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亜竜戦

スライムに何かが当たる感覚が少なくなり、完全に消えた後で俺はようやくスライムの防御を解いた。


解いた瞬間、スライムにめり込んでいた石や木の破片がぽろぽろと地面に落ちていくが、もしスライムの盾を作らなかったらこれが全部俺たちに直撃していたわけだ。


そう思うとこの程度の魔力消費など安いものだと思えるのは自然な発想だろう。


「ハクさん?何したの?」


リーゼが唖然としながら聞いてきた。


『スライムの盾に物理無効ってスキルを組み合わせた』


物理無効スキルは以前スケルトンボアを倒したとき、怨霊スキルから手に入れたスキルの一つだ。


名前の通り物理的な衝撃の殆どをなかったことにしてくれる。


まさに幽霊など実態を持たない魔物にぴったりなスキルだ。


「凄いスキル持ってたんだ……」


リーゼの呆れたような声が聞こえてくるが、今回はそこまで凄い物でもない。


『そうでもないぞ?元々は実態を持たない魔物や、物理攻撃が効かないって言われるような魔物が持ってるスキルだからな。もしカノンと共有したりすれば少し歩いただけで俺の魔力はなくなっちまう』


そう、このスキル。


生身の体で使えないことはないのだが、歩いた振動を無効にするだけで俺の魔力の一割以上を持っていかれてしまうのだ。


確かに物理的な衝撃を消しているわけだし、それだけの事をするために大量の魔力が必要だってのは分かるのだが……。


因みに一回だけ試したことがあり、その時は数歩歩いただけで俺の魔力は殆ど空になってしまったし、このスキル自体は調整も効かないので衝撃の一部だけを無効にして威力を減衰させるような使い方は出来ない。


なので最初はただの死にスキルだと思っていたのだが……。


しかし、この物理無効は同じスキルでも使用する種族によって多少の差があるスキルだ。


例えば、アンデット系の中のゴーストと呼ばれる実体のない魔物の場合、実体が無いので物理的な攻撃はすり抜けてしまって効果がない。


そういった場合には物理無効スキルは魔力消費なしで発動している。


そして次に、カノンが倒したスケルトンボアのような実体がある魔物。


これはいくつかの種類に分けられるのだが、例えばスケルトン系の魔物の場合は骨の関節が外れたりして衝撃を受け流すことが出来る。


そしてそれを行った場合は骨を集めることで再びくっつくことが出来る。


つまり一見ダメージが通っているように見えるが、HP的には全くダメージを受けていない状態というわけだ。


ただし、バラバラになった状態で骨を砕かれた場合は簡単に倒されてしまうわけだが……。


そして、この場合の物理無効は魔力を消費する。


ただし消費量も少なく、発動条件もはっきりと決まっているようだ。


つまりゲームなどで特殊な手順で倒す必要のある敵のようなものだろう。


そして、スライムなどの決まった形を持たない魔物の一部にも、この物理無効スキルを持っている者がいる。


かなりレアなスライムらしいのだが、そのスライムはどんな物理的な攻撃を受けても水のように攻撃を受け流すか、スライムの体の弾力で衝撃を吸収する能力があるらしい。


俺はそのスライムの情報をギルドの図書館の本で読んでから、もしかしたら物理無効スキルをスライム化した状態で使えば上手く扱えるのではないのかと考えたのだ。


そうしてカノンの協力の元検証を繰り返し、その末出来たのがこのスライムの盾だ。


これならカノンがスキルを使っているわけではないからカノンが動き回っても発動はしないし、スライムの体で衝撃を受け止めて受け流し、スキルで無効化しても普通の体ほどは魔力を使わないで済む。


欠点として、この盾を使用中はカノンの視界が塞がれてしまうし、魔法攻撃に対してはただの的になってしまう事があるが、それでも使うタイミングさえ選べばかなり強力な武器になる。



そして、こういった広範囲攻撃に対してはかなり有効な防御手段となる。


スライムの盾が役割を終えてカノンの中に戻っていくにつれて、ソイルドラゴンの様子も見えるようになってきた。


鱗の一部が剥がれ落ち、前足にあった地面を掘るために発達した爪が根元から折れている。


そして全身からは煙が立ち上っているが、それでも戦意を失わずにこちらを見据えている。


「うわ……あれで倒れないんだ……」


カノンから驚きの混じった声が聞こえる。


『まぁ当然だな……、仮にも竜だし』


そういったものの、正直なところもしかしたらあれで終わっていたかもとは少しだけ思っていた。


さっきの爆発は俺も予想外の物だ。


本来あの粘液はそこまで燃えるような物ではない。


燃えることは燃えるのだが、爆発するような代物は作れない。


しかし、さっきのブレスの火力が高かったせいか、粘液が一気に蒸発してその気体に火が付いた結果、爆発するに至ったのだろう。


とは言っても、流石にあの爆発の中心にいて無傷で済むようなふざけた体ではなかったようで、全身傷だらけになっている。


しかし……周りを見てみると爆発した範囲の森は焦土と化しているのにその中心にいてあの程度の傷で済むというのは……。


傷だけで済む耐久力を持っていると驚くべきか…無敵ではないと安堵すべきか……。


どっちにしても先手を打った方が安全だろう。


あんなブレスを連発でもされたら敵わない。


っと、その前に……。


『さっき鑑定したときに状態の欄に従魔ってあったんだが……アイリスは何のことか分かるか?』


これだけは確認しておきたかった。


「従魔?従魔ってことはあれは誰かが従えてるってことなんだけど……」


「でもこっち襲ってきてますよ?」


『まぁあいつの主が俺たちを襲うように命令しているのならそうなるわな』


カノンの疑問に思わず答えてしまった。


『そうですね……従魔とは冒険者で言うテイマーが従えている魔物の事を指します。それと同時に、従魔スキルというものもあり、それを使うことで自分と違う種族を従えることが出来ます』


『つまりあれはそのテイマーとやらの支配下って訳か』


カノンやアイリスのように自分の中に封印するのではなく、契約を以って力を行使するテイマーは、封印者(シーラー)とは性質は近いが全く正反対の存在なのかもしれない。


しかし、本人が出張ってこなくてもいいメリットは厄介だな。


あの土竜を倒しても敵を見つけることは……ん?


たしか前にも似たようなことしたよな?


確かリーゼの刻印を調べた時、魔力の繋がりを利用して相手に嫌がらせをした。


もしかするとそれと同じことが出来るのでは?


もしくは刻印みたいにこっちから契約を削除することも出来るのではないだろうか?


「ねぇハク?もしかして私なら出来る?」


何が?とは聞く必要はないだろう。


カノンも俺と同じ考えに至ったようだ。


『やってみる価値はあるかもな』


俺がそういうとカノンの顔が明るくなった。


「アイリスさん。二人を下ろして私が行きます」


カノンがそういうとアイリスの顔が険しくなる。


「カノンちゃん、相手は今迄みたいにはいかないわよ?戦い方を考えないと……」


「従魔契約に干渉してみます」


それを聞いたアイリスは少し考えた後で頷いた。


「上手くいけばそれで引いてくれるかも知れないけど、下手するともっと手が付けられなくなるかも知れないわよ?」


『そうならそうで今よりは楽だ』


確かに従魔契約で凶暴性を抑えられているのならもっと暴れるようになるだろうが、そうならそうで手の打ちようはある。


とは言っても、あれだけの怪我で暴れまわるのなら放っておいても勝手に自滅するだろうし、下手すると逆に戦いやすいかもしれない。


というか、俺の奥の手的には考えなしに暴れてもらった方が戦いやすい。


そんなわけで、アイリスたちを崖の上に降ろしてさっさと戦いに行くことにしよう。




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