はらぺこねずみ
深夜2時半。チャ、チャ、チャ、という音で目が覚めた。まるでフローリングの上を小型犬が歩いているような…いや、もっと小さい。ねずみだろうか。そんなことをうつらうつらとした頭でぼんやりと考える。床に爪が当たって、小さな音が不規則に鳴っているのだろう。そうか、ねずみか。意識が再び沈んでいくのを感じながら、ふと、どこから入ってきたのだろうかという思いが頭に浮かび流れていった。
あるアパートの一室で、床板の上を歩く一匹のねずみがいた。時折り鼻を上げて、くんくんと空気の匂いを嗅ぎながら、あっちへ行ったり、こっちへ行ってみたり、ふらふらと何かを探している様子だ。
部屋の中はとても暗い。遮光カーテンで光を遮られている。月の光さえ入ってこない。それでもこの程度の暗闇は、ねずみには慣れっこだった。台所の下の床下収納。そこがねずみの寝ぐらだった。部屋の住人が寝静まった頃、ひっそりと食べ物を失敬しにくるのが常だった。
ここの住人は料理をしない。コンビニ弁当やおにぎり、惣菜パンに菓子パン。全て食べきって、残飯などほとんど出さない。そのせいで、ねずみはいつもお腹を空かせていた。
部屋に出る小虫やらを捕まえて食べることもあるが、それでもよそのねずみよりひとまわりも小さく骨ばっていた。必死に食べるものを探す様子には、鬼気迫るものがあった。両の手を上げ立ち上がり、身体をそらせて臭いを嗅ぐ。目はぎょろついて、あちらこちらに視線を飛ばしていた。
部屋中を探し回ったが、今日もパン屑の一欠片すら見つけられなかった。
布団の上で眠る大きな生き物。まだ生きている。
空腹に耐えかねて、それにがぶりと噛み付いた。