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亜竜戦3

土煙が晴れると、そこにはさっきの土や石をものともせずにこちらに向かってくるソイルドラゴンの姿があった。


『マジか……』


思わず声が漏れてしまう。


確かにダメージにはならないだろうとは思っていたが、空から落とすくらいは出来ると思っていたのだ。


いくら巨体で攻撃が効きにくいとは言っても、あくまで竜としてのおまけのような飛行能力だ。


それならば叩き落すこともそれほど難しくないだろうと思っていた。


そして少し問題なのが、ソイルドラゴンがこちらを見ているということだ。


心なしか睨まれているようにも見える。


確かに向こうからすれば嫌がらせのような攻撃を加えているわけだし当然と言えば当然かもしれないが……。


「ハク、策ある?」


『さっきまではあったんだが……飛ばれるとな……』


実際、二人を置いてここまで来たのは策を用意していたからでもある。


それに、簡単な策としては落とし穴を掘るとか地属性魔法で足元に岩でできた針を生やすとは色々と出来ることはあった。


しかし空を飛ばれてしまうと、さっきまで考えていた作戦の殆どが使えなくなってしまう。


そうならないために落とそうとしたのだが、あまり効果もなかった。


さて、どうするか……


流石に体が重いので飛行速度自体はそれほどでもないのだが、手足の動きは地上と変わらないだろうし、高速思考でギリギリ追える速さで動く尻尾も脅威だ。


もし躱し損ねてカノンがまともに食らってしまったら一撃で致命傷だろう。


そういう事もあってカノンが接近戦を行うのは正直避けたい。


となると残っている手段としてはカノンにはソイルドラゴンと一定の距離を保ってもらい、俺が魔法で攻撃することくらいか……。


しかしそれも、魔法が効かなければあまり意味はないだろう。


俺は使える属性自体は多いがそれでもそれぞれの属性の練度は低い。


訓練はしているのだが、属性が多いので一つ一つの訓練に割ける時間が限られてしまっているのだ。


というわけで一番練度の高い属性は火属性と風属性。


なのでこの二つの属性の合わせ技で戦うのがベストか……。


そんな事を考えている間にもソイルドラゴンは攻撃態勢に入っていた。


こちらに顔を向けて口を開いたのだ。


これはまずい!


『カノン!回避に専念しろ!』


「うん!」


俺はカノンに指示を出すのと同時にスライムの触手を出す。


さっきのブレスを見る限りブレスの属性は火属性。


ならば体の殆どが水のスライムの盾と高速再生で受けきれるはずだ。


正直あの火力相手に不安しか残らないが……。


そしてソイルドラゴンの口に魔力が集まり、それが火の球に変わる。


そして息を吐き出すかのようにその火の球をカノン目がけて撃ってきた。


「っ!!」


カノンは急降下して炎の球をかわそうとするが、流石に間に合わないと悟ったようで魔法剣を盾代わりにする。


『アクアウォール!』


俺はスライムの厚みを増やし、さらにアクアウォールを発動して盾を作る。


直撃ならきついが掠る程度ならこれで十分なはずだ。


そして炎の球はスライムの前に出したアクアウォールを蒸発させ、スライムの一部をえぐり取って後方へと飛んで行った。


流石に防ぎきることはできなかったが、ブレスの軌道を逸らすことは出来た。


その代償としてスライムの盾の一部が消し飛んだが……。


「ハク!?大丈夫!?」


一部がなくなったスライムを見てカノンが慌てたように聞いてくる。


『安心しろ、すぐに治る』


触手伸縮で大きくしていたおかげで、見た目よりも俺自身の被害は少ない。


この程度なら高速再生ですぐに直せる。


それが分かっていたから盾に使っていたわけだが……。


『それより、今がチャンスだ!』


ドラゴン全般に言えることだが、ブレスを吐いた後はわずかに行動が止まる。


今回も例外ではなく、ソイルドラゴンは口を開けた体勢のまま止まっている。


まぁ数秒で動き出すのは間違いないが……。


カノンもそれを分かっているので軽く頷き、ソイルドラゴンの首元に突撃する。


そして魔法剣に魔力を溜め、長い首目がけて一気に振り抜いた。


魔法剣は魔力を溜めて斬撃を飛ばす能力がある。


斬撃の大きさと射程距離は込めた魔力に依存するので決まった射程範囲というものはないのだが、この距離なら簡単に届く。


そしてどんなに硬い物に斬撃をぶつけても、普通の刃で斬っているわけではないので刃こぼれもしない。


そして魔法剣の斬撃は、普通に斬るよりも切れ味がいいことが多い。


勿論使うたびに魔力は消費するし、狙いが悪いと明後日の方向に飛んで行ってしまうが、それでも修練を重ねていけば強力な武器になる。


「ギャァァァァァォォォ!!」


悲鳴に近い咆哮と共にソイルドラゴンの首に大きな傷が入る。


カノンとしては切り落とすつもりで攻撃しただろうが、竜相手にここまでダメージを与えられれば上出来だろう。


それにこれだけのダメージを受ければ間違いなく致命傷だ。


竜は生命力が高いので即死はしないだろうが、時間の問題だろう。


しかしその間に反撃される可能性もある。


それを分かっているカノンはそのまま地上に降りて竜装を解除する。


「ハク!魔装!」


『おう!』


カノンに言われて魔装を発動する。


魔装発動中は竜装を使えないので飛ぶことが出来ないが、ソイルドラゴンはゆっくりと落ちてくるので空中戦をする必要はないだろう。


カノンは魔装の魔力を使って駆け出す。


そして木を使って跳び上がると、そのままソイルドラゴンの首目がけて魔法剣を振りぬいた。


「グォォォ…………」


小さな声と共に首が切断されてソイルドラゴンが息絶える。


俺は触手を伸ばしてソイルドラゴンに触れ、収納の中に放り込む。


そうしないと落下の衝撃で大変なことになりそうだったし……。


「はぁ…はぁ…、勝った?」


息を切らせたカノンが呟く。


『あぁ、俺たちの勝ちだ』


亜竜であるソイルドラゴンの脅威度はBランク。


ただしBランクでも上位の方に入るらしい。


魔法剣という反則武器と、空中戦をこなせるスキルをフル稼働させていたとはいえ、それでもBランクのドラゴン相手に勝てたのはカノンの成長の賜物だろう。


しかしカノンの表情は優れない。


「でもアイリスさんならもっと簡単に倒してたよね?」


『まぁ……そうだな…』


カノンの言う通り、アイリス一人だったならもっと簡単に倒していただろう。


同じ魔法を使ってもカノンの倍以上の威力を出せるのだし、俺たちの魔法が効かなくてもアイリスならごり押していけそうである。


今回カノンに任せてくれたのはカノンに経験を積ませるためだろう。


そして俺としては竜の固有スキルも手に入った。


ありがたい話だが、少し鍛え方がスパルタ気味な気がするのは気のせいだろうか?


まぁ俺たちも自分から亜竜に挑んでおいて言えた義理ではないが……。


しかし、今回の戦いは前のゴブリンの群相手の時ほど身の危険は感じなかったとはいえ、俺たちの課題も見えてきた。


今回はスキルと武器で押し切ったが、短期間でスキルレベルが上がってしまう性質上、やはりスキルに練度が追い付いて行かない。


これからはそれらを鍛えることを考えなくては……。


しかし、今は強敵に勝てた事を喜ぶことにしよう。



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