不審な気配
上空に飛び上がったカノンは、気配察知に反応した方向に向かって飛んだ。
すると程なくして、森の中を進む人影が見えてきた。
人影はばらばらに移動しているが、全員目的地は同じようで俺たちの馬車がある方向に進んでいる。
「あれかな?」
『そうだろうな。人数もあれくらいだし……完全に盗賊の格好だな』
簡単には見つからないように高度を上げているため、こちらからもはっきりとは見えないが、冒険者や軍隊の格好には見えない。
服はボロボロだし、持っている武器もまばらだ。
それに加えて、鑑定を掛けてみると職業が盗賊になっていた。
これはもう確定だろう。
そして問題となるのが人数なのだが、やはり30人以上の規模だ。
流石にこれは面倒だろう。
しかし、相手が盗賊だと断定できたので、これで心置きなく殲滅できそうだ。
「でもなんでこっちの行動が分かったのかな?」
カノンはそう呟いて首を傾げた。
確かに、普通の盗賊に見えるし、そんな奴らがどうやってあれだけ距離の離れた俺たちの行動を探っていたのか分からない。
もし偵察を出していたのだとしても、こっちの気配察知に引っかかっているはずだ。
もしくはそれ以外の手段、例えば監視カメラみたいな役割をする魔道具があるとか……。
そんな魔道具見たことないけど……。
『こっちの行動がどこまで漏れているのか気になるが……』
もし、こっちの居場所だけがばれているのなら大して問題ではない。
いや、問題は問題なのだが、それで戦況は大きくは変わらないだろう。
しかし、もしもAランク冒険者のアイリスが居ることや、アイリスとカノンの封印者、リーゼの巫女と言った特殊クラスくことがばれている場合は、それを分かったうえであえて挑んでくるということだ。
その場合は、Aランク冒険者というこちら側の最大戦力に対する対抗手段を用意しているということだ。
……流石に人数でごり押しできるとは思っていないよな?
盗賊って頭悪そうなイメージがあるからその可能性もないわけではない。
そして大事なことだが、盗賊の移動速度は荷馬車よりもかなり速い。
こちら側のペースを考えると、後一時間ほどで接触するだろう。
武器も見た限りは特殊なものもなさそうなので、その点に関しては放置でいい気がする。
不可解な点は多少あるが、このまま観察を続けてもそれらが分かる可能性は低いし、あまり長時間探っていると見つかてしまう危険もある。
つまりそろそろ引いた方がいいだろう。
『カノン、そろそろ戻った方がいい……ん?』
ふと、変な気配がした。
山の方、先ほどまで盗賊が居た場所辺りからだが、一瞬だけ何かの気配が漏れてきたのだ。
「どうしたの?」
カノンが不思議そうに聞いてくる。
『いや……変な気配を感じた気がするんだが……』
そういって触手でその方向を示す。
カノンはそちらの方を見て気配察知を発動させているが、何も見つからなかったのか首を傾げた。
「なにもないよ?」
なら気のせいだったって事か?
『すまん、多分気のせいだ』
少し引っかかることはあるのだが、今はそれはどうでもいいだろう。
カノンは俺の言葉を聞いて、あまり納得はしていないようだがそのまま馬車の方に向かった。
とりあえず、知りたい情報は分かった。
後はこれらの情報をアイリスたちと共有して作戦を固めるだけだ。
アイリスたちは、そのまま順調に進んでいたらしい。
商隊はまだ移動中だが、既に盗賊を迎え撃つ場所は目の前だった。
そしてカノンが近づくと、アイリスはこちらに向かって手を振ってくれた。
「お待たせしました」
アイリスが居る最後尾の馬車の横にカノンは着地した。
「お帰り、どうだった?」
『多少はばらけているが迷わずにこっちに向かってた。鑑定で確認したが全員盗賊だったな』
俺は大雑把な報告をする。
『やはりそうですか。こちらを感知した方法については分かりますか?』
「いえ、でも私には気が付いていないようでした……」
カノンが申し訳なさそうにいう。
『確かに不自然なくらいこっちの居場所を把握している動きだったが、確かに俺たちが見つかった感じはなかったな』
一応、誰かがこっちに気が付くかもと思って注意していたが、上空を飛んでいる俺たちに気が付いた盗賊はいなかった。
『考えられるとすると、頭の切れる奴がいるって可能性か?』
「それはありそうね。最初に私たちを目視して、こっちが盗賊に気が付いた場合はこういった場所に陣取る可能性も考えてるんでしょうね。それに道を進んでいるわけだし、この規模の商隊ならレセアールに向かうのは簡単に予想できるかも……」
それだと最初の前提条件から崩れてしまう気がするのだが……。
『もしくは、俺たちがどこを通過したかを点で確認しているって可能性か?』
もし、所々にセンサーのようなものが仕掛けられていた場合、そこを通過した時間でこっちの移動速度も分かる。
それならそして道の分岐点やその先に設置しておけば、どういう風に移動しているのかも比較的簡単に分かるわけだ。
そして、一応そういった魔道具はある。
ただし、とても高価だが……。
『確かにその可能性はありますが……』
「そんな魔道具って高価だし、盗賊が買えるかしら?」
アイリスは首を傾げる。
まぁその通りではあるんだが……。
『以前に他の商人や冒険者から奪った可能性はないか?』
「それなら可能性としてはあるけど」
その場合は別の問題も出てくる。
大体の場合、そういった高価な品物を運搬する場合は相応の護衛が付く。
そうしないと、万が一魔物に襲われたり盗賊に襲われて品物を奪われた場合の損害が大きくなってしまうからだ
しかし、そういった中で奪ったとするのなら、相手にはそれだけの強者がいるということだ。
本来盗賊は、一人一人はそれほど強くない。
ある程度の実力があるのなら、冒険者として活動すれば合法的に稼げるし、いくら冒険者が不安定だったとしても盗賊よりは安定するしリスクも少ない。
なので盗賊は、冒険者になる気概もない者が堕ちることがおおい。
もしくは、犯罪を犯したりして指名手配されている場合もある。
後者の場合は強いこともあるので一概に弱いと断言はできないのだが、そんな者は稀なのでほとんどの場合は弱いと思っていいだろう。
そして今回の盗賊は、実力がある可能性もあるし、もしかすると頭が回る奴が頭にいるか,参謀についている可能性も十分にある。
「なんにせよ、普通の盗賊と思わない方が良いわね」
アイリスがそういうと、カノンも真剣な顔で頷いた。
『そういえば変な気配を感じたが……』
『変な気配……ですか?』
俺がそう呟くとソルが食いついてきた。
『あぁ、一瞬だけだったから気のせいかもしれんが……』
「そういうものは警戒しておくに越したことはないわよ。頭の片隅にでも置いておきましょ」
アイリスがそういうとカノンも頷いた。
確かに、気のせいと断言して警戒しないよりは、少しだけでも警戒しておいた方が良いだろう。




