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ファーストキスもまだなのに、新婚初夜を迎えてしまった……

作者: ほしみ
掲載日:2020/01/04

TS転生モノです。苦手な方はご遠慮ください。

「新婚初夜なのに全年齢向け」というあたりから、内容はお察しください。

 結婚式が終わった。

 終わったはずだ……忙しすぎて、あんまり記憶に残ってないけど。

 でもって、今はアレクと二人きり。


 新婚初夜だ。

 大きなベッドが置いてある。


 ファーストキスもまだなのに、この日を迎えてしまったよ……

 アレクとの、仲は悪くない。

 むしろすごく良い方だ。

 手を繋ぐとか腕を組むとか、そういうことは、日常的にやってるし。


 途方に暮れて、アレクをじっと見つめた。

「そんな捨てられた仔犬のような目で見ないでくれる? いやならやらないからさ」

 アレクは苦笑した。

 俺は、うつむいてしまった。


「あ、そうだ。いいもの見せてあげる」

 ほら、とアレクは自分のお腹をちらっとめくって見せる。

「シックスパックだぞー」

「わぁ、すごい」

 思わず寄っていった。


「本物だ。ホントに六つに割れてるよ!」

 前世は貧弱な坊やだった俺。

 筋肉には弱いのだ。


「触ってもいいよ」

「いいの!?」

 なんて太っ腹な。


「やっと笑った」

 アレクは俺の頭をなでなでした。

「そんな緊張しなくていいからさ。十八で結婚なんて早すぎだっての」

「アレクー!!」

 なんていいやつだ。


 前世男子高校生だった俺は、貴族の女性に転生していた。

 アンジェリーナなどというこっぱずかしい名前をつけられ、毎日が生き地獄だ。

 そんな中、唯一の希望(オアシス)はアレクだった。


 アレクも前世の記憶持ちだ。

 前世はOLさんだそうだ。


 出会いは六歳のとき。

 子供向けのお茶会……という名の婚活パーティに強制参加させられた。

 お庭が見たいとウソをつき、はやばやと戦線離脱。


「婚活早すぎ。この年頃はランドセル背負うのが仕事だろ」と庭のすみっこでボヤいてたら。

「ランドセル!? 今ランドセルって、言った?」

 ものすごい勢いで食いついてきたのが、アレクだった。


 家族にも秘密にしていたことを、分かち合える。

 おまけに、TS転生まで一致。

 まさに僥倖(ぎょうこう)

 

 アレクは、俺と婚約したいと親に猛プッシュしたらしい。

 俺も、アレクが気に入ったと親に伝えた。

 とんとん拍子に話は進み、アレクは俺の婚約者となった。


「祝、婚活回避!」

 俺たちはハイタッチを交わした。


 さっさと婚約しといて良かった。

 こっちの人たちって、六歳から婚活をはじめるだけあって、グイグイ来るんだよ。

 ぼっちでいると、すぐさま声をかけられる。


「婚約者がおりますので……」(訳: こっち来んな)と言うと、大抵はあきらめてくれる。

 それでもくじけないヤツもいる。

 どんだけメンタル強いのよ。


 そういう時は、アレクが駆けつけてきて。

「オレの婚約者になにか?」(訳: 殺すぞ、テメェ)とやってくれる。

 (あね)さん、頼りにしてます!


「アンジェは可愛いからな。気をつけないと……」

「俺、可愛いの?」

「うん、かなり」


「可愛くなくなる方法って、ないのかな?」

「そう言うところがすでに可愛いから、無理だと思う」

 アレクは真顔で答えた。


 本当は、心のままに振る舞いたい。

 だけどさ、身分の高いお家なわけよ。

「俺」とか言いだしたら、頭の調子がおかしくなったと思われる。


 前世男だったんで、男と結婚なんて、絶対無理。

 そう思いながらも、中身が男だってバレないように、必死で女性らしくしている。

 だって、今世の両親も、身のまわりの人たちも、いい人たちなんだよ。

 迷惑は、かけられない。


 俺の猫の皮は、装甲並みだ。

 おかげで、ストレス溜まりまくり。

「ストレス解消に、身体を動かすといいよ」

 なんでもないことのように、アレクは言った。


「オススメはダンス」

「なんで?」

「必修科目みたいなもんだし、パートナーが必要でしょ」

「なるほど」


 ストレス解消にもなるし、アレクと一緒にいられる。

 一石二鳥だ。

 喜んだのも、つかの間だった。

 ものすごい壁があったのだ。


 俺、運痴なんだよ。

 前世もさ、マラソン大会で下から数えた方が早かった。

 生まれたての子鹿のように、よろよろしてしまう。


 どうしよう……涙目の俺に、アレクは力強く言った。

「大丈夫! オレがついてる」

 (あね)さん、カッコ良すぎです……


 俺と違って、アレクは運動神経抜群だった。

 前世は、ストレス解消に格闘技と筋トレにハマり、腹筋も割れていたそうだ。

「せっかく男に生まれたんだ。身体鍛えなきゃ損だよね。強けりゃ、アンジェにくっつく悪い虫も追っ払えるし」

 ポジティブ姐御(あねご)は不敵に笑う。


 アレクは、黒髪に瑠璃色の瞳。

 見つけるのは、簡単だ。

 アレクの行くところ、常に女子の人垣ができる。


 美形な上に、文武両道。

 明るくさっぱりとした性格で、女の子の扱いが上手いから、とにかくモテる。

 その気になれば、ハーレム作れるんじゃね? 

 いつも感心して眺めてしまう。


 しかし、アレクは俺を見つけると、女子達とお別れしてすぐにこっちへやって来る。

 虫除けというか、用心棒的な役割を自任しているからだ。

 最初のうちは、女子(ファン)達に恨まれるのではないかとびくびくしていたが。

 婚約者を大切にしているところが、またステキだと高評価らしい。

 

 俺は亜麻色の髪と同色の瞳。

 それほど目立つ色合いではない。

 身体つきだって、セクシーダイナマイツなボディじゃない。

 なのに、なぜだか男子の視線を感じる時がある。


「アンジェは、ヤマトナデシコだからね」

 アレクがとんでもないことを言い出した。

「中身は男子ですけど!?」

「こっちの人たちって、基本肉食系だから。草食系が珍しいんだよ」

「そういうことか……」


 俺の「女の子」のイメージって、基本「日本女子」だもんな。

 しかも、男の理想っぽい、おとなしく控えめなタイプ。

 前世の俺も、ひっそりとしたモブキャラだったし。

 常時かぶっている猫の皮が、そんな誤解を招いていたとは。

 だまされている男子達よ、すまんかった……


 要介護状態だった俺のダンスも、アレクがつきっきりで指導したおかげで、数ヶ月もたつと形になってきた。

 どんなによろけても、アレクが助けてくれる。

 一曲通して、ちゃんと踊れた時は、抱き合って喜んだ。

 我に返ったとき、とっても恥ずかしくなった。

 アレクもなんだか顔が赤い。


 いや、これは友情だから。

 シュートを決めたチームメイトのところに、皆が駆け寄っていくイメージだな。

 一曲踊れたくらいで、大騒ぎしちゃったから、照れくさくなっただけ。


 踊る楽しさに目覚めた俺たちは、それからもダンスを続けた。

 すると、なんということでしょう!


 手と手をつないだだけで。

 アイコンタクトだけで。

 気持ちが通じ合うようになってしまったのです……

 びっくりだよ!! 


 サッカーで、面白いようにパスがつながるとかそんな感じ?

 まあ、ダンス限定だけどな。

 でも、便利なことこの上ないし、こうなるとすごく面白くなって。

 ふたりして、どこのダンス選手権に出るんだよってな勢いでがんばった。

 

 おかげで、ストレスが激減したよ。

 毎日よく眠れるし、ごはんが美味しい!

 身体の調子はばっちりで、お肌もすべすべツヤツヤです。

 

 そんなある日のことじゃった。

 両家そろっての顔合わせ。

 タンスばっかりやってたから、怒られるのかな、と思っていたら。

 婚姻の日取りが決まった、という知らせだった……


 親たちはドヤ顔だった。

 お前たちの気持ちはわかっている。

 ナイスアシストだろう。

 褒めてくれ。

 

 いやいやいや、違うから!!


「何故こんなことに……」

「アンジェ、婚約者って意味知ってる?」

 アレクはじっとりした目で俺を見た。

「結婚の約束をした相手……」

「そう。いつかは結婚するんだよ」

「いや、だけど、早くない?」

 俺ら、まだ十八だよ!?

「私もそう思うけど、こっちの世界の基準だと、適齢期なんだよね……」

 

 どっちの親もにこにこしていた。

 俺たちの生活態度は、使用人を通じて親に筒抜けだ。

 寝る時以外、ほぼプライバシーないからね。

 

 婚約者がいる場合、「節度ある交際」というのが重要だ。

 仲が悪いのは論外としても。

 逆に仲良しすぎても、問題があるらしい。


 貴族社会において、授かり婚は絶対にあってはならない。

 使用人達は、未婚の男女に間違いが起きないよう常に目を光らせている。


 その点、俺たちはダンスにハマってただけなので。

 健全も健全。

 いかがわしいことは何にもしておりません。

 でも、ふたり一緒でいる時間は格段に増えたし、誰が見ても仲睦まじい様子に見えたらしい。

 

 暇さえあれば、いや、どんなに忙しくてもなんとか時間を作って一緒にいる年頃の男女。

 品行方正で、使用人達を困らせることもない。

 しかも婚約者同士。

 もう結婚しちゃえば? って……


「アレクはどう思ってるの?」二人きりになった時に聞いてみた。

「これでアンジェのウェディングドレス姿が見れる!」

「え、そっち!?」 


 アレクは、ドレスやアクセサリーを選ぶのが大好きだ。

 女子と対等にファッションの話ができる上に、真剣に情報交換している。

 俺のアクセサリーのほとんどは、アレクからのプレゼントだ。

 本人いわく、俺に似合いそうなものを見つけると、買わずにはいられないと。

 前世は女子だからね。


 誕生日には、ドレスが贈られてくる。

 ドレスを選ぶアレクは、デザイナーと綿密な打ち合わせを繰り返す。

 情熱を傾けているってカンジだ。


 プレゼントされたアクセサリーやドレスを身につけると、アレクはすごく喜ぶ。

 その姿を見ると、ほっとする。

 アレクは、俺よりずっとしっかりしてて。

 こっちの世界に、すっかり馴染んでいるように見える。

 そんなアレクでも、しんどそうにしてたり、こっそりため息をついてることがあるのを、俺は知ってる。


 アレクは跡継ぎだし。

 覚えることも、やらなきゃならないこともたくさんある。

 ドレスやアクセサリーを見るのが、息抜きになってるんだろうな。


「アンジェは、どうなの?」

 逆に聞き返された。

 ウェディングドレス……か。

 正直、着飾ることに興味はない。

 だけど。

 アレクが喜んでくれるのなら。


「ウェディングドレスは、アレクが選んでくれる?」

「もちろんだよ!!」


 結婚式を挙げるまでは、怒涛の日々だった。

 ドレスの試着とか、ドレスの試着とか……

 いや、他にも色々あったよ。

 でもまあ、それは置いといて。


 俺のウェディングドレス姿は、アレクのみならず、他の人々も感動で目を潤ませるレベルだった。

「最高に綺麗だ。もう一生離さない」

 式が終わった後、アレクが俺を抱きしめて口走ったくらいだ。

 喜んでくれたのはうれしいけど、ちょっと……いや、かなり恥ずかしいぞ。


 結婚式を終えた後のことを、考えてなかった……わけじゃない。

 けど、越えなきゃならないハードルが高すぎる。

 キスのひとつやふたつ、やっとけば良かった。

 後悔しても、もう遅い。


 結婚式の日取りが決まって。

「静かなところで、話をしようか……」とアレクに誘われたとき。

 かなりドキドキしたよ。

 向こうも、ソワソワしている。

 腕を組みながら、ギクシャク歩いたよ。

 

 でもさ、アレクってイケメンで人気者だから。

 目立つんだよ!!

 静かなところにたどり着く前に、見つかっちゃう……


 ほんのちょっとだけなら、二人きりになる機会はあった。

 だけど、心の準備ってものがある。

 ファーストキスだよ?

 スキマ時間に、サクッと済ませるってわけにはいかない。

 お互いモジモジしているうちに、タイムアウト。

 ちなみに、前世の時にも、経験はありません……


 密室に、二人きり。

 今度という今度は、誰にも邪魔されない。

 新婚初夜だもんな……


 俺は勇気を振り絞った。

「「あのさ」」

 思いっきり、ハモった。


「先に言っちゃってもいい?」たずねると、アレクはうなずいた。

 俺は、ベッドの上で正座した。

 アレクも付き合って正座する。


「結婚してくれて、ありがとう。男の人に声をかけられて、困ってるとき、必ず助けに来てくれて、ありがとう。ダンスがド下手な俺を、見捨てないでくれて、ありがとう。俺なんかで、ホントにいいのかなって思うけど。これからも、末長くよろしくお願いいたします」

 三つ指をついて、お辞儀した。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 アレクも、深々とお辞儀した。


 お互い顔を上げたら、アレクがなんだか困ったような顔をして、こっちを見ていた。

「どうしたの? や、やっぱり俺と結婚は、やだった?」

「違う! 罪悪感がハンパなくて……」

「罪悪感……? もしかして、他に好きな人が……」

「全然違う!!」アレクはぶるぶる首を振った。

「そうじゃなくて、その、ダンスは、私にとって、ご褒美だったから」

 ご褒美!? 


「最初の頃、よくつまづいたでしょ」

「うん」

「助けるフリして、抱き寄せた。よろめいて、胸が当たるたびに、いいぞ、もっとやれ! とか思ってた。合法に見せかけて、セクハラしてました。すいません……」

 アレクは頭を下げた。


「ダンスが下手なのって、いいことだったんだ」

 低い声でつぶやいた。

 さらば、俺の黒歴史。

 まさかご褒美だったとは……


「俺が、アレクのご褒美って、すっごいうれしいんだけど……ホントに、俺でいいの?」

 半信半疑のまま、たずねる。

 女子の皮をかぶってるだけの、生き物ですが。

「アンジェじゃなきゃ、ダメなんだ」

 きっぱりとした答えが、かえってきた。


「そんなわけで、今日という日を、楽しみにしてたんだけど! 正直言うと、理性と本能が、今、戦ってるとこで!! 理性が消滅しかかってるけど、どうしたらいい!?」

「理性なら、迷わず捨ててくれ。新婚だし、解禁だから!」


「……いいの? ホントに!?」

「そこらへんは、俺も考えた。アレクの妻とか、やっていけるのかなって。でも、あんなにダメダメだったダンスだって、なんとかなったし。赤ちゃん産むのも、大丈夫かもって。こっちの世界は、ワンオペ育児もないし、保育園も探さなくても済むし! こ、婚活は早いけど……」


 言いかけた言葉は、アレクの唇でふさがれた。

「ゴメン、もう待てない」

 ですよねー……


 こうして、俺たちは、夫婦に昇格した。

 相性は抜群でした……


 心ゆくまで、シックスパックを触らせてもらったよ。

 お礼に膝枕をしてあげたら、「ダメだ、もうここから離れられない!」と、アレクは苦悶していた。


 もっと早くに結婚しても良かったかな? と思ったのは内緒だ。

お読みくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりTSは素晴らしいですね!アレク視点で読んでみたいです! 前世は女子ということは元々百合属性持っていたのか、それともTSして、徐々に思考が変わっていったのかどちらなのでしょうか? そこも…
[一言] TSものだと偽装結婚などもある中で、素敵な恋愛ものをありがとうございます
[良い点] TS異世界転生で相性抜群で(笑)、これはもう運命ですね。 可愛いお話で癒されました。 ありがとうございました。
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