亜竜戦2
アイリスとリーゼは崖の上に降ろした。
ここなら土竜の様子も確認しやすいし、何かあったとしても二人なら逃げるなり防御するなり出来るだろう。
一番怖い地中からの強襲も、爪をへし折った今心配はしなくてもいい。
飛行スキルが気になるが、まさかあの巨体であのおまけ程度の翼ではまともに飛ぶことすらできないだろう。
なので二人が警戒するべきはブレスで、アイリスの能力なら何とでも出来る程度のはずだ。
というわけで二人を下ろしたカノンは急いで土竜の元に向かう。
のんびりしていたらここが土竜の攻撃対象になってしまうからだ。
そして土竜の近くまで来ると、怪我のせいか動きの鈍いソイルドラゴンがこっちをじっと見ていた。
「ハク、どうする?」
『どうするも何も…とりあえずは近づかないことには……』
奴隷の刻印の時もそうだったが、魔力捕食で魔力を吸い取るには直接触れる必要がある。
まぁ今のソイルドラゴンになら比較的簡単に近づけそうだが……。
「じゃあ行くね、援護お願い!」
カノンはそれだけ言うと俺の返事を待たずにソイルドラゴンに向かって突っ込んでいく。
攻撃が来ても躱せるだけの余力は残しているが、それでも亜竜相手にどこまで通用するかは疑問だ。
「グオオオオオォォォ!!!」
やはりというべきか、ソイルドラゴンは自分に向かってくるカノンを敵と認識したのか、耳が割れそうな咆哮で威嚇してくる。
この威嚇には威圧スキルのようなものも混じっているようだ。
ん?こいつ威圧系のスキル持ってたか?
確かなかったと記憶してたんだが……。
「……何?威圧?」
カノンも威圧自体は感じたようで少し声が強張っている。
そういえば威圧を直接向けられるのは初めてだな。
『威圧みたいだが……あいつは威圧スキルなんてなかったぞ?』
「じゃあ複合スキル?それか……ただの鳴き声?」
竜の咆哮を鳴き声呼ばわりはどうかと思うのだが……。
しかしカノンの二択なら、恐らく複合スキルだろう。
この感じはスキルによる威圧で間違いないはずだ。
『どっちにしろ強敵だ。気を抜くなよ』
「うん!」
そう言ってさらに加速したカノンはいよいよソイルドラゴンの手足の間合いまで接近した。
それと同時にソイルドラゴンの手足に力が入るのが分かった。
『何か来るぞ!』
「っ!!」
カノンも何か感じたのか、慌てて急上昇する。
一瞬遅れてカノンがさっきまで居た場所を巨大な何かが薙ぎ払った。
高速思考でそれを追ってみると、それはソイルドラゴンの尻尾だった。
「あ、危なかった~」
安堵したようにそう漏らすカノン。
確かに危なかった。
正直俺は攻撃の予兆は分かったが、あのタイミングで攻撃が来ることは分からなかった。
『よく分かったな』
「殆ど勘だったけどね」
そういったカノンは収納から魔法剣を取り出した。
「ハク、魔法で視界塞げない?」
カノンにそういわれて少し考えてみる。
普通に視界を塞ぐだけならいくらでもやり様はあるし、こっちの姿を認識できなくしたとしても、向こうはあの巨大さ故こっちから見えなくなることはあり得ない。
つまり多少乱暴でも視界を潰す方法はいくらでもあるのだ。
しかし問題となるのは熱感知のスキルだろう。
姿を見えなくしても熱感知まで欺けるとは思えない。
熱感知がサーモグラフィーなどと同じようなものだとすれば、温度の違いを色で見分けているはずだ。
もしくは蛇のピット器官みたいなものか……。
どちらにしても、確か赤外線の強弱で温度を識別していたはずだ。
そして、温度が高い物の向こうに温度の低いものがあるのなら、恐らく見えにくいのではないのだろうか?
もしそうなら何とか出来るかもしれない。
『よし!フレイムトルネード!』
炎の竜巻を生み出す魔法だ。
これであいつの顔を覆えば行けるだろう。
ただし暴れられれば簡単に振りほどかれてしまうだろうから数秒のかく乱程度の能力だが……。
しかしカノンにはその数秒で充分だった。
一気に加速するとドイルドラゴンの背中に触れる。
カノンが触ってもソイルドラゴンは反応しない。
大きすぎて触覚に関しては鈍いのかもしれない。
「……あった、これだ!」
カノンは魔力感知で従魔契約の魔力を見つけたようで、それに対して魔力捕食を使う。
「ギャオオオォォォォォォォ!」
するとソイルドラゴンから悲鳴に近い咆哮があがり、その体を大きく揺らす。
「うわ!」
背中に乗っていたカノンはそんな声と共に慌てて空に避難した。
「ハク、どう?」
カノンに言われて一応鑑定をしてみる。
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種族・ソイルドラゴン
HP・26583 MP・59846
スキル
感覚系
熱感知Lv3・気配遮断Lv3・気配察知Lv3・方向感覚Lv6
状態・耐性系
魔法耐性Lv1・毒耐性Lv1
特殊系
飛行Lv3・潜地Lv6
固有スキル
竜魔法Lv1
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状態の欄が消えているな……。
これなら従魔契約も解除できたとみてよさそうだ。
さて、問題はこの後だ。
こいつがこのまま大人しくなって帰ってくれればそれでよし、もし向かってくるのなら叩き潰す。
『従魔は消えた。けど油断するな』
「うん」
カノンは俺の言葉に頷いてソイルドラゴンに意識を向けている。
その時、ソイルドラゴンと目が合った。
少し長い首を上にあげ、俺たちの方に向けたのだ。
「グオオオォォォォ!!!」
そして威嚇付きの咆哮を俺たちに浴びせると、前足を上げた。
「っ!!」
それを見たカノンが慌てて急上昇する。
そして、前足はさっきまでカノンが居た場所を振りぬいた。
『結局倒すしかないか』
「そうだね…でも空からなら……」
確かにあの巨体で空を飛ぶにしても、準備にも時間がかかるだろう。
それなら飛ばれないうちに一方的にたたいてしまうか……。
そんな事を考えていると、ソイルドラゴンが前足を大きく広げた。
それによって申し訳程度についている被膜も広がる。
「……なんか…嫌な予感が…」
心なしかカノンの口元が引きつっている気がする。
『奇遇だな……俺もだ…』
しかしもし俺に体があったらな俺も同じような表情になっていただろう。
ソイルドラゴンはそのまま前足をはばたかせて、ゆっくりと浮かび上がった。
『そう思い通りにさせるか!』
飛んだとは言えゆっくりと浮かんでくるだけだ。
今ならまだ落とせるかもしれない。
俺は触手をソイルドラゴンの真上に伸ばし、そこから収納の中に入っていた土や石を大量に吐き出した。
最近穴を掘ったりすることも多かったので収納の中にはある程度土が入っていた。
これをソイルドラゴンに向かって落としたのだ。
「ギャォォォォォォォ!!」
土や石が直撃した際の土煙の中から、ソイルドラゴンの悲鳴に近い声が響いてきた。