亜竜の影響
「カノンちゃんの収納スキルはどうなってるの?」
戦いが終わったことを確認してカノンの元まで来たアイリスが開口一番呆れたように言った。
「私じゃなくてハクに言ってください」
それに対してカノンは不服そうに言う。
収納スキルはレベルに応じて空間のサイズが変わる。
正確には収納できる体積だが、最初のレベル1では小さな部屋程度の大きさしかなかった。
今の俺の収納のサイズは大体、学校にある体育館と同じくらいのサイズになっている。
なので最近は落とし穴を掘っても態々土を吐き出したりせず、使う機会があるときまで一定量は確保していた。
その土を吐き出したおかげで土竜を収納することが出来たのだ。
現在カノンがたちが居るのは俺の粘液が爆発して出来た焦土のど真ん中だ。
周りには無事な木々はなく、すべて真っ黒に焼け焦げた倒木になっている。
そしてその片隅に、土竜が出てきたと思われる巨大な穴が空いている。
『そういえば盗賊ってどうなったんだ?』
確かほとんどの盗賊を倒した状態で放置していたはずだが……。
というか倒した段階で土竜の気配を感じたので構っている暇がなくなっただけではあるのだが……。
で、確かそのまま放置して……。
「盗賊なら土竜が出てきたときに吹き飛ばされて爆発で吹き飛んでたわね」
アイリスは見ていたらしい。
というか何が吹き飛んでたのかは聞かないようにしよう。
主に俺の精神衛生上の問題で……。
「あぁ…あの爆発じゃ助かりませんよね…」
リーゼが苦笑いしながら言う。
確かにあの爆発で助かるのなら、もう人間をやめている。
「そういえば従魔って……」
カノンが思い出したように呟いた。
あぁ、そういえばそんな状態になってたな……。
『結局それらしい気配は感じなかったな……』
「多分遠くの方で命令しただけだと思うわよ?どうやって竜種を従魔にしたのか気になるけど…」
アイリスの言う通りなら、気配を感じないのも頷ける。
しかし一つだけ気になることがある。
『結局、盗賊が時間稼ぎをしてたのって土竜を待ってたからか?』
あのタイミングではそうとしか思えないのだが、それにしては巻き込まれてたし…。
「確証がないから何とも言えないけど、最悪の事態を想定するなら盗賊団のボスが動かしてたって所かしら?」
確かにそれは最悪のパターンだ。
盗賊側に亜竜が付いたんじゃ、そこいらの冒険者では勝負にもならないだろう。
その場合、それだけの腕があって何故盗賊をやっているのかは疑問ではあるが……。
「調べた方が良いのでしょうか?」
リーゼが少し考えてからアイリスに聞く。
しかしアイリスは首を横に振った。
「今の私たちの仕事は商隊の護衛だし、流石にそれを放り出して調べるのもおかしいわね。だからレセアールに戻ってギルドに報告してからでいいんじゃないかしら?」
確かにアイリスの言う通り、今は護衛依頼の最中である。
流石にドラゴン相手に護衛は不可能なので二手に分かれたが、方が付いた以上、急いで商隊と合流するべきだろう。
「カノンちゃん?私達二人を抱えて飛べる?」
「え?…ハク、どう?」
いきなりアイリスに言われて俺に確認してくるカノンだが、さて、魔力は……行けそうだな。
魔力が充分に残っているとは言えないが、それでも馬車の移動速度を考えればそう遠くまでは行っていないはずだ。
荷馬車など、大人が歩くより少し早い程度の速度しか出ないのだから。
そしてそれくらいの距離ならば、今の魔力でも十分に飛んでいけるだろう。
『問題は無さそうだぞ』
三人に聞こえるように返事をする。
「じゃあお願いできる?その方が馬車も見つけやすいし」
「はい」
その後二人を俺の触手で支え、カノンは竜装で空を飛んでいた。
馬車は確か道を移動していたはずなのだが、土竜が掘った穴と爆発により周りの道は吹き飛んでしまったので、まずはレセアールに続く道を探すことになった。
そして、道を見つけたのはいいのだが俺たちが土竜と戦っていたのは森の中だ。
少し進めば森を抜けて草原になるのだが、そこに行くまでは木々に邪魔をされて道が分かりにくいのだ。
そのせいで少し手間取ったが、森を抜けて平原に出た所で商隊を見つけることが出来た。
ただし、なぜかオークの群に囲まれているが……。
『なんか危ない気がするのは気のせいか?』
ドム達もDランクなのでオークの群ごとき大した手間ではないはずなのだが……。
「土竜から逃げてきたのかしら?でも大した数には見えないし……」
アイリスはそういうが、目視で確認できるだけでも10匹程度はいる。
確かにカノンやアイリスにとっては大した数ではないだろうが……。
「ハク、鑑定は?」
『そうだな……』
そういえばオークを鑑定したことはなかったな……。
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種族・ハイオーク
HP・1658 MP・1564
スキル
感覚系
身体強化Lv4・威圧Lv3
技能系
統率Lv2
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オークじゃなくてハイオークだった。
確かオークの脅威度はEランクで群でDランク。
それに対してハイオークは上位種なだけあってDランクだ。
群ならCランク相当。
そりゃ苦戦するか……。
『ハイオークみたいだな……』
「ハイオークが群で?」
ハイオークだと聞いたアイリスが首を傾げる。
確かに上位種は基本的に群の中にわずかに居るだけだ。
しかし鑑定してみた限り、10匹全部がハイオークだ。
確かにおかしいが……。
『土竜から逃げてきたのでしょう。通常のオークはもっと遠くまで逃げて、ハイオークだけが残ったのだとすれば納得できます』
ソルがそう説明してくれた。
確かに弱い魔物なら亜竜が出てきた、もしくは気配を感じただけで逃げ出すだろう。
ハイオークは多少強いから縄張り意識からかこの近くに残り、馬車を見つけて襲ってきたって所か……。
っと、そんな悠長に考え事をしている場合でもなさそうだ。
ここから見た感じではドム達に大きな怪我をした様子はないが、このままでは時間の問題だろう。
しかしこのまま突っ込むのも不安が残る。
流石に俺もカノンも万全の態勢とは言えないし、リーゼに関しては群を相手取るには力不足。
アイリスが居るとはいえ、策もなしに突っ込むのは危険すぎる。
「ハク、私を離して!」
どうするべきか思案していたら、アイリスから指示が来た。
『わ、分かった』
俺は慌ててアイリスを離すと、アイリスは空中で器用に態勢を整えると着地と同時に消えた。
いや、消えたような速度でハイオークを次々に殴り倒していく。
高速思考を使っても追いきれないのでカノンの魔装よりも速いのだろう。
そして、何故素手で殴っているだけなのにハイオークの首が消えるんだ?
比喩ではなく、アイリスに顔を殴られた瞬間に首から上がはじけ飛んで行っている。
果たしてあの拳にはどれだけのエネルギーが込められているのか……。
薄々感じては居たのだが、やはりAランク冒険者にもなると人間を卒業した強さになるな……。
不安なのが、このまま行くとその内カノンもあの領域に辿り着きそうなことか……。
いや、強くなること自体はカノンの目標でもあるし、強くなればその分安全性も増すわけなので喜ばしい事ではあるのだが……。
出来ればしばらくは人間の範疇で強くなってほしいと願わずにはいられない。
……いや、既に手遅れか…………。




