壁を易々と貫き、魔力の弾丸が射出される。
体内魔力で生成された高純度の魔力弾は鋼の弾丸よりも堅く、鉄板すらも止める事は出来ない貫通力を以てして体内で弾け飛ぶ、グレネードの性質を持つライフルのような凶悪な弾丸だ。当たれば生物にとって致命傷となり得るだろう。
「そんな事より」
「がっ!?」
パチン!とキリスが指をスナップした瞬間、ユウの身体が唐突に床へ叩きつけられた。伴って放たれた弾丸も床に急降下し、大気がブレるほどの圧力の中を平然と歩き、キリスは床に這いつくばらせたユウの頭を踏みつけ見下ろしながら、
「何故、監視対象が死んでるのか説明しろと言いましたよねぇ?ユウ君??」
「ぎ、ぁ、ああああぁあああぁああぁあぁあああっ!!」
「ほらほら、早くしないと頭が潰れちゃいますよぉ?極上の憤怒を見せてくれた君へのご褒美として、十秒だけあげましょう。それとも、今ハヅキ君を処分すればもっと気持ちの良い憤怒を見せてくれるんですかぁ?あぁ、それもいいですねぇ??」
再びパチン!と指をスナップすると今度はハヅキの身体がゆっくりと床に押し付けられていく。じわじわと嬲り殺すように、ゆっくりとその加重は大きくなり、
「強いて言うならば……これまでの任務も彼女の身体も全て彼女が望んだことです。ほら、僕って優しいじゃないですか?だから力も才能も無い、肉体も精神も役に立たない肉塊に価値を付けてあげたんですよぉ。まぁそれもこれも君が血を分けてくれたおかげで、ね」
「なっ……んの、こと、だ……かはっ!?」
意味が伝わっていない事に心底呆れたのか、キリスは深々と溜息を吐き出す。そこで興味も尽きたのかユウの頭から足をどかし、懐から取り出した分厚い黒本を片手で開きながらユウの身体を座布団代わりに座り込む。
今にも身体中が弾け飛びそうな程の重圧の中で、まるで漫画を読むような気軽さでキリスは続ける。
「僕が気付いていないとでも思いましたかぁ?禁忌の最も奥深くへと手を伸ばし、その呪われた血すらも利用した忌々しいグレンフェル一族……ユークリスタス・グレンフェル・アルティスタ。ハヅキ君は確かアリーナという名前でしたっけ?酷い親ですよねぇ、生まれた時から偽名で呼ぶなんて」
「キ、リ、スゥゥゥゥゥウウウウウウッ!!」
ユウの怒号も虚しく、全力で圧力に抗うが身体は一向に起き上がれない。銃を握った右手は握り締め過ぎて指の筋が切れ血が滴り、身体中の骨という骨が今にも潰れてしまいそうになる。
それでもいい。この男に、何もかもを踏みにじるこの男に一矢報いる事さえできれば。
「殺してやる!お前だけは、お前だけはァアアアアアアアアッ!!」
「あぁ、怒っても無駄ですよぉ。君程度じゃ、泣いても喚いても天使が堕ちてこようとも、僕には届かない。無駄ついでにもう一つ言っておきましょうか」
パチン!と幾度目かのスナップ音の直後、ガキィン!と耳をつんざく衝突音が響き渡った。キリスの真上、ナイフを突き立てたシエルとソラの蹴りが薄い膜のような物に阻まれて一瞬動きが止まる。
「……っ!」
「く、そ……っ!?」
「茶番に付き合ってあげたのに、ただの騙し討ちとか……残念ながらそういうのもぜーんぶお見通しです。こう見えて、人類に負けるほど落ちぶれちゃいないんですよぉ」
身を翻した二人は離れた位置に着地するとそれぞれが構えた。同時に先程までユウの傍にあったハヅキとソラの姿がドロリと溶けて水に変わり、蒸発して消えていく。
舌打ちを吐き捨ててシエルを見れば全力で息を整えているにも関わらず、夥しいほどの冷や汗を流している。それは同時にソラの思考が間違いではないという決定的な証拠にもなってしまっていた。
結界――――異能を夢見る者、または幼少時代の時分であれば一度は想像した事があるであろう、プロテクターのように自分自身を覆いあらゆる攻撃から身を守ってくれるバリア。
だがそんなものは存在しない。厳密に言えば、一個人で結界を張るのは現代魔術では不可能だ。
神話時代に存在していたとされる結界魔術は現代に至るまで未だに一部分しか解き明かされておらず、膨大な魔力や言霊が意味を成さない複雑難解な術式、物理や魔力等の存在及び概念をランク付けし、それらを編み出した結界よりも下位に位置付けることで「触れる事はできない」「届かない」などの結果を生み出す世界の法則を捻じ曲げる禁忌に近しい魔術だからだ。
魔術という代物はあくまでも知性ある生き物が生み出した術である。よってロジックが解明されており、人の手中に収まらないものは生み出せない。
しかし、もしも神に等しい存在が魔術を生み出したとすれば――――
「嘘だ、有り得ない、こんな存在が、この世界に在ってはいけない……!こいつは……こいつの正体は……!!」
「人聞き悪いし、随分と察しがいいね。余計な事を言われると厄介だなぁ……君の声は音を失う」
ナイフを構えたシエルは続きを紡ごうと口を開けたり閉じたりするが、キリスが音波のように耳に響く言葉を発した瞬間、シエルの声が一切の音を発しなくなった。真空の檻に入れられたかの如く息遣いさえもかき消されてしまい、自身に起きた不可解な現象にシエルは喉を抑えて目を見開いている。
声の出せなくなったシエルを見て満足そうにキリスがゆっくりと立ち上がり、本を閉じて懐に戻すとソラに向かって優雅にお辞儀をした。
「よっこらしょ、っと……改めて挨拶をしよう、不知火 ソラ君。僕はB.Bに所属しているしがない神父、キリスだ。以後お見知りおきを……それと、君達のような正常な魂に僕が直接手を出す事はしないから安心して、ルールは守らないとつまらないからねぇ」
「…………」
キリスに最大限の警戒を示しながら、ソラは言われた言葉を頭の中で反芻する。ルール、正常な魂、そして自ら名乗った神父という役職。仮にも敵の言葉だ、信用するワケではないがこれらのキーワードと圧倒的な戦力差からある程度の仮説は立てられる。
しかし、ソラの思考を遮るようにキリスは言葉を続けた。
「おぉっと、ヒントを出し過ぎたかなぁ?今君の頭の中では仮説と推測が渦巻いているだろうねぇ、いつだって真理に喰らい付こうとするのが魔術師というハイエナだ。だから敢えて、目的だけを教えてあげよう……僕には楔が必要なんだ」
「……何の為に」
「そこまで話したらつまらないでしょぉ?どうせ、僕と君はこれから何度も顔を合わせる……楔に惹きつけられてね。ただ、一つだけ忠告しておくよぉ」
カツン、と革靴を鳴らしてキリスがゆっくりと近付いてくる。気を引き締め直し、一挙手一投足を見逃すまいと全力と集中するソラに対して、キリスは警戒する素振りすらも見せずソラの隣に並び立つと小さく耳打ちした。
「バハムートの加護は、人類を破滅へと導く――――クレナイに染まらないように」
どういう意味か、と問い返そうとした瞬間キリスがパチン!とスナップ音を鳴らすと、ドクン!と鼓膜を揺さぶる鼓動の音が部屋中に響き渡る。
同時に、ユウの身体を突き抜けて禍々しく膨大な魔力が炸裂し、目に見えるほどの赤黒い魔力の奔流が鞭のように部屋を暴れ回り絶叫が木魂した。
「――――あ、ぎ、がぁあああぁあアアアァアアアアアアァアアァッ!?」
「柊っ!?」
「双子の処理は君に任せるよぉ、生かすも殺すも君の好きにするといい。それじゃあね♪」
扉を開けるような所作でキリスが空間を掴むと、ロレナとの戦いで見た闇のように蠢く暗い穴が開き、手を振りながらその姿を消した。キリスがいなくなったおかげか、声を取り戻したシエルが叫ぶ。
「ユウッ!」
「ぎぃ、が…ア……に、ゲロ……二人、トも……制御、デキ……ない……ッ!!」
全身の血管が浮き上がり、痛みでうずくまるユウの瞳は狂気に揺れて色が反転していく。
見間違えるはずもない、アレは魔神の黒い魔力だ。しかしおかしい点が一つだけあった。ユウを蝕む黒い魔力は意思を持っているようには見えず、見方を変えればただ魔力が暴走しているようにしか見えないのだ。
今までの傾向として、あの黒い魔力は悪辣な意思を持って所有者を操り、害をなしてきた。だというのに、今目の前でユウを苦しめている黒い魔力は行き場を失って無作為に暴れているだけの膨大な魔力の塊、もしもあの黒い魔力が依り代を見つけたら――――
「ここで止めなきゃやべぇ、手伝ってくれ!!」
「……僕に命令しないでください、最初からそのつもりです!」
ソラとシエルが走り出し、一息に高く跳躍したシエルがナイフを逆手に持って飛び掛かる。迫る脅威へと明確な反応をした黒い魔力がナイフとぶつかりあり、鞭のようにしなるとシエルを一撃で壁まで吹き飛ばした。
同時にソラへ向かって茨のように尖らせた黒い魔力が何本も刺突される。深々と床を貫通する連撃を避けながら突貫するソラは方向転換し、シエルの落としたナイフを拾い上げユウへと再び向きなおった瞬間、
「がぎ、ぃぃいいぃ、ぐぅううぅうぅ……ッ!!」
ユウの身体がボコボコと波打ちその姿が変容を始めていた。手で抑えた顔から覗き見えるのは狼のような牙と獣の瞳孔、黒い魔力が更に解き放たれ、無数の尻尾のように腰から噴出するとユウが狼の遠吠えを上げる。
直後、数十本にも及ぶ黒い魔力が眼前に迫っていた。
「(死――――)」
死を覚悟した瞬間、時間がスローモーションで流れる感覚に襲われ、黒い魔力は残り数秒で身体中を貫いていくだろう。待っているのは激痛と無残な死に様、だがたった数秒で目の前の光景が様変わりする。
ドンッ!と強い衝撃にソラの身体が突き飛ばされる。先程まで倒れていた筈のシエルが、ソラを庇って棘の前へと飛び込んできていたのだ。刹那の一瞬、目があったシエルは音のない声でソラへと告げる。
友達を助けて、と。
ブシュッ!と破裂したような音が響き渡る。両手両足、腹部を黒い魔力の棘に貫かれたシエルの身体が床へと倒れていく光景に、目を見開いたユウが唇を震わせる。
「ア、ぁあああぁあ、ぁあああぁあぁああぁああああァアアアアァアッ!?!?」
友を自ら手に掛けた罪悪感、致命傷を負わせた感触、死に追いやった絶望、全ての負の感情がユウの中で増幅し爆発する。呼応するように黒い魔力が更なる膨張を行い、抗いきれなくなった負の感情の波にユウの意識は喰らい尽くされ、真っ暗な奥底へと突き落とされた。
魔神の魔力が、解き放たれる。
「柊ぃぃいいいいいいいっ!!」
轟ッ!と激しい衝撃波はソラの声をかき消し、全ての魔力が解き放たれた魔神の魔力が繭のようにユウを包み込むと施設内の至る所へと魔力の糸を伸ばし、脈動を始めた。
次いで、魔力を求めているのか繭から無数の糸を伸ばすと倒れたシエルへと突き刺そうとするがソラが間一髪の所で抱えて躱し、代わりに壁の奥まで吹き飛んで倒れていた白ウサギ達へと突き刺さる。
ドクン、と脈動する音と共に魔力だけでなく生命すらも養分として吸い尽くされ、骨となった白ウサギ達が灰へと変わり空気に溶けて消えていく。
魔術師を以てしても余りにも異常な光景に、ソラの身体は勝手に震え始める。それは恐怖のせいか、目の前の光景に対する恐れか。心が淀んだ時にこそ、試練のように負の連鎖は引き起こされる。
「あ、が……!?こんな、時に……!?」
身体中を激痛が走り回り、シエルだけは落とすまいと必死で抱え込み膝を付いた。加護の反動だ。
幸か不幸か、前回の右腕が折れる程の反動はただの激痛へと変わったが今の状況では身体が硬直する程の痛みこそが致命的だった。僅かな隙ですら命取りになりうる状況を見逃される筈もなく、魔力の糸が再びソラ達に狙いを定める。
「お前、ソラに何してるんだギャ――――!!」
轟ッ!!とレーザービームのような破壊の一撃が天井を突き抜けて繭に直撃する。地下十階層にもなる施設は外の空が丸見えになるほどの巨大な穴が開けられ、宙を漂う長い赤い髪の少女にソラは目を輝かせた。
「ムート!!」
「やっと見つけたギャ、勝手に遠くへ行くんじゃないギャ、バカソラ!」
フォン、と軽い音がしたかと思えばシエルごとソラの全身を魔力が包み込み、ボールのように引っ張り上げられ施設から飛び出した。浮かされるままムートを見れば人型になっており、脇には青ざめた顔の寮長が泡を吹いて担がれている状態だ。
「うぉおおおい!?寮長コレ大丈夫か!?ていうか降ろしてくれ!!」
「ギャ?静かだと思ったら何で気絶してるんギャ?」
地面に降り立ったソラ達がシエルと寮長を寝かせると、ムートの髪の中から桃色と紫色の縞模様の猫が二人の間に降り立ち、二股に分かれた尻尾で光魔術を二人へと施し始める。
「また会ったニャー、赤い髪の人」
「えっ?喋る猫と会った覚えは……あ、チェシャ猫か?」
「吾輩達もいるぞ、赤い君!よくぞ無事だったマイフレン……ぐほぉ!?」
「隣で騒ぐな、耳障りなのだよ」
続々とムートの背中から出てくるぬいぐるみのような不思議な者達に一瞬頭を悩ませたソラだが、束の間を引き裂くように轟音が鳴り響く。
消し飛んだかに思われた繭が、糸を触手のようにして這い上がってきたのだ。依然として消えない脅威にソラが警戒しようと身体を動かした瞬間、再び身体に激痛が走り倒れそうになる。
慌てて支えたムートは身体中が傷だらけになったソラを見て毛を逆立たせ、怒りで漏れた魔力の重厚さによって大気が震撼し、その場に居たチェシャ猫達の喉が一瞬で干上がる。
ムートは元凶であろう繭を睨みつけてソラに問い掛けた。
「アレのせいギャ?ブチ殺してくるギャ」
「殺すなって……あの中に、柊がいるんだ。助けてやらないと……!」
満身創痍になりながらそれでも誰かの為に手を伸ばすソラと、怒りに猛り狂った我が身を比べてムートは恥ずかしいやら誇らしいやらの複雑な感情に震えながら、拗ねたように顔を背けた。
神々によって方向性は様々だが、基本として清廉な心や他者を想う崇高な行いは神々にとっては宝石よりも美しく、世界中の感動すらをも凌駕する甘美さを感受してしまう。
だから仕方ない、仕方が無いのだと、ムートは自分の手首を噛んで血を流すとそれをソラの口元へと運ぶ。
「バハムートよ、それは……!」
「うっさいギャ芋虫!そうしたいから、やってるんだギャ!黙ってるギャ!!」
「え~っと、ムートさんやこれは一体……もがぁ!?」
質問を遮ってムートが無理矢理口へと押し付けると、勢いのままにムートの血が口の中を転がり込んできた。ゴクン、と飲み干した瞬間身体中を焼かれるような熱が全身を駆け巡り、指先から髪の毛一本一本にすら生命が宿ったような充足感に満ちていく。
視界が揺れ始め、舌の上をこの世の物とは思えない甘美な味が広がっていき、意識が酩酊し始める。思考が鈍くなっていくのとは裏腹に、身体を見渡せば煙を立てて傷が癒えていく。
「ソラとの繋がりをもっと強くする為の儀式ギャ。気にしなくていいギャ……」
「ムート、俺も……」
ソラを優しく寝かせると、朦朧とした意識の中でソラは手を伸ばす。母親の如く優しい笑みを浮かべたムートは手を握らず、立ち上がって繭へと向きなおると再び怒りを爆発させた。
「ソラは私の家族ギャ。加護と血を分けた……最早同族と言ってもいい存在ギャ」
轟ッ!!と膨大な魔力が解き放たれ、再び世界を震撼させる。木々は泣き、大気が震え、環境魔力がムートの魔力に浸食されて空の色が紅色へと染まっていく。
龍の始祖、神龍バハムートが力の一端を開放し牙を剥いた。
「よくもソラを傷付けてくれたギャ――――その魂、燃やし尽くしてやる」
我が子を守る母龍の如くムートはソラ達の前に立つと、怒りに満ちた龍の瞳が繭を射抜き、右手を繭へと翳す。周囲の環境魔力を吸い上げ、甲高い音をかき鳴らして収束された破壊の一撃が轟ッ!と放たれる。
超高速且つ超高圧力によって放たれた一撃が繭へと直撃、貫通していくと着弾した数百メートル先で巨大な爆発が巻き起こり、鼓膜を揺さぶる爆発音の後に遅れて衝撃波はやってきた。風圧だけで木々がなぎ倒されそうになるほどの衝撃にチェシャ猫達はソラ達の身体にしがみついてやり過ごし、一撃を見舞ったムートに恐れを抱いた目を向ける。
「アホ猫、ソラ達を見てるギャ。傷一つ付けたら承知しないギャ」
「は、はいニャ!」
慌てて返事をしたチェシャ猫に見向きもせず、ムートは繭を凝視する。確かにブチ抜いた筈の繭は壊されるのを待っていたのか、空けられた穴を起点にヒビ割れ、繭という姿その物の役割を果たす。
まるで闇の中から這いずり出るように、まるで暗黒の中から産み落とされるように、災厄の忌み子が生まれ堕ちる。
顔を覆い尽くす禍々しくも奇妙な仮面、黒い魔力で象られた無数の尾と、鉄さえも切り裂きそうな爪と化した指。頭には龍に似た猛々しい角が二本生えており、悪魔と獣人族が融合したような異形が産声の怒号を上げた。
「グルァアアアアアァアアァアアッ!!」
魔神と神龍の凄惨な戦いが、始まる。




