セレンの二択
結局カノン達が食べ終わるまで知恵を絞ってみたのだが、まともなアイディアは浮かんでこんかった。
カノン達三人は、どうせ強制送還を実行するにしてもアインが起きてからだという結論になっていたため、食べ終わるとお金を払って酒場を出た。
そしてそのままギルドを出て、町を歩いている。
「……何処に?」
「武器屋だよ。リーゼさんの刀の鞘の修理ができないかって」
「……?」
カノンがそういうとセレンが不思議そうにリーゼが腰にしている刀を見る。
あぁ、確かに珍しいかもしれないな。
『そういやセレンは武器はどうしてるんだ?買えるとは思えないが……』
「……ギルドで…」
「ギルドで貸してもらってたんだって。今日だけみたいだったけど」
『なるほど、因みにどんな武器を使うんだ?』
「……斧」
「戦斧ね…」
何で言葉は通じるのに通訳が必要なんだよ……。
それはともかく、確か前に一緒に依頼に行った時も戦斧を使っていたはずだ。
それをそのまま使っているらしい。
そんな話をしていたらユーリの営む武器屋に到着した。
カノンは遠慮なく扉を開けて中に入る。
「こんにちは」
「……ん?…封印者の嬢ちゃんじゃねぇか!久しぶりだな!」
丁度商品を並べていたらしいユーリが驚いたように言う。
「はい、お久しぶりです」
「武器の調子はどうだ?不都合はないか?」
流石というべきか、その辺りはしっかり確認してくるんだな。
「はい、とても使いやすいです」
「そりゃよかった。で、今日はどうした?」
「はい、えっと……」
カノンはそう言って後ろにいるリーゼに視線を向ける。
カノンと目が合ったリーゼは頷くと腰に差していた刀を外した。
「この刀、鞘の修理を依頼したいのですが……」
そう言って差し出された刀をユーリは受け取ると、そのまま鞘から刀身を引き抜く。
「……刀か…また珍しい武器を…………、ん?これ…か…」
ちょっと見ただけで異常が分かったらしい。
鞘の中を覗き込んだ際に見つけたようなので、リーゼが言っていた内側の傷で間違いないだろう。
しばらく鞘を調べていたユーリだが、刀を鞘に納めると言いにくそうに口を開いた。
「結論から言うと、完全には直せん」
「……そうですか」
それを聞いたリーゼから落ち込んだような声が漏れる。
「……正確に言うのなら、刀の鞘は新しく作り直した方がいいな、一応簡単な修繕は出来るから応急処置みたいな事は出来るが……」
その後ユーリが説明してくれた話によると、刀の鞘自体、正確には魔力回路に傷が入ってしまうと元には戻らなくなるらしい。
刀の鞘には魔力を流す回路があり、それに魔力を流すことで抜刀時に刀身に魔力を纏わせることが出来る。
それにより、魔力剣のような攻撃も出来るのが刀の強みらしい。
しかし、鞘の内部に傷がついた際、その部分にあった回路にも傷が入ったらしい。
回路自体が完全に駄目になった訳ではないらしいので使えないほどではないらしいが、それでも回路に関してはユーリには手が出しにくいらしい。
ただし、応急処置的に修理することは出来るらしいので、もしこの店でやる場合にはそれが限界だという。
そして、新しく鞘を作るには刀を専門としている職人に依頼するしかなく、ユーリではそれは出来ないらしい。
「……その職人は、この町にいますか?」
「いや、この町……それ以前にこの近くの町にもいないな……、俺が知っている限りじゃ王都まで行かねぇと」
「じゃ王都に行けばいいんですね?」
ユーリとリーゼの会話にカノンが口を挟んだ。
カノンの言葉を聞いてリーゼは驚いたようにカノンを見る。
「リーゼさん、王都に行って新しく作ってもらいましょう!」
「いいの?」
「もちろんです!」
恐る恐ると言ったリーゼに、カノンは即答する。
『しかし。それまでその状態ってのもまずいだろうし……一旦簡単な修理だけはしてもらうか?』
「そうだね……修理をお願いしてもいいでしょうか?」
「おう、それくらいなら任せとけ!」
俺の言葉に頷いたリーゼがユーリに頼むと、ユーリは快諾してくれた。
「あ!それと戦斧が欲しいんですけど……」
ふと、カノンが思い出したようにユーリに言う。
「戦斧?嬢ちゃんが使うのか?ありゃ重いぞ?」
少し驚いた様子を見せつつも無難な忠告だけで終わった。
確かにカノンが今使っている武器もカノンの体格を考えると充分に可笑しいものだしな……。
バスタードソード、つまり両手でも片手でも使えるようになっている剣ではあるのだが、カノンの体格でこの剣を片手で扱うなど普通では考えられない。
それをカノンは片手剣を振り回す様に扱うのだ。
俺が封印された事で魔力が急激に増えた影響か、カノンの力も急激に上がった。
確かに戦斧でも問題なく扱えるようにはなっているだろう。
「いえ、この子のです」
カノンがセレンを指さすと、セレンは縮こまりながら会釈する。
そしてセレンを見たユーリは目を丸くした。
「こ、この嬢ちゃんが使うのか?」
「はい、でも大丈夫ですよ。問題なく扱えますから」
「……そ、そうか…」
驚いた様子のユーリだが、流石職人というべきかすぐに戦斧を物色し始めた。
「……カノンちゃん…あの…お金…」
ユーリが戦斧を選んでいる最中、後ろにいたセレンが言いにくそうにカノンに声を掛けてきた。
「お金なら大丈夫だよ、私が出すから」
そう言って振り返ったカノンは微笑んだ。
「……でも…」
なおも何か言おうとするセレンをカノンは手で制す。
「これは私からのお祝いだよ。Fランクのね」
「……ハクさん…」
困ったように俺の名前を呼ばれても……。
『あ~、まぁせっかくだし貰っとけ。金には困ってないから』
正直今のカノンの収入はDランクとして見ても明らかに多い。
それに今収納に仕舞っている土竜の素材を売ればもっと稼げるだろう。
何より、カノンが幼馴染にプレゼントしたいのだから、俺に止める資格はない。
「……これなんかどうだ?」
カノンに続いて俺にまで言われて困った顔のセレンに、ユーリが戦斧を差し出した。
見た目は普通の戦斧に見えるが……少しだけ細いか?
「一般的なやつより軽くできてる。これなら使いやすいだろう」
戦斧を受け取ったセレンは、軽く持ち上げてから満足そうにうなずいた。
「大丈夫そうだね……、じゃあユーリさん、これください」
「よし、じゃあこれと鞘の修理だな……。これはすぐに渡せるが鞘は少し時間がかかる。そうだな……三日後に取りに来てくれ」
まぁ時間がかかるのは仕方がないか……。
「分かりました……リーゼさん、それまで武器どうします?」
「あ~、どうしよう……」
リーゼも代わりまでは考えてなかったようで少し困った様子だ。
「これ使います?」
カノンがそう言って収納から剣を取り出す。
いつも使っている魔法剣ではなく、最近出番がなくなった普通の剣だ。
「そうだね。悪いんだけど借りるね」
リーゼは頷いてカノンから剣を受け取った。
『で、この後はどうするんだ?』
武器屋から出て、一旦ギルドに向かっているであろうカノン達に聞いてみる。
「どうするの?」
カノン…お前も決めてなかったか……。
「何となくギルドに向かってたね……」
リーゼが苦笑する。
「……アイン」
あぁ……そういえばギルドの医務室に投げ入れてそのままだった。
「アインの事は明日でいいでしょ。どうせまだ起きてないだろうし」
ロイドに叩きのめされてたしな……。
「……依頼?」
『今から行ってもすぐに日が暮れるぞ?』
今はまだ日は出ているが、もうすぐ沈むだろう。
なにせレセアールに戻ってきたのが昼過ぎ、その後少し遅めの昼食を食べてから武器屋に行っていたのだ。
狩場との往復ぐらいなら問題ないだろうが、依頼までこなすとなると少々時間が足りない。
「そうだね……先に宿決める?っていうかセレンは何処に泊まってるの?」
「……一番安い宿」
なんとも悲壮な答えが返ってきた。
それを聞いて少し考え込むカノン。
「……セレンはアインを連れ帰ってからどうするの?」
少しの時間考え込んでいたカノンが口を開いた。
「……え?」
カノンの言葉を聞いたセレンが戸惑う。
「いや、村に戻るの?それとも冒険者続ける?」
確かにセレンには選択肢がある。
武器を買っておいていう事ではないかもしれんが、セレンが前の暮らしに戻りたいのなら村に帰ればいい。
アインを強制送還してしまえばセレンがこっちにいる理由もなくなるだろう。
「……私は…」
しばらく悩んだ末、セレンはゆっくりと口を開いた。




