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無人の馬車

「……えっと、それをどこで?」


ゴードンの言葉に固まっていたカノンだが、恐る恐ると言った感じで口を開いた。


「ははは、商人にとって情報は命ですからね」


なるほど、商人なら町のうわさ程度の情報くらいは仕入れるだろう。


そのうわさで売れる商品が分かる場合もあるからだ。


そして、奴隷の刻印を消せる能力を持っている封印者(シーラー)であるカノンの事くらいは事前に調査済みだろう。


恐らく刻印を刻まれていた人たちはカノンの事を触れ回っていたはずだし。


そうなるとゴードンがカノンの事を知っているのも不思議ではない。


カノンにとって問題となるのは、商人の情報網に乗ってこの情報がどこまで広まるのかということだな。


まあ、実際にそれを見た人は少ないし、他の町に広まる段階ではうわさ程度の話になっている気はするが……。


「そ、そうですか……」


ゴードンの答えに苦笑いを返すカノンはそのことには気が付いていないようだ。


さて、これは言った方がいいのか?


「おや?その反応ですと、あまりうれしくはないようで?」


「は、はい。なんだかくすぐったくて……」


「なるほど、そうですか。では聖女様がカノンさんだということは忘れましょう」


そういったゴードンに、カノンがほっとしたような顔になる。


いや、多分カノンの前で言わないようにするってだけだからな?


そんなカノンに温かい視線を向けるゴードン。


「聖女様呼びを受け入れたら楽になるのに……」


そんなカノンを面白そうに眺めているリーゼがボソッと呟いた。


「いやです!私には似合いませんって!」


カノンが語気を強めて否定する。


『似合ってると思うんだけどな……』


「ハクまで何言ってるの!?」


おっと、ついつい口を出してしまった。


そんなカノンに一瞬首を傾げそうになるゴードン。


俺の念話はカノンとリーゼにしか届けていないので、ゴードンから見たらカノンの独り言に聞こえるだろう。







そんな感じで馬車に揺られること数時間、前方に魔物の気配を見つけた。


『カノン、前だ』


「前?……あ、何かいる」


俺の言葉にカノンも気配察知を前方に集中させて、魔物の気配を察知した。


「何か?ですか?」


商人であるゴードンは流石にこの気配には気が付かないようだ。


まあ、まだ数百メートル離れているからな。


「魔物……だと思います。距離は離れてますけど進路上にいます」


「……あ、いた……ってよくこの距離で分かるよね……」


リーゼも気配察知を前方に集中させてようやくわかったらしい。


そしてカノンに呆れたような目を向ける。


「私じゃなくてハクですよ」


カノンは不本意そうに呟く。


いつもならゆっくりと見ていたい光景だが、魔物がいるというのにゆっくりはできない。


カノンもそれは分かっているようで、すぐに表情を引き締める。


「リーゼさん、アイリスさんに魔物の事を伝えてください。それと真ん中の馬車にいる……人にも!」


あ、ドムたちの名前忘れてるな……。


「分かった、行ってくる!」


リーゼはそういうと御者台から飛び降りてそのまま後ろに走っていく。


カノンも御者台から立ち上がって前の様子を観察している。


「カノンさん、魔物はどういった種類なのか分かりますか?」


そんな様子のカノンにゴードンが聞いてくる。


「えっと……」


『この感じはオークだな。数は約10匹程度』


「オークが10匹くらいです」


「オークですか……」


カノンの答えにゴードンが考え込む。


「ハク、どうしよう?」


カノンに聞かれて俺は考える。


気配の感じだと、オークは街道のど真ん中に居座っているようだ。


そしてその他の気配はないことも合わせると、俺たちの前に通った馬車を襲って戦利品を食べているのか、もしくはたまたま街道に辿り着いた群が待ち伏せをしているのかと言った所だろう。


この数ならカノン一人で問題なく処理できるが、リーゼを伝令に走らせた今カノンがここを離れるわけにはいかない。


『誰かが来るかリーゼが戻ってくるまで待つしかないな』


「分かった」


少し不満そうだがカノンは俺の提案に頷いた。






そして少しして、後ろからアイリスが走ってきた。


「カノンちゃん、オークの群って聞いたけどどうするの?」


アイリスはあくまでカノンに決めさせるつもりらしい。


「はい、先行して倒してこようかと……。アイリスさん。ここを代わってもらえますか?」


「分かったわ。気を付けてね?」


「はい、行ってきますね」


カノンはアイリスとゴードンにそういうと、御者台から飛び降りた。
























少し走ると道の真ん中で座り込んでいるオークの群を見つけた。


道の脇に転倒した馬車があり、その中から食べ物をあさっているようだ。


そして馬車の周りには人の姿も馬の姿もない。


上手く逃げられたのか、もしくはすでにオークの腹の中か……。


「ハク、行くよ!」


っと、今は殲滅が先だな。


『おう!』


俺はカノンに返事を返すと魔装を発動する。


そしてカノンが魔装の魔力を足に集め、一瞬のうちにオークの首を跳ね飛ばした。




「ふぅ…」


一息ついたカノンをよそに魔装を解除する。


魔装の解除と同時にカノンを覆っていた魔力の服は光の粒になって消えていった。


「オークだけでよかったね」


『あぁ、しかしこの馬車は……』


道の脇に転がっている馬車を見てみるが、人の一部が転がっているということもない。


血痕もさっきのオークの物しか見当たらないし、ここで虐殺はなかっただろう。


「人の気配はある?」


『いや、まったくないな』


さっきから気配察知を全開にして探っているのだが、近くにある気配は俺たちが護衛している商隊だけで、他には気配はない。


馬車の荷物を観察してみるが、特に食べ物が腐っているわけでもない。


まあ、干し肉などの保存食が数日で腐るわけでもないし、何日かここに放置されているのならこの近くに人がいない理由にも合点がいく。


それを少し前にオークが見つけて食料を漁り、そこに俺たちが通りがかったというのが妥当なところだろうか?


「どうするの?」


『とりあえずはアイリスに聞くしかないだろう』


これをどうするかの判断は流石に荷が重すぎる。


こういった事はアイリス……というかソルに聞いてみて判断を仰ぐのが一番だろう。


「そうだね……じゃあオークだけ持ってく?」


カノンはそう言って首をはねられて即死したオークの死体を指さす。


『そうだな。そろそろ休憩だし丁度いいだろう』


流石に10匹のオークは多い気もするが、食べなかった分は処分すればいいか……。


俺がそう答えるとカノンはオークの死体を次々と収納に入れていく。


そういえば最近収納スキルの容量を気にしなくなってきたな。


少しずつとはいえレベルは上がっているが、今現在、果たしてどれだけの容量を持っているのやら……。


あ、そういや首はどうするか……。


穴掘って埋めとけばいいか。


そんな事を考えている間にもオークの死体を仕舞い終えたカノンは、商隊の方に向かって歩いて行った。


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