星の名前(三十と一夜の短篇第47回)
少年が立たされた崖はまっすぐ海へと落ち込んでいた。
二台のパトロール・カーが強烈なヘッドライトを交差させるようにして、少年の姿を夜から切り取っていた。ボンネットによりかかった〈ヒゲの男〉たちが下品な冗談で誇るように笑うたびにパトロール・カーがギシギシと音を鳴らした。
バッジをつけた私服の男が少年の後ろ五メートルの位置に立った。サン・クリストバル機関銃に弾倉を差し込み、遊底を動かして、薬室に三〇口径弾を送り込むと、腰の高さで銃を構えた。
少年は裸足でつま先が崖から外に飛び出し、かかとと土踏まずでギリギリの位置に立っていた。彼は〈ヒゲの男〉たちに背を向けて、空の星を見上げていた。
前からは潮騒が、後ろからは〈ヒゲの男〉たちの下卑た冗談がきこえた。
少年が星を仰ぎながら夜の虚空へと一歩足を踏み出したそのとき、後ろの男が引き金を引いた。反復を続ける爆音が潮騒と雲を運ぶ風の音を掻き消し、少年は吹き飛ばされた。彼は落下し、崖の下で波を泡立たせていた磯にぶつかって砕け散った。
だが、彼が最後に見たのは満天の夜空にかかる、殺された恋人と同じ名前の星だった。