幼馴染再び
カノンはロイドに会うために訓練場に来ていた。
訓練場では丁度Fランクの試験なのかロイドと戦う少年の姿が……って……
『なんか見た事ある奴だな……』
「うん、アインだね」
アレーナ村から出てきた少年だ。
しかし、この間見た時と比べても動きが全く進歩していない。
立ち止まって魔法を撃とうとしてロイドに妨害されているだけだ。
そもそも詠唱短縮でもしないと、魔法のみで個人戦などできないだろう。
詠唱には速い物でも数秒はかかるのだ。
本来なら剣などで応戦しつつ詠唱をしていくのがセオリーだ。
「どう思う?」
『戦い方を知らないって感じではあるが……進歩してないってのが感想だな』
カノンとの模擬戦では二人で向かってきたから魔法を撃つ隙もあったし、カノンも相当手加減していた。
しかし、ロイドは最低限の手加減はしているが、ゴブリンくらいは自力で倒せないと勝てないようなレベルで戦っている。
町の外に出るようになれば必然的に魔物と戦うことになるのだから仕方ないと言えばそれまでだが……。
そういえば……。
『もう一人…セレンがいない気がするが……』
「そういえばそうだね……あ」
あ、アインがロイドに吹き飛ばされた。
そのまま起き上がってこないところを見ると気を失ったらしい。
模擬戦がひと段落着いたことを確認すると、カノンはロイドに近づいた。
「ロイドさん」
「お?カノンちゃんか、帰ってきたんだな」
「はい、お久しぶりです」
とは言ってもまだ半月程度だが……。
「ここに来たってことはギルマスに聞いたのか?」
「はい、具体的には何も聞いてませんけど……」
カノンがそういうとロイドは苦笑いする。
「あぁ、だろうな……ギルマスも完全には状況を把握できてないだろうしな」
そんなに面倒なことなのか……。
もしくはギルドマスターが態々覚えておく必要もないようなことなのか……。
出来れば後者であることを願いたい。
「えっとな、そこに転がってる奴なんだが……」
そう言って目を向けた先には仰向けで気を失っているアインの姿。
『全く成長していないことだけは分かったが……』
「そうだな、そう見えるよな……」
ロイドはそう言って大きなため息を吐いた。
ロイドの説明によると、一応は成長しているらしい。
魔法の威力や燃費は多少ましにはなっているようだ。
しかし、それ以外の事に関しては全く何もしていないらしく、模擬戦でも特訓の成果である魔法を使う暇さえ与えられなかったらしい。
なんだろう……。
ゲームで言えば隙の大きい必殺技だけを使おうとして、ボコボコにされているような……。
当たれば……いや、撃てれば強いのだろうが撃たせてくれない。
そんな感じだろう。
「で、セレンの方は昨日合格してFランクになったぞ?」
「本当ですか!」
セレンがFランクになったと聞いて嬉しそうな声を出すカノン。
アインとは扱いが全く違うがまぁ仕方ないだろう。
そんなカノンに苦笑しているロイドだが……。
『で、本題は?』
このままだと話が進まないような気がしたので直球で聞いてみた。
「あぁ、セレンとも話は付いてるんだが、今日こいつがFランクに成れなかったらアレーナ村に返そうってことになったんだよ」
おぉ……ついに強制送還か……。
「あれ?今負けたから……決定ですか?」
カノンが首を傾げながら呟く。
そういえばそうだな。
たった今負けたから決定事項になった訳だ。
「そういうわけだ。で、カノンちゃんに頼みたいのはこいつの説得なんだが……」
「無理です」
見事な即答だった。
「お、おぅ……そういうとは思ってたんだが……」
ロイドの顔も引きつっているように見える。
即答で拒否したとはいえ、それは説得が嫌だからというわけではない。
いや、多分説得したくもないだろうが……。
「私が説得しても聞くわけありませんよ」
うん、そういう事なんだよな……。
以前のカノンに対するアインの態度を見ていると、普通に説得して聞き入れるとは思えない。
「あ~、それはセレンも言ってたな……説得できる相手じゃないって……」
セレンも同意見だったらしい。
「まぁ…なんだ…拳での説得になってもいいからさ」
それは説得じゃなくて脅迫では?
その方が楽でいいけども……。
ロイドのそう言われてカノンは少し考え込む。
「……セレンと相談させてもらってもいいですか?」
それを聞いたロイドの表情が明るくなる。
相談するということは、考える、もしくは何とかなる余地があるということだ。
「ああ、勿論構わない。セレンなら朝早くから依頼に行ってるからもうそろそろ戻ってくるはずだ」
「分かりました。それまで待ってます……。あ、ついでに医務室に叩き込んでおきます……ハク、お願い」
『お、おう』
スライムは禁止されているのでマンイーターの蔓を使ってアインを持ち上げる。
カノンはそれを確認するとそのまま訓練場を出て行った。
アインを医務室に投げ入れたカノンは、そこでようやくリーゼがいないことに気が付いた。
「あれ?リーゼさんは?」
『ロンの部屋に置き去りだな……』
カノンがロンの部屋から出て行ったときに、なぜかそのまま動かなかったからな……。
もしかすると何か用事があったのかも知れないし、もしくはギルドマスター相手に緊張していてカノンが出て行ったことに気が付かなかったのか……。
カノンもカノンで二つ名の事で頭がいっぱいだったから気にかけている余裕はなかったのだろう。
俺?俺はカノンが怖くて何も言えなかった……。
「どうする?」
『受付に行ってみていなければロンの部屋だな』
「そうだね」
そんな感じで行先を決めたカノンはそのままギルドのホールに行った。
ホールに入ると、昼過ぎだからか人が少なく、その隅で困惑しているリーゼを見かけた。
『お?居たな』
「うん、…リーゼさん!」
カノンの声が聞こえたリーゼは周囲を見渡し、カノンを見つけると駆け寄ってきた。
「カノンさん!ひどいよ!!」
「す、すみません……」
開口一番お叱りを受けたカノンは申し訳なさそうに縮こまる。
「……カノンちゃん?」
そんな時、少し離れた所から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「セレン?」
その声にカノンが顔を上げてそちらを見ると、俺たちがこれから探そうとしていたセレンの姿があった。




